平成元年に誕生し令和元年に30周年を迎えた大塚食品「シンビーノ ジャワティストレート レッド」。ソロキャンプのYoutuberとして人気のお笑い芸人ヒロシとコラボした、Youtube動画の再生数は公開3日で11万回。辛酸をなめつつスタイルを貫いてきた両者の共感で新規開拓を目指す。

「シンビーノ ジャワティストレート レッド」の30周年キャンペーン動画はヒロシが制作・出演した
「シンビーノ ジャワティストレート レッド」の30周年キャンペーン動画はヒロシが制作・出演した
今回のキャラクター:ヒロシ
■製品:シンビーノ ジャワティストレート レッド
■企業:大塚食品

<クリエーターズファイル>
■制作・撮影・出演:ヒロシ

30周年の節目で採用した“静かな”プロモーション

 無糖、香料・着色料無添加、ジャワ島産茶葉100%――。シンビーノ ジャワティストレートが発売から貫いてきた3つのこだわりだ。大塚食品飲料事業部ジャワティ担当PMの森川慎太郎氏は、「発売当時、甘みのある飲料が主流で無糖飲料はウーロン茶しかなかった」と、ジャワティがいかに市場に新規性をもたらしたかを訴える。

 開発の発端は1982年発売のアップルサイダー「シンビーノ」。スペイン語でwithout(ない)を意味する「Sin」にワインを意味する「Vino」を足した造語で、コンセプトはノンアルコールのテーブルドリンクだ。しかしわずかに含まれる“甘み”が和食に合わなかった。そこで「どんな食事にも合う無糖飲料」を目指したのがジャワティだ。当時の大塚明彦社長が米国で飲んだ無糖アイスティーが、さまざまな食事に合うのに衝撃を受けたことも開発を後押しした。

 世界中で茶葉を探し、出合ったのがジャワ島産茶葉だった。温暖な気候と昼夜の寒暖差による深い霧、水はけの良い火山性の土壌が育てる茶葉は、すっきりとした味わいと香りに加え、いれた紅茶が鮮やかなこはく色になるという特徴を備えていた。製品化に至るまでには、「渋みを抑えたり、無糖でにごりなく仕上げたりすることに苦戦したが、独自技術を開発した」と森川氏は振り返る。

 89年5月24日に発売されたジャワティは、目新しさもあって好調な滑り出しだった。本木雅弘が「ウーロン茶もいいけど1度試してみたら。どんな食事にも合う、合う」と言いながら奇抜な格好で出演するCMも話題に。オシャレな雰囲気で女性を中心に人気に火が付いた。その後も三船敏郎や石川亜沙美、田中律子を起用し、「ジャワジャワジャワジャワ~」の音楽とともに認知度を高めていった。

 ところがその後、他メーカーが無糖飲料に続々参入し、いつしか市場は無糖商品であふれた。健康志向の高まりで甘さが敬遠されると、世は“無糖飲料戦国時代”に突入。ジャワティの売り上げも94年をピークに「多くのユーザーが離脱した」(森川氏)という。

 それにもかかわらず、ジャワティは大幅な商品リニューアルを選ばなかった。製品コンセプト、3つのこだわりを守り抜き、そして……戦国時代を生き残った。大塚食品の執行役員で飲料事業部長の金子忠晴氏は、「かつては1000ある商品で3つしか生き残れないといわれた飲料市場。今はさらに難しくなっている中、何とか愛飲者の“ジャワティ愛”のおかげで生き抜いてこられた」と話す。

発売30周年を迎えた大塚食品「シンビーノ ジャワティストレート レッド」のボトルには、初めて「無糖紅茶」の文字を入れて無糖であることをアピールする
発売30周年を迎えた大塚食品「シンビーノ ジャワティストレート レッド」のボトルには、初めて「無糖紅茶」の文字を入れて無糖であることをアピールする

 そして19年5月24日。30周年の節目でジャワティが選んだプロモーションは、お笑い芸人のヒロシによる1本の動画の公開だった。

 ヒロシが1人で黙々とキャンプ。自然の静けさの中、料理をしながら、食べながら、時折ジャワティを口に運ぶ。パチパチとはぜるたき火にかけた水筒から温かいジャワティをカップに注ぐ。ひとすすりして、「ハーッ」と深い息を吐く――。ヒロシ自身が撮影しているため、ほとんど本人の姿は映らない。ジャワティ自体の露出も全体で10分ほどの動画のうちトータルでわずか1分少々。“ソロキャンプ”の世界観を壊したくないこともあるのか見せ方は極力控えめで、最後に現れる商品ロゴを除けば、あえてジャワティの“存在感”を消しているような演出だ。

 記念すべき30周年のプロモーションが、なぜこんなにも“静か”なのか。なによりヒロシをキャラクターに起用した理由はどこにあるのか。それは、ジャワティと響き合うものが彼のスタイルにあったからだ。

