マツコは不満を発言する代表者

 一方、クロネコメンバーズには致命的な課題があった。認知度と反比例して、すべての機能を活用する人が圧倒的に少なかった。2007年から始まったクロネコメンバーズの登録者数は19年10月時点で3000万人を突破した。だが、ヤマトホールディングス広報戦略担当シニアマネージャーの阿部和彦氏は、「登録は済ませたものの、すべての機能をアクティブに利用する人が少なかった」と打ち明ける。

 18年にはクロネコヤマトを象徴する“黒猫”が、寝そべっていたり歩いたりするほのぼのした映像とともに、「あなたの暮らしに合わせたい」というメッセージでサービスをアピールしたが、訴求力が弱く期待したほど浸透しなかったという。そこで「インパクトを強めるためコミュニケーション戦略を変更することにした」(阿部氏)

 新たな方向性はクロネコメンバーズのメリットを先に説明するのではなく、あえて誰もが経験したことのある不満点を強調し、視聴者の共感を得てから問題の解消につながるサービスを訴求するというものだ。

 「これまではブランド向上を考え、サービスドライバーを広告塔とするためにドライバー役のタレントを起用してきたが、お客さまにサービスに共感していただきたいと考えた。そこで不満を代表して発言するお客様役として、マツコデラックスさんを起用した」(ヤマト運輸)

 マツコを起用した新CMの開始は19年3月から。黒猫から大転換して、お客の代表にマツコを選んだ理由は何なのか。

「宅急便は、スマホで送れる。」編

若年層から圧倒的支持、サービス利用率も向上

 今回のCMでは「客として宅急便の不満を代弁してもらった後に、『こんなことができるんだ』とサービスを訴求してもらわなければいけない。そのためには歯に衣(きぬ)着せぬ物言いでズバッと話せて、かつ人柄もよくその話がまっすぐ入ってくるような人が必要だった。そんな人はマツコさん以外にいない」と、阿部氏は起用理由を明かす。

 若年層への訴求を主眼に置いていたため、同年代のタレントの起用を推す声もあったという。しかし「マツコさんは老若男女問わず人気があり、とりわけ若年層からの好感度が圧倒的に高かった」(阿部氏)と、結局は満場一致で決まった。

 スポンサー番組もニュースからバラエティーへシフトし、ヤマト運輸にとって“エアポケット”になっていた若者を意識した戦略に切り替えた。実際の反響は狙い通りだった。「クロネコメンバーズのさまざまな機能の利用率が格段に上がった」と阿部氏は成果を強調する。

 最新CMについても「宅急便をスマホで送れる新サービスは『マツコさんが出演しているCMのやつだよね』と言われ、新サービスを印象付けていただけた」(ヤマト運輸)と、マツコが持つ訴求力の高さは期待通りのようだ。

 便利に慣れてしまえば、ほんのわずかな手間でさえ不満の種へ変ぼうしてしまう。そんな自分自身への罪悪感からか、ドライバーに対する申し訳なさも含ませたマツコの人間らしい表現にもまた、“あるある”と共感した人が多かったに違いない。

(写真提供/ヤマト運輸)