※日経トレンディ 2019年4月号の記事を再構成
「『キングダム』は経営のバイブル」──。旬なビジネスを手掛けるベンチャー企業のトップが、『キングダム』を経営の“教科書”にしている。どういった点に共感し、どうビジネスに役立てているのか。ベンチャー6社のキーマンに活用法を聞いた。

次のステップへ進むために思い切って師匠の下へ

後藤道輝氏
給与即日払いサービス
2017年設立
給与の一部を最短で当日に引き出せるサービスを企業向けに展開。福利厚生として導入する企業も増えている
「プライドを捨てて王騎(おうき)に教えを請い、強さを得た信のように、名だたる先輩起業家の懐にあえて飛び込みました」。そう語るのは、給与即日払いサービスを展開するペイミー社長の後藤道輝氏。起業する前には、メルカリやDeNA、ベンチャーキャピタルなどに飛び込み、事業づくりを学んだ。
さらに今では、『キングダム』を「経営のバイブル」と呼び、社のメンバーとも共有。メンバー同士、互いを登場キャラクターに例え合うことで「どのように見えているか」という“他己分析”を行い、自身では気づかないスキルの発見やコミュニケーションに役立てている。
“副長のリーダーシップ”でカリスマなしのチーム運営を

樋口隆広氏
プログラミングのオンラインスクール運営
2009年設立
プログラミングやアプリ開発を学べるオンラインスクール「TechAcademy」を運営。500社、2万5000人以上が利用
創業社長ではないキラメックス現社長の樋口隆広氏は、「偶然、同じ伍に主人公の信がいたことで飛信隊の副長になった、渕(えん)さんのリーダーシップに自分を重ねます」と語る。心がけているのは、チーム力で勝つこと。そこで、メンバー誰もが発言しやすいように組織のフラット化を断行。メンバーが持ち回りで自身の仕事をプレゼンする会など、相互理解の場も意識的に設けている。また、全社均一の情報公開や数字を根拠にした説明の徹底に加え、「ピンチの際には、渕(えん)さんのように自らが泥臭い姿勢を見せることも心がけている」(樋口