1人で黙々とキャンプする様子をヒロシ自ら撮影。ジャワティのアピールはさりげない
1人で黙々とキャンプする様子をヒロシ自ら撮影。ジャワティのアピールはさりげない

「ヒロシです」を貫いた15年に共感。新しい一面にも注目

 自然な、ジブンで、生きていく――。ジャワティの新しいメッセージには、これまで一貫してぶれなかった自分たちの姿勢への矜持(きょうじ)が表れている。

 一方、ヒロシは「ヒロシです」のフレーズから始まる悲哀漂うホスト役のコントで、04年ごろからブレイクし、著書も50万部を売り上げるなど人気は絶頂に達した。しかし大手プロダクションを辞めた後、少しずつ主要メディアでの露出が減少。そんな彼を「一発屋」と称する向きもあった。

 だが、ヒロシはヒロシを演じ続けた。2019年には芸能生活15年を迎える。15年にはソロキャンプ好きが高じてYouTubeに「ヒロシちゃんねる」を開設し、1人でキャンプを楽しむ様子を投稿し続け、19年6月初旬時点での登録者数は41万人を突破した。好きなことを仕事にするという内容の著書『働き方1.9 君も好きなことだけして生きていける』(講談社)は、アマゾンの起業・開業ノンフィクション分野で3位(6月12日時点)を獲得し、彼の生き方は多くの共感を呼んでいる。

 ジャワティ30周年のコミュニケーションを、テレビCMより消費者に近い手段で伝えたいと考えた大塚食品は、YouTubeを選んだ。「じっくりYouTube動画を見ていただくことで、ジャワティが30年前から訴求しているこだわりを伝えたかった」と、大塚食品広報室専任課長の後藤あゆみ氏は語る。

 ヒロシ起用の理由について森川氏は、「自然で飾らないスタイルを、周りの環境が変わっても貫いている。さらに好きなことにも挑戦し続ける姿に深く共感した」と語る。

 一本気を貫くジャワティとヒロシのこだわりが詰まった動画は、公開から3日で11万回以上再生され、現在(6月13日)は22万回を突破している。コメント欄には、「ジャワティ史上最高のCMだと思う」「ヒロシくんてセンスすごい。何千万円もかけた広告よりおいしそう」と好意的な反応が寄せられている一方、「ジャワティが一番シンプルでおいしいと思います。でも、近所ではどこにも売っていません」と、商品を見つけられない視聴者からの書き込みも目立った。

 ヒロシは大衆に迎合することなく、自分を愛してくれる“少数派”を大切にしてきた。それがいつしか実を結び、彼の生き方に共鳴する人は確実に増えている。その結果は、ジャワティが仕掛けた「キャンプ動画」の視聴回数を見れば明らかだ。30年もの間、製品としての“生き方”を貫き続けてきたのはジャワティも同じ。互いに響き合えば、ジャワティもヒロシのようにより多くのファンを獲得できるだろう。

「ジャワティを見つけづらい」というユーザーの声をもとに、販売している場所を見つけてツイートすれば抽選でヒロシが選んだアウトドアグッズをプレゼントするキャンペーンも実施した
「ジャワティを見つけづらい」というユーザーの声をもとに、販売している場所を見つけてツイートすれば抽選でヒロシが選んだアウトドアグッズをプレゼントするキャンペーンも実施した

顔が映るのはわずか3秒。さりげなくロゴをアピール

一息つきたくなったのでのんびりティーキャンプ
一息つきたくなったのでのんびりティーキャンプ

 YouTubeで公開した「一息つきたくなったのでのんびりティーキャンプ」と題した動画の長さは10分27秒。そのなかでヒロシの顔(頭部)が映るのはわずか3秒。ハンモックを張ることから始まり、固定したカメラでソロキャンプの様子を黙々と撮影する。たき火を起こし、そこで調理したギョーザの傍らに置いたり、夜にはやかんに入れて温めて飲むなどさりげなくジャワティを登場させる。最後にBGMとともにジャワティと30周年を表すロゴが出る。

ヒロシさん直撃「湯気が出ているのが“萌え”ポイント」

動画を作成するにあたってのこだわりを聞いた
動画を作成するにあたってのこだわりを聞いた

今回、ジャワティのキャラクター依頼があり、どのように思われましたか。

ヒロシ 発売当時、まだ17歳で熊本で「おしゃれな飲み物が出てきた」と思っていた。まさか30年後イメージキャラクターになるとは夢にも思いませんでした。

大塚食品の担当者はヒロシさんの姿勢に共感したということですが、ヒロシさんからジャワティへの思いはいかがでしょうか。

ヒロシ 僕は「ヒロシです」を15年続けてきたけど、ジャワティはその2倍、中身を変えずに貫いている。大変な苦労があったんじゃないかと思う。自分の生き方に疑問を持つときもあったが、ジャワティを見習ってこのまま続けていきたい。

いつもの動画撮影とは違って意識した点はありますか。

ヒロシ 普段通り作っているつもりですが……、やはりちょっと力が入り過ぎているところがありますね(笑)。いつもより丁寧です。普段はキャンプのついでに動画を撮っているというスタンス。目の前のたき火を撮りたいと思えば、カメラのスイッチを入れる。(今回は)たき火を撮ろうと意識した。撮り逃しのないように気を付けました。

商品の出し方なども意識された?

