日本経済新聞電子版は2019年1月から清原翔を起用した新CMで、社会の変化を表す象徴的なエピソードを描いている。何気ない日常のワンシーンの裏に潜む「経済」を、親しみやすく伝えるためあえて“種明かし”はせず、「見えてきた?」と謎を残し、視聴者の知的好奇心を呼び覚ます。

2019年1月から日本経済新聞電子版のCMに出演する清原翔。「見えてきた?オフィス育児篇」
2019年1月から日本経済新聞電子版のCMに出演する清原翔。「見えてきた?オフィス育児篇」
今回のキャラクター:清原翔
■製品:日本経済新聞電子版
■企業:日本経済新聞社

<クリエイターズファイル>
■クリエイティブディレクター:津田裕
■CMプランナー:中野ほの
■コピーライター:井上慶彦
■アートディレクター:小出鯉子
■プロデューサー:石川竜大
■監督:畔柳恵輔
■カメラマン:櫻井敬
■美術:荒井千枝
■広告代理店:McCann Tokyo

認知向上から情報価値の訴求へ

 自転車の前後にたくさんのぬいぐるみを載せ、商店街を走り抜けるおじいさん。驚く彼女の隣でさりげなく「なるほどね」とつぶやく清原翔。人生100年時代に入り、ゲームセンターが高齢者の交流の場となっているという時代背景を切り取った日経電子版のCMだ。大量のぬいぐるみの正体は、恐らくクレーンゲームで獲得した景品だろう。ややシュールな設定に、放映後「何が“なるほど”なのか分からない」と混乱する視聴者も多かった。

 他にも「子連れ出社」や、フリマアプリを引き合いにした「シェアリングエコノミーの流行」、民家に集まる外国人を描いた「民泊新法の施行」など、テーマは多岐にわたる。ただし、どれも根底に経済が関わっているという軸だけはぶれることがない。この新しいCMシリーズは2019年1月から始まり、9月時点で8本が公開されている。

 これまでの日経電子版のCMといえば、インパクト重視の印象が強い。ロックバンド黒猫チェルシーのボーカル渡辺大知を起用した、引っ込み思案だったメーカー社員の田中が日経電子版を読み出すや経済通になる「田中電子版」。横山光輝の漫画『三国志』の吹き出しを差し替え、『サザエさん』のマスオ役で知られる増岡弘など豪華声優を起用して「日経、電子のバーン!」とストレートに訴求した「知は、力なり。編」などだ。どちらもおよそ新聞社の広告とは思えない振り切り方で、大きな話題になった。

 日本経済新聞社デジタル事業デジタル編成ユニット副ユニット長の柳原正典氏は、「メインターゲットは新聞離れが著しい20〜30代。まずは認知を高めることを重視し、インパクトの強いCMで印象を残すことを目的とした」と当時の狙いを語る。どちらのシリーズもネット上でまとめサイトが作られるほどファンを獲得し、認知拡大の目的は一定の成果を上げた。

 一方、ある課題が浮上してきた。「見えてきた?」シリーズを手掛けた広告代理店マッキャンエリクソンの調査では、ターゲット層から「割に合わなそう」「読みこなせなさそう」「ちょっと古臭い」といった声があったという。月額4200円(19年10月1日から4277円)に見合う情報価値が本当にあるのか、自己表現につながるブランドなのかと懐疑的なイメージを持つ人が多いことが分かった。

 その課題を解消するため、自分ごととして情報価値を理解してもらえるようなCMを作ることにした。「日経ならではの良質な記事を読み続けていくことで、世の中の動きが少しずつ分かるようになると思ってもらいたい。無料のニュースソースが多い中でそれでも日経電子版を選ぶ理由につながれば」と、柳原氏は「見えてきた?」シリーズに託した思いを打ち明ける。

 CMのストーリー全体がある経済事象を表現したヒントとも言えるが、具体的なキーワードが登場するわけでもなく、あえて謎を残したまま映像は終わる。冒頭の「自転車おじいさんとぬいぐるみ」が良い例で、視聴者がピンとこなければ、そこに調べる手掛かりを見つけることは困難だ。

 それでもこの“謎解き構成”にこだわった理由について、同ユニットマーケティンググループの宮田大基氏は「ググっても分からないことがあることを理解してもらいたかった。答えは日経電子版で見つけてほしいという思いがある」と語る。さらに「車内広告では検索窓を付けるか最後まで議論があったが、結局付けないことにした」(同ユニットマーケティンググループの片岡美緒氏)と、コンセプトを貫いた。その代わりCMの特設サイトには謎の答えに加え、関連記事にもリンクを張り、視聴者に投げかけた経済トピックに対する理解を促す仕組みを用意した。

