慎吾ママから19年。香取慎吾が再び母親姿で登場するファミリーマート「お母さん食堂」のCMは、お茶の間を温かな雰囲気で包む。2018年から同社のCMに出演する香取だが、そのキャラクターに一貫性はない。あえて統一感を排した演出の意図を、同CMシリーズのプランナー・権八成裕氏に聞いた。

ファミリーマートのオリジナル総菜・冷凍食品ブランド「お母さん食堂」の新CMで、再び母親姿になった香取慎吾
ファミリーマートのオリジナル総菜・冷凍食品ブランド「お母さん食堂」の新CMで、再び母親姿になった香取慎吾
今回のキャラクター:香取慎吾
■企業:ファミリーマート

<クリエイターズファイル>
■クリエイティブ・ディレクター:権八成裕(ゴンパ)
■プランナー:権八成裕(ゴンパ)
■コピーライター:権八成裕(ゴンパ)
■アートディレクター:柴谷麻以(電通)
■演出 ディレクター:佐藤渉
■撮影:岡村良憲(STURGEON)
■広告代理店:電通、ゴンパ

抜群の認知度と愛嬌(あいきょう)でファミリーを表現

 香取が出演するファミリーマートのテレビCMは全7本。芸能人としての香取本人、父親、ありえないほど顎が伸びる“香取ファミ平”なる新キャラクター、そして慎吾母など、アピールする商品ごとにキャラクターが異なる。共通するのは、おなじみの入店音メロディーだけ。それはファミリーマートの澤田貴司社長の何気ない一言で火が付いた、権八氏のクリエイター魂があった。

 最初は「炭火焼きとり」のCMだった。SMAP解散後のCM出演で、ファンならずとも多くの注目を集めた。そこに現れたのは何とも自然体の香取。相変わらずの人懐こい笑顔でおいしそうに焼きとりを頬張る。そこに通行人が次々とやって来ては焼きとりをねだるも、すげなく断る。そんな香取に最後は全員で「芸能人のくせにドケチだな~」と集中砲火。ユニークさを際立たせているのは、すべてのセリフが入店音メロディーに乗ったミュージカル調だということ。

香取さんを起用した「炭火焼きとり」のCMの基本的な考え方について教えてください。

権八成裕(ごんぱ・なるひろ)氏(以下、権八氏) 非常にタイトなスケジュールの中で、いかに「焼きとり」のおいしさを印象づけるかを考えました。万人に愛されるチャーミングなキャラクターに加え、豪快においしそうに食べる姿も香取さんの大きな魅力。その力を借りてまずは自然体でいこうと決めました。ただ美辞麗句だけだと他のCMに埋もれるので、みんなで歌いながら話しかけ、最後にはディスってみたりする、ちょっとした違和感を入れるようにしました。

「ファミマのあの曲で会話」編。子供にねだられても断るほどのおいしさを自然体の笑顔で表現した
「ファミマのあの曲で会話」編。子供にねだられても断るほどのおいしさを自然体の笑顔で表現した

そもそも、なぜ香取さんを起用したのですか。

ファミリーマートシニアオフィサー経営企画本部マーケティング部長・松田友穂(ゆうほ)氏(以下、松田氏) コンビニ業界はおいしさや便利さなど訴求ポイントが重なりやすく、CMも単一的になりがち。その中でファミリーマートは16年にユニーグループ・ホールディングスと統合し、18年には「ファミリーマート」と「サークルK・ サンクス」のブランドを統合しました。それを受け、今後のコミュニケーション方針を改めて決める必要がありました。そこでこれまでのコンビニのCMにあまりなかった楽しさや面白さを取り入れ、「家族市場」という意味の社名を体現することにしました。

 利便性の中に楽しさがあり、目的を持ってファミマに来ていただける空間でありたいと考えたとき、天真爛漫(らんまん)な明るさがあり、数世代にわたる絶大な知名度と人気を備えた香取さんは適任で、ファミマらしさを伝えるには権八さんとのコンビしかあり得ませんでした。

 権八さんは香取さんとの関係が長く、その魅力をうまく引き出してくれると確信していました。結果、反響はとても大きく2本目の「お母さん食堂」(18年版)は、好感度ランキングでは9~11月と3カ月連続で1位になりました(CM総合研究所調べ「流通・販売業類」18年10~12月度)。

「お母さん食堂」は、ファミマの看板商品ファミチキのCM「ファミチキ先輩シリーズ」を手掛ける福部明浩氏が統合後の新戦略に合わせて17年に作ったブランド。特定のキャラクターはいなかったが、権八氏と香取のタッグでより温かみが増した
「お母さん食堂」は、ファミマの看板商品ファミチキのCM「ファミチキ先輩シリーズ」を手掛ける福部明浩氏が統合後の新戦略に合わせて17年に作ったブランド。特定のキャラクターはいなかったが、権八氏と香取のタッグでより温かみが増した

テレビCMと店頭ポスターで異なるキャラ展開

18年の「お母さん食堂」のCMでは、1作目同様自然体の香取さんが食事をし、店頭ポスターでは母親姿になりました。媒体でキャラクターを分けたのはなぜですか。

権八氏 やはり「バクバクおいしそうに食べる」姿が香取さんの最大の魅力なので、ふるまう側になってしまうとそれを見せられない。一方、店頭ポスターの訴求力は規模が大きい。ファミマは全国に約1万6500店あり、毎日平均1000人が来店する。つまり1日で約1500万人の目がポスターに触れるわけです。そこでポスターではシンボリックにPRするアイコンとして母親姿で“お店でお客さんを待ってる”キャラにしました。

