業績の足踏み状態が続いていた日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)。だがCMキャラクターに高畑充希を起用したのをきっかけに上昇に転じ、終わってみれば対前年約105%の売り上げを達成した。普段でも「KFCへ行こう」というメッセージを、ユーザー目線で訴えたのが奏功した。
(レッドホットチキン「セッティング編」)
■クリエイティブ・ディレクター:髙田毅
■アートディレクター:西浦晃史
■プロデューサー:渡部直之/三浦洋輔/池田成克(すべて、博報堂プロダクツ)
■監督(演出ディレクター):岩井克之(motto)
■カメラマン:米田要(フリー)
■音楽:山田勝也(愛印)
■広告代理店:博報堂
クリスマスとファミリーのイメージが強すぎた
「今日、ケンタッキーにしない?」のキャッチフレーズとともに画面いっぱいに現れる高畑充希のおいしそうな表情。チキンをがぶりと大口でほおばる姿が、視聴者の食欲を刺激する。
このCMシリーズが始まったのは2018年6月。コンビニエンスストアでのフライドチキン販売の影響や外中食産業の多様化で、堅調ながら勢いにやや欠けていたKFCの売り上げは、放映直後の7月から大きく上向き始めた。反響の裏に高畑のキャラクター効果があるのもちろんだが、KFCの弱点を克服するコミュニケーション戦略の強化が大きい。
KFCは1970年3月、日本万国博覧会にKFCインターナショナルの実験店を出店したのを皮切りに、同年11月に名古屋に1号店をオープンし、本格的な国内展開を始めた。当時は専業主婦家庭がほとんどだったため、商品やCMもファミリー層へ訴求する戦略だった。74年には「クリスマスにオリジナルチキンを食べよう」という、季節感を打ち出すキャンペーンを展開。これらの戦略が当たり、ケンタッキーフライドチキンは「クリスマスにファミリーで食べるもの」という認識が定着した。
だがその印象の強さ故、ファミリー以外の客層の足を遠ざけ、クリスマス以外の季節の需要が伸び悩む一因になっていった。
「家族の形態が変わり、ニーズも変化し続けている。現在は個食化が進み、イートインの場合はファミリーで来店しても、1人ずつセットで注文する方が多い。若者への訴求も課題。ケンタッキーのチキンが上陸した当時のインパクトを知るシニア層は今でも来店してもらえるが、選択肢が有り余る今、ブランドだけでは若者は利用しない。若者が顧客にならないと停滞する業界なので、無視できない。さらにクリスマス需要の強さを保ちつつ、日常使いへのアピールも必要」と、日本KFCマーケティング部長の中嶋祐子氏は、KFCが抱える課題を打ち明ける。
そこで1人でも食べきりやすいサイズのセットメニューを強化。ランチタイムには500円でオリジナルチキンにドリンク、ビスケット、ポテトが付いてくる「Sランチ」など、若者も手に取りやすい手ごろな価格のメニューを並べてバリュー戦略を取った。併せて、ロゴやパッケージデザインも現代風に変えた。
高畑のCMはこうした戦略とマッチするよう企画され、幅広い層への訴求と日常使いのアピールを両立させたのが「今日、ケンタッキーにしない?」のキャッチフレーズだった。「これまでも『食べたくなるなる、ケンタッキー』など日常使いをアピールしてきたが、ここまでストレートな言い回しは初めて」と中嶋氏。
では、なぜこのメッセージを伝えるキャラクターが高畑なのか?
高畑のおいしそうに食べる姿が決め手
中嶋氏は高畑の起用理由について、「ユーザー目線でおいしさを伝えてもらえる人を条件に選定した。高畑さんはキャラクターが強すぎず、どんな役でも演じ切られている。気取らず“Girl next door(隣に住んでいる女の子)”のイメージで、等身大の若いユーザーの代表になってもらうのにピッタリだった。特にいろいろな作品の食事シーンで、とてもおいしそうに食べている姿が印象的だった」と、高畑の柔軟な演技力と気取らない魅力、何よりおいしそうに食べる姿が決め手だったと語る。
現在のところこのCMシリーズは19本あり、高畑はどれもひたすらおいしそうにチキンを食べ、ストレートにおいしさを訴える。さらにロゴや音楽も統一し、パターンを決める(フレーム化する)ことで、メッセージが浸透しやすい仕掛けを作った。「繰り返して同じ音楽、キャッチフレーズを伝えることで、ボディーブローのようにじわじわと認知が広まっていった」と、中嶋氏は高畑出演のCMから新たに取り入れたフレーム化に手応えを感じている。
同一フレームの採用は、ターゲット別にさまざまなシーンを描いてもブランドイメージがぶれないという利点がある。その効果を生かし、ドライブや花火などのシーンではこれまで同様、ファミリー層を含めたグループでの利用を訴える。さらに今回は、高畑が店内や家で1人でチキンを食べるシーンを増やし、1人利用に対する気づきを与えようとした。高畑を起用したCM放映後は、SNS上で「今日、ケンタッキーにしない?」と言いながら、平日にケンタッキーのチキンを食べる様子を投稿する人が格段に増えたという。「日常使い」をアピールしたい同社の戦略は見事にはまった。
KFCの主力商品「オリジナルチキン」をはじめ、原料の鶏はすべて契約農家で飼育し、飼料も指定するなど徹底した品質管理を行っている。おいしさと安全性も強く訴えるため、独自の認定資格「チキンスペシャリスト」を取得した調理責任者もCMに起用した。
1939年にカーネル・サンダースが開発した秘伝のスパイスを忠実に守り続けてきた日本KFCは、2020年に創業50周年を迎える。グローバルタグラインは「it's finger lickin’ good(スパイスが付いた指までなめたくなるほどやみつきになるおいしさ)」だ。CMで見せた高畑の親近感あふれる食べっぷりがそれを体現したからこそ、何の変哲もない日常に、KFCへ足を運ぶ人が増えたのだろう。
なつかしCMギャラリー
(写真提供/日本KFC)