“ガッキー”の美しさが強く印象に残る、まるで新垣結衣のプロモーションビデオのようなCMで、GMOクリック証券は「広告をしない究極のCM」という大勝負に出た。「人生で大切なこと」をテーマに、4年以上もの間“新垣の世界”を発信し続ける同社の狙いは、ブランドのメジャー化だった。
■クリエイティブディレクター:志伯健太郎(GLIDER)
■アートディレクター:小関友未(GLIDER)
■プロデューサー:早坂匡裕(GEEK PICTURES)
■監督(演出ディレクター):山田智和(CAVIAR)
■カメラマン:今村圭佑(VOYGER)
■広告代理店:パレード
■音楽:The Birthday「星降る夜に」
認知徹底から共感へ
「船よ、進め。時代よ、ついてこい。小さなこと、気にしている暇はないぞ」――。海に浮かぶ船上を新垣結衣が真っすぐ歩く。パンツルックに打ち掛けのような衣装をまとうエキゾチックなモダンスタイル。
GMOクリック証券が新垣を起用するCMシリーズ「Life is~」の9作目となる本作「Life is a Revolution.」のテーマは、「変化・革命」。2019年5月に放映されるや、堂々とした美しい姿にネット上では「まるで現代のジャンヌ・ダルク」という声が上がるなど話題になった。
この映像がGMOクリック証券のCMだと判別する手掛かりは、最初と最後に表示される同社のロゴ、そしてエンディングに流れる新垣のナレーションのみ。サービス内容や手数料に触れるわけでもなく、とても証券会社のCMとは思えない。恐らくこれを見て、「投資始めよう」と思う視聴者はほとんどいないのではないだろうか。
1作目から描いてきたのは、人生で大切な何かを探し続ける新垣の姿だ。GMOクリック証券マーケティング室長の青柳真哉氏は、このシリーズで「広告をしない究極のブランド広告を目指した」と話す。
「人生で大切なことを実現していく上でお金はどうしても大切な要素の一つ。そのなかでも資産形成というのは人生の目標や夢の実現のサポートする重要なものだと考えている。もっと多くの人が投資を身近な存在に感じてもらえてお手伝いさせてもらえればという思いでシリーズを届けている」と青柳氏。ただその狙いが、新垣の起用とプロモーションビデオのような映像とどう結び付くのか。
あえて「広告をしない」という振り切ったコミュニケーション戦略で、GMOクリック証券が大勝負に出たのは、後発のネット証券会社として一皮むけるための“起爆剤”が必要だったからだ。
GMOクリック証券が取引を開始したのは06年。知名度が低かった当時のCMは、お笑いタレントの松本人志を海辺で木馬に乗せたり、野菜のかぶを手に象に乗った女性(タレントの吉永実夏)が、村の住民と「クリック」「株」を連呼したりするといった、インパクトが特徴だった。「何より社名の認知徹底を重視した」と、GMOクリック証券取締役でマーケティング室管掌の原好史氏は振り返る。
取引システムなどを自社で完結して手数料を抑え、UI/UXの使いやすさにも定評のあった同社は外国為替証拠金(FX)取引を中心に事業拡大を続け、12年に年間のFX取引高で世界一になった。15年にはジャスダック上場を果たし、それを契機に同社はCM戦略の転換を図る。企業名やサービスの訴求ではなく、企業ブランドでメジャー化を目指す方向へ舵(かじ)を切ったのだ。
原氏は「インターネット証券による投資を身近に感じてもらうことで、より初心者の方にも選んでもらえるよう、誰からも愛されるブランドを目指すことにした」とビジョンを語る。
そして、一気にネクストステージへ駆け上がるための鍵を託したのが新垣だった。
アンチがいないガッキーで日本中に好感を
インパクト重視から、ワンランク上の世界観を表現するCMキャラクターに新垣を選んだ理由について青柳氏は、「多くの人に愛されている新垣さんなら、的確で自然にメッセージを表現してもらえると確信した。素材そのものが素晴らしい新垣さんをさらに美しく表現できれば、企業ブランドの価値を上げられると考えていたので、彼女のプロモーションビデオのようになっても良かった」と打ち明ける。
さらに原氏は「好感度調査が上位の方でも、同時に嫌い・あまり好きではないという数値も高くなる傾向があるが、新垣さんは1位でかつ“嫌い”と言う人が皆無」と、性別や世代を問わず極めて高い新垣の好感度も、起用の決め手になったという。
Life is~シリーズでは、衣装を着たまま水中に潜り、水の中で目を開けながらほほ笑んだり、難しいスウェーデン語を話したりと、ハードルの高い撮影も多い。しかし新垣は「嫌がることなど一切なく、むしろ『次は何?』と楽しみにしてくれている」(原氏)と、積極的に挑戦するのだという。「証券取引で活躍するのはトレーダー自身。新垣さんが挑戦する姿を描き続けることで、我々はトレーダーをサポートする側だということを表現していきたい」と原氏。
「Life is ~シリーズは、GMOクリック証券が提供するサービスや商品、キャンペーンについて一切触れず、あくまでブランド広告を意識して作っている。クリエイティブで私たちが大切にしていることは、新垣結衣さんの新たな魅力を最大限に引き出す世界観を作り上げること。世界において輝く新垣さんの姿を通じて私たちの思い、言葉を届けたい。誰も知らなかったような新しい新垣さんの表現力を通じて、“人生とは”という大きなテーマに対して考えるきっかけを作ることができれば」と、青柳氏はLife is ~シリーズに込めた熱い思いを明かす。
新垣が登場するCMシリーズが始まり、SNSでは「クリック証券っていいね」と肯定的な反応が大きく増えたという。今すぐ投資を始めなくても、いつか思い立ったときに同社の名を想起してもらえればいいとのこと。その“いつか”に向け、潜在的な若い顧客を引き付け続けるため、年2~4パターンのCMを制作して新鮮さを持続させる。
旬の新垣を登場させれば、たやすく多くの視聴者の目を引きつけられるかもしれない。だが、シリーズ化はマンネリとの戦いでもある。GMOクリック証券はこれまでの4年間、ただ“美しいガッキー”で勝ち抜いてきたわけではない。思わず聞き入ってしまう叙情的な台詞(せりふ)や不思議な世界観を漂わせる映像表現といった演出のすべてに、“挑戦”というメッセージを潜ませてきた。それによって、CMの裏コンセプト「まだ見たことのないガッキー」を伝えることに成功したからだ。これからも挑み、視聴者の想像を超え続ける限り、この“連勝”が途絶えることはないだろう。
和製ジャンヌ・ダルクで新時代への強い意志を感じさせる
船上をまっすぐ堂々と歩く新垣。りんとしながらも優しくほほ笑む新垣をクローズアップしていく。希望に満ちた表情で、真っすぐに前を見つめる。背後から迫ったラストシーンでは、東京のビル群を映し出す。船上から東京を見つめる新垣の後ろ姿に、新たな時代を生きる強い意志を感じる。
過去のガッキーを一挙公開! なつかしCMギャラリー
(写真提供/GMOクリック証券、パレード)