レジリエントな長澤まさみで従業員へも本気度を示す

 長澤起用の理由について、大津氏はこう話す。

 「長澤さんはキャリアが長くさまざまな役に体当たりで挑戦し、見るたびに違う顔を見せてくれる女優。美しいのにおちゃめな一面もあり、自分の殻をどんどん破っている。固定観念にとらわれることなく、常にしなやかに変化し成長し続ける意思をお持ちだと感じ、当社の思いを表現いただくにふさわしい方だと考えた。企業や社員としての思いを、彼女の口を介して伝えてもらいたいと願った」

 タレント起用に社内の反発もあったという。だが、「最後のひと押しは彼女(長澤)であることだった」(大津氏)。長澤への絶大な信頼と共感こそが起用の決め手となった。長澤も今回の出演に対し、「(自分と)共通する部分が多い。だったらこうしよう、は非常に共感できる」と自身の生きざまに通じるものを感じていた。

 異例のタレントCMに視聴者も食いついた。CM好感度調査ではこれまで訴求できなかった20代男性からの支持が高かったという。若い層が視聴する番組にCMを打ったことも奏功した。これまでの両社なら“ありえない”タレント起用に加え、生まれたばかりの統合新会社を世に知らしめるという難しいお題も表現面でうまく作用したのか、「長澤まさみに見えなかった」という声に大津氏は、「彼女のレジリエントな部分を表現できた。驚きでさらに印象に残って、してやったりの気分」と満足げだ。

 もう1つうれしい反応があった。全国約6500カ所のガソリンスタンドを含む従業員からの支持だ。経営統合の話が15年7月に明らかになって以来、その歩みは決して順調とはいえなかった。苦難を乗り越えようやくまとまった両社。出光興産と昭和シェル石油のブランドカラーである赤とグレーを身に着けた長澤は、統合まで従業員たちが抱えてきた不安を払しょくした。

 「本当に一緒になったんだ、という声をたくさんもらった。離れた事業所へもメッセージを届けられて仲間なんだと思ってもらえ、会社の一体感ができた」と大津氏は素直に喜ぶ。長澤の起用についても「魅力的に表現してくれた」「よくやった」と好意的な声がほとんど。特に特約販売店からは「長澤さんを起用したことで(統合新会社の)本気度が分かる」と声を掛けられ、1本のCMが信頼感につながった。人材の大切さを表す「人は無限のエネルギー。」をコンセプトに、CMに従業員も出演させている出光昭和シェルにとって、期待した以上の“副産物”だった。

出光昭和シェルの従業員も出演した
出光昭和シェルの従業員も出演した

 大津氏は「長澤さんが出演していなければここまでの反響はなく、こちらの本気度を示せた。今後も続けて出演してほしい」と、手応えを語る。

 広告は市場の顧客に向けて放つもの。さらに出光昭和シェルは異例のタレント起用が生むインパクトと長澤の発信力を、統合のきずなが揺るぎないものであるという“証し”としても活用し、従業員やグループ関係者に強いメッセージを届けた。難航の末の経営統合だったが、新キャラクター長澤の存在は新たな船出を照らす日の出となった。

交通広告でもアピール。19年4月1日には社員の期待感を高めるため、支店のある主要駅にポスターを掲示
交通広告でもアピール。19年4月1日には社員の期待感を高めるため、支店のある主要駅にポスターを掲示

風をとらえるしぐさでしなやかさを表現

 朝霧が立ち込める海岸沿い。薄暗い森林を抜け、ひらけた崖の上に降り立った長澤が、「だったらこうしよう。」という柔軟性と強さを大切にする企業姿勢を、自身の思いに重ねて宣言する。グレーのショールで風を柔軟に受ける姿でしなやかさを表現する。

強い風すら味方に

強い風も味方にする身のこなし
強い風も味方にする身のこなし

 CMは19年3月上旬に千葉県の屏風ケ浦周辺で早朝から撮影した。長澤は監督や振付師と幾度となく相談し、さまざまな表情や動きで表現。強い風が吹く厳しい条件での撮影だったが、「長澤さんはその風をも味方にしているような感じだった」(出光昭和シェルブランド・コミュニケーション課の堀智尋氏)。時折シフォンのスカーフが顔や体に巻き付いてしまい、長澤が笑ってしまうシーンもあったという。

(写真提供/出光昭和シェル)