洗濯用洗剤で30年間トップの花王「アタック」が、2019年4月「アタックZERO」にブランドを一本化。世界初技術の認知を図ったCMは従来の概念を覆す。5人の“イケメン俳優”の起用が話題となり、4月後半のCM好感度は2164銘柄中1位。中心顧客である主婦層のハート奪取に成功した。
松坂桃李、菅田将暉、賀来賢人、間宮祥太朗、杉野遥亮
■クリエーティブディレクター:篠原誠
■プランナー:鈴木晋太郎
■コピーライター:岩田純平
■アートディレクター:嶋田真之介
■プロデューサー:廣木翔吾
■ディレクター:浜崎慎治
■カメラマン:近藤哲也
■広告代理店:電通
驚異の洗浄力を「洗浄力」と言わずに伝えろ!
汚れゼロ、洗剤残りゼロ、ニオイゼロ――。花王が約10年の開発期間をかけ、これまで廃棄されていたヤシの実の搾りかすから作った世界初のサステナブル(持続可能)な新基剤「バイオIOS」は、驚くほどの洗浄力を発揮した。その自信は、家庭に広く浸透した「アタック Neoシリーズ」を廃止し、バイオIOSを配合した「アタックZERO」にブランドを一本化するという決断に表れている。
アタックZEROが持つ革新性をいかにして消費者に訴えるか。手段を間違えれば、洗濯用洗剤市場で30年間守り続けたトップブランドに傷を付けてしまう。ただでさえアタックは、洗濯洗剤故のある“弱点”を抱えていた。
花王のファブリックケア事業部ブランドマネジャーの野村由紀氏は、「洗濯洗剤に対する消費者の関与度が低い。昔から使っているものを使い続ける人が多いため、自分から製品情報を積極的に調べない。アタックは売り上げこそトップだが、関与度は花王製品の中で最も低い」と苦渋の表情を見せる。
もはや細かいことなど気にせず使い続けてくれるのだから、なんともぜいたくな悩みではある。しかし、こうした惰性的な消費行動が、機能や特性を訴えたい場合には仇(あだ)となる。関与度が低ければ、製品が革新的であるほど開発者やマーケティング担当者のメッセージが“空回り”しかねないからだ。
この問題を解決するため、新製品のCMを流すメディアについては「(ターゲットとなる消費者の関与度が低いので)デジタルのように自分で探しにいくメディアでは伝えきれない。やはりテレビで伝えるのが一番影響力がある。そこで両メディアを駆使してアピールすることにした」と野村氏。
ここで最も気を配ったのが「ありふれた言葉を使わない」(野村氏)ことだった。白さや汚れの落ちやすさ、洗浄力をストレートに訴えても、既存のCMに埋もれる恐れがあるからだ。野村氏は「過去の洗濯洗剤CMで使用されたフレーズをリストアップし、そこに挙がった言葉を徹底的に排除した」という。
その半面、「アタックZEROは洗浄力の高い洗濯洗剤という“マス中のマス”の商品。オールターゲットでメジャーの位置を狙わなければならない」(野村氏)という使命がある。“全方位で狙う”とはいえ、購買層の中心は主婦だ。
難問に対する答えは、洗濯洗剤のCMには登場しなかった「旬のイケメン俳優を5人そろえる」ことだった。その理由を野村氏は「イケメンが話題に上れば盛り上がる」と言い切る。
人数を「5」にしたことにも理由がある。野村氏は「今回のアタックZEROの5つの優位点を解説するため。汚れを気にする人、においを気にする人、洗剤残りを気にする人、ワンハンドプッシュが好きな人、ドラム式の洗剤を求める人と、それぞれに興味がある人ということで、5人に決めた」と話す。
登場1カ月でCM好感度トップを獲得
花王が5人のキャラクター選びで重視したのは、「ストーリーの中で嫌みなく伝えられる人。キャラがかぶらずそれぞれの世界観が確立している人。芝居ができる人」(野村氏)。
その条件をクリアして名前が挙がったのが、松坂桃李、菅田将暉、賀来賢人、間宮祥太朗、杉野遥亮。いずれも旬真っ盛りの人気若手俳優だ。「この5人のスケジュールが合わせられたこと自体が奇跡だった」と野村氏自身も驚きを隠さない。
革新性を掲げる商品だけに、伝えたい特性はたくさんある。そのため花王は今回「伝えたい特性ごとにCMを分ける」ことにした。