店頭ポスターの親しみのある母親姿は一気に浸透した
店頭ポスターの親しみのある母親姿は一気に浸透した

2年目は、ついにCMでも母親姿になっています。

権八氏 いよいよキャラクターを動かしてもいいかと。香取さん本人の希望でもあったはずですが、「こんなにおいしく食べる僕に食べさせてくれなかった」という不満があるようです。(笑)

2年目の「お母さん食堂」では、ファーストサマーウイカと共演。慎吾母の相手役として、号泣→実食→おいしそうに食べる→あっという間に立ち直る……という落差のある芝居を、今最もインパクトを持って表現できる女優は彼女しかいないとオファーしたという
2年目の「お母さん食堂」では、ファーストサマーウイカと共演。慎吾母の相手役として、号泣→実食→おいしそうに食べる→あっという間に立ち直る……という落差のある芝居を、今最もインパクトを持って表現できる女優は彼女しかいないとオファーしたという

コンビニCMならではのスピードとダイナミズム

お母さん食堂もそうですが、毎回さまざまなキャラクターが登場します。

権八氏 実は最初は立ち位置(キャラクター)を決めてシリーズ化しようと考えていました。展開もしやすく、イメージが蓄積されることで想起されやすいという利点があるからです。例えばファミマを愛してやまないお客さん、熱血ファミマ社員、無頓着な人にファミマに出合わせる――など。ところが澤田社長の「キャラを固定する必要ある?」の一言で、言われてみれば毎回違うスタンスで広告してもいいのではと思い直しました。

 もともと1案を決めるのに何十案も考えてしまい、しかもどれも愛着を持ってしまう。澤田社長の意見はプレッシャーである一方、考える楽しさを与えてくれました。キャラクターを固定しない代わりに必ず入店音メロディーを取り入れて、それを軸にさせています。

 澤田社長の考えには、コンビニ業界のスピードが根底にあると思います。日々のルーティン自体もそうだし、世の中の動きの速さに合わせたメッセージの伝え方も刻々と変化する。いつも膝を曲げてスタンバっている感じです。当然商品によって課題が違うので、それに合わせてキャラクターを変えるというのは理にかなっている。

 例えば、(独自スマホ決済アプリ)「ファミペイ」では、いろんな“ペイ”が乱立する中で、相当インパクトがないと埋もれてしまう。そこでいかに強く面白くするかに重点を置きました。その点、香取さんは長年いろいろなキャラクターを演じてきて、独立後はますますボーダーレスに活躍している。“慎吾くんは変幻自在”という前提が視聴者にあることがとても大きかった。無名の人だと成立しなかったでしょう。

独自のスマホ決済アプリ「ファミペイ」のCM「“香取ファミ平さま御来店”」編では、“ぺ”の文字がデザインされた眼鏡をかけた長髪の“香取ファミ平”が驚きのあまり100センチ伸びたアゴでレジを破壊するというシュールさ
独自のスマホ決済アプリ「ファミペイ」のCM「“香取ファミ平さま御来店”」編では、“ぺ”の文字がデザインされた眼鏡をかけた長髪の“香取ファミ平”が驚きのあまり100センチ伸びたアゴでレジを破壊するというシュールさ

独立を経て循環するファンの愛情

さまざまなキャラクターを誕生させることの他に、コンビニのCMで感じたやりがいはありますか。

権八氏 他のクライアントでは経験できないダイナミズムを感じます。コンビニはお店自体がメディアなんです。CMではリーチできない規模の方に毎日アピールできる。

松田氏 リサーチではキャンペーンごとのテレビCMの認知度が30~40%に対し、店頭は60~70%。いかに店頭での訴求が大切かということを示しています。権八さんはCMやポスターだけでなく、AR(拡張現実)と連動したカタログなどいろんなアプローチで動線を作ってくれています。

「ファミマのクリスマスケーキ“パパの崩壊編”」(18年)。19年のクリスマスケーキはカタログだけに香取を出演させたが、香取プロデュースのケーキは2週間で完売した
「ファミマのクリスマスケーキ“パパの崩壊編”」(18年)。19年のクリスマスケーキはカタログだけに香取を出演させたが、香取プロデュースのケーキは2週間で完売した

香取さんとはSMAP時代の全日空のCM(01年)からお仕事をされていますが、一時は独立などでその後の活躍を心配する声もありました。「新しい地図」を命名するほどの関係性を築かれて、香取さんの魅力を深く知る権八さんとしては、今回のCMシリーズに対する特別な思いはありましたか。

権八氏 彼をよく見せよう、というよりはとにかくまずは商品をおいしく見せようということを念頭に置きました。ただ、(18年の「お母さん食堂」の演出を担当した)映画監督の永井聡さんには、「ファミマにとっても、みんなにとってもいざ勝負のとき」と言われました。

 その後のCMの反響をみると、(独立で)泣いていたファンの人たちが笑顔に戻って支えてくれていると感じます。もしかしたらいなくなってしまうかもしれなかった存在を温かく受け入れてくれた、というファミマへの感謝が売り上げという形になって表れている。SNS上でもコアなファンの声が一般ユーザーにまで広がり大きな渦になっていて、愛情の循環を感じます。熱は伝播(でんぱ)するのだな、と。

松田氏 そうなんです。「慎吾くんをテレビCMに起用してくれてありがとうございます! コンビニはファミリーマートに行きます!」といった手紙が届くこともあります。香取さんが出演されるようになってから、SNSでもこれまでなかった温かいメッセージをはじめ、叱咤(しった)激励が増えました。社内コミュニケーションも活発になり、まさに家族としての一体感が生まれています。

「ファミマのフラッペ」(19年)。変幻自在な香取の笑顔がファミリーマートの“家族”らしさを唯一無二のものにした
「ファミマのフラッペ」(19年)。変幻自在な香取の笑顔がファミリーマートの“家族”らしさを唯一無二のものにした

(写真提供/ファミリーマート)