 20~30代は、未婚や既婚のほか、社内的にも置かれている状況がさまざまで、世代内で分断が進んでいるため、実はマス訴求するのが難しいという。そこで新CMではターゲットを「自己の成長に対して感度の高い人」に絞った。彼らに対して、キャラクター・清原翔はうまく響くのか。

「見えてきた?人生100年篇」

自己投影しやすい存在で主張より共感を狙う

 「清原さんはターゲットと年代が近く、ゼクシィ(リクルート)やNONIO(ライオン)などのCMで爽やかなイメージがある。男性ファッション誌『メンズノンノ』でのキャリアも長く、男女を問わず若いビジネスパーソンが身近に感じやすい。さらにキャラクターが強すぎないため、視聴者が自己投影しやすく共感してもらえる人物としてぴったりだった」と柳原氏。

 清原のキャラクター設定は、社会人2~3年目のリアルな会社員。等身大のイメージを表現するため、セリフやキャッチコピーからは「ですます」を省き、今どきのターゲット層が実際に使っている言葉や話し方を選んだ。

 清原の隣にいる“日経電子版を読んでいない”同僚や彼女は、目の前で起きていることの背景を理解できない。一方の清原は「なるほどね」のつぶやき一つで、「日経電子版の読者には何かが見えているらしい」ことが伝わる対比構造にした。ウェブで見られる長編では、同僚や彼女の心の焦りの声が描かれており、より「日経読まなきゃ」と駆り立てられる演出になっている。

 「日経電子版のCMといえば、使い勝手など機能面をクローズアップしがちだが、今回は“なぜ日経なのか”という、よりコアな価値を伝えているため、電子版だけでなく日経本紙でも通用するメッセージになっている」(片岡氏)

 清原に関しては、新CM放映後の19年4月にNHK朝ドラ『なつぞら』への出演で一気に注目度が上がった。日経にも「あの俳優は誰か」の問い合わせが殺到し、週によっては問い合わせ件数のトップになったことも。ちなみに「CMの起用を決めた時点では、清原さんの朝ドラ出演は全く知らなかった」(柳原氏)とのこと。幸運だった。

 現在、日経のウェブサイトの「よくあるご質問」には、「2019年1月にスタートした日経電子版のCMに出演している役者の氏名が知りたい」という項目が用意されている。答えとして記されたその名に、今では驚く人もほとんどいないだろう。

 「主演の男優は清原翔さんです」

上半期人気1位の「見えてきた?フリマアプリ篇」
上半期人気1位の「見えてきた?フリマアプリ篇」

清原翔さん一問一答

ドラマと商品の魅力を伝えるCMとでは、演技や意識がどう違いますか。心掛けていることを教えてください。

清原翔氏(以下、清原氏) CMはドラマや映画と比べて時間が短いので、とにかく瞬間瞬間の集中力というか、伝えたいこと、見せたいこと、というのはよく考えます。だから面白いな、とも思います。とにかく一瞬でもそのCMに合った良い部分を表現できたら、と心掛けています。

さまざまな社会の変化を短い時間で表現する(写真は「見えてきた?グローバル労働力篇」)
さまざまな社会の変化を短い時間で表現する(写真は「見えてきた?グローバル労働力篇」)

視聴者からの期待されるポイントなどもドラマや映画とは違うかと思いますが、その点に対してどのような意識をお持ちでしょうか。

清原氏 重複してしまいますが、CMはドラマや映画と比べて時間が短いので、伝えたいこと、見せたいことを意識しています。

日経電子版のCM撮影で特に留意した点を教えてください。

清原氏 日経電子版の今回のCMは、日常で起こっている何でもなさそうなコトが社会の流れなど、色々見えてくる、というものだったので、とにかく日常っぽく、そして僕の演じた役だけは"見えている"ので、見えたことで他の人より深く理解できて、充実している感を出せたらなと。

撮影で苦労された点や印象に残っていることがあれば教えてください。

清原氏 "なるほどね"の一言でたくさんのレパートリーを表現するのは難しかったです。

“なるほどね”の一言で日経電子版を読むメリットを伝える
“なるほどね”の一言で日経電子版を読むメリットを伝える

日本経済新聞社、また日経電子版に対してどのようなイメージを持っていますか。

清原氏 日経電子版は僕みたいな新聞に慣れていない人でもスマホで読めて、読みやすいので手軽さもあって、情報量も豊富にある印象です。

(写真提供/日本経済新聞社)