制作したCMはキャラクターの人数と同じ5種類(CMのストーリー設定を紹介する「ゼロ洗浄、はじまる」編を加えれば全6種類)。1本のCMで1つの特性を伝達し、5種類のCMを“全部クリア”すればアタックZEROの本質が浮かび上がる。とすれば、そこに不可欠なのはCMシリーズ全体を貫く魅力的なストーリーだ。ここでも花王はとっぴな展開を仕掛けてきた。それは洗濯を心から愛している者だけで結成された社会人サークル、「#洗濯愛してる会」のメンバーが、待ち焦がれていた画期的な洗剤を手に入れ、各自の得意分野を生かしてアタックZEROを分析するという、おそらく“あり得ない”設定だった。
クリエーティブディレクターの篠原誠氏は、「洗剤史上かつてない革命的な商品を、洗剤史上かつてない表現で伝えることを狙った」と企画意図を明かす。
キャストにはそれぞれ、「トーリくん(リーダー)、スダくん(人並み外れた嗅覚の持ち主)、カッくん(実験大好き科学マニア)、ショータロー(ムードメーカー)、スギノ(人にも衣類にも優しい弟分)」とニックネームや詳細なキャラクターを設定し、サークルの世界観をがっちり固めた。
CMを見た視聴者からの反響は大きく、ツイッターでは10万人以上がツイート。CM総研の19年4月後半の好感度ランキングでは98%という数字を獲得し、調査対象2164銘柄の首位に立った。
発売から1カ月余りで5本もの異なるCMを投入する理由を、野村氏は「発売から2カ月が(新商品をアピールするのに適した)ゴールデンタイム。ここでトライアルを稼がなくてはいけない」と話す。
トップブランドの大リニューアルだからこそ、短期決戦で消費者の手に届けなくては、せっかく打ち出した革新性のイメージが雲散霧消しかねない。惜しげもないイケメン俳優の“大量投入”や、1本のCMで1つの機能訴求というぜいたくなクリエイティブなど、思い切ったコミュニケーション戦略に「社運」という言葉がにじんでいる。
5月6日からは菅田の新CM「消臭力テイスティング」編がスタート。5月27日には杉野が「洗剤残りゼロ」を伝える第6弾が放映予定だ。ちなみに花王によると「#洗濯愛してる会」のCMシリーズは5つの優位性を伝えて終わり、ではないらしい。意表を突く展開で視聴者を引きつける続編に期待が高まる。
独自の世界観を持った5人が商品特性を紹介
「ゼロ洗浄、はじまる」編では、5人が洗剤史上かつてない商品の登場を印象付ける。菅田、間宮、賀来、杉野、松坂が、紙袋やバッグ、ポケットやジュラルミンケースを持ってカフェに集まり、一斉にアタックZEROを取り出す。松坂が「洗剤は 新たな時代へ」と言えば5人で「アタックZERO~!」と叫ぶ。最後に松坂が「よ~し! 今日は家に帰って各自洗濯!」と号令をかける。
「ワンハンドプッシュ、初めて」編では、松坂が片手で洗剤を計量し投入できる新容器「ワンハンドプッシュ」をアピール。松坂がその容器で洗剤を入れる。それを撮影する杉野。菅田「キャップで計量したり蓋を開けたりしなくていいんだ!」。松坂「どう? かわいく撮れた? この子」。菅田も洗濯物を追加して挑戦し、「かわいい~」と興奮する。
「ドラム式専用 家電量販店にて」編では、間宮が洗濯洗剤史上初のドラム式専用商品をアピール。賀来はドラム式はタテ型に比べて水量が半分であることを説明し、間宮が「だからそれ専用の洗剤があって当然なわけ」と商品の意義を熱く語る。
「再現してみた」編では、白衣を着た賀来が洗浄力の高さを実験で知らしめる。遠心機の上に置いたビーカーにはアタックZEROと従来品に漬けられた汚れた布。賀来は「洗濯機の中を再現してみた。アタックZEROの界面科学の力 感じたいじゃん」と説明して遠心機を回す。アタックZEROに漬けた布の汚れが素早く落ち、再付着もしない。「繊維が汚れをはじいているみたいだ」と驚く松坂。
共演経験が生きた息の合った撮影
偶然にもほとんどのキャスト同士で共演経験があり、休憩中も撮影の延長のように和気あいあいと話していたという。クリエーティブディレクターの篠原氏は、「個々のキャラクターも大まかな設定はあったが、撮影の中でそれぞれの個性が固まっていった。アドリブのセリフを採用しているシーンも多いので、息の合った掛け合いに注目してほしい」と話す。
なつかしCMギャラリー
(写真提供/花王)
記事タイトルを「奇跡の“イケメン5人”で主婦の心を奪った「アタックZERO」」から、「“イケメン5人”のCMで主婦の心を奪った花王「アタックZERO」」に修正しました。[2020/1/15 12:30]