ヒロシ そうですね、やっぱりそこは難しかったですよね。

動画のプロットはすべてヒロシさんに一任されていたんですか?

ヒロシ 基本的には。いつもは撮れた分だけで編集しているので、5分だったり20分だったりするのですが、今回は目安の時間を決めて撮りました。

行き慣れた場所で撮影されたのでしょうか。

ヒロシ 前に一度だけ行って良かった場所をチョイスしました。静岡のキャンプ場で、特別に許可をもらって通常のキャンプ地から外れた場所で撮らせてもらいました。そのほうがよりワイルドな感じがしていいなと。

ジャワティは表現しやすかったですか?

ヒロシ そうですね。紅茶と聞いて、すぐに「やかん(火にかけられるアウトドア用の水筒)で沸かそう」と思いました。そのまま飲むときもありますが、キャンプに行くと沸かしたいという衝動に駆られるんですよ。

やはり火を使いたい?

ヒロシ そうなんですよ(笑)。湯気が出ているのが“萌え”ポイント。やかんを火にかけると、シュンシュンシュンシュンと音がして、湯気が出るじゃないですか。それを耐熱のグローブで握って、ステンレスのマグカップに注ぐときに、ジュジュジュッとなってまた湯気が上がる。そこはマストでやろうと思っていました。

たき火で温めたジャワティを食事とともに味わう夜
たき火で温めたジャワティを食事とともに味わう夜

シズル感も出せるという点では、お茶は良かったですね。

ヒロシ ええ、やっぱりキャンプに合わない商品ってあるじゃないですか。極端に言えば、大きな4Kテレビなんかは(PRするのは)無理ですよね(笑)

キャンペーン動画ですが、これまでの世界観は譲れないという思いはありましたか。

ヒロシ 相当強いです。例えば香水をPRしてほしいと言われても無理がありますし……。自分の世界観に沿ったものしかできません。

商品が押しつけがましくなくかなり自然に入り込んでいますが、意識して作られましたか。

ヒロシ もちろん、意識はしています。(とはいえCM動画という)その辺りのさじ加減は難しかったですね。

冒頭のジャワティのアップ以外はほとんど商品は目立たない
冒頭のジャワティのアップ以外はほとんど商品は目立たない

かっこいい動画ですが、本当に今回も1人で撮られたんですか?

ヒロシ 本当です。逆に誰かにいられるとあの静けさがでないんです。カサっと音が鳴っただけでも撮り直しなので。さっきの「ジュジュジュッ」を撮りたいとき、ミシッと聞こえたらもう使えないんですよ。ですから、誰もいない状況を作ってもらいました。

 管理棟などの人工物を映さないというのも普段から心がけています。できるだけキャンプ場じゃなさそうな雰囲気にして、ワイルド感を演出したい。とはいえ、本当は振り返れば家があったりするんですが、できるだけ野に放たれた浮世離れな感じを表現したい。

ヒロシ本人が映るのも冒頭でハンモックを設置する場面のみ
ヒロシ本人が映るのも冒頭でハンモックを設置する場面のみ

普段からキャンプでは紅茶を飲まれますか。

ヒロシ 僕はお酒が飲めないので、お茶とか紅茶とかになります。ソロキャンプ仲間はみんな酒を飲んでるんですけどね。今では仲間は9人くらいで、みんなYouTube始めたんです。

YouTubeは開拓しがいがありますか。

ヒロシ ……僕にとっては、ありますね。

 チャンネル登録者数が多くなってきているのですが、あれは僕はたき火とか、「ここが僕の萌えポイントなんだ」っていう(自分の趣味嗜好で発信している内容に共感してくれている)。極端にいえば、たき火だけを3分間撮っている動画もある。基本的に(世の中の)9割の人は興味がない。でも、残り1割、もっと少ないかもしれないけど、そんな人たちにはすごく響く動画なんです。

 そういうのは普通のメディアでは扱ってもらえない。それが今は自分でできるというのが僕にとっては非常にありがたいし、助かっています。

コアな視聴者に向けてキャンペーン動画を打っていくというのは影響力は期待できそうですか。

ヒロシ そうあってほしいと思います。どの程度響くかは……。僕、毎回分からないんですよね、YouTubeのツボが。動画でも再生回数が違うんです。力をすごく込めても伸びなかったり、適当に作ったものがぐんと上がったり。まだまだ分からない世界です。手ごたえについては予測できないですね。

最後はジャワティ30周年のロゴとともにBGMが流れる
最後はジャワティ30周年のロゴとともにBGMが流れる

(写真/酒井康治、画像提供/大塚食品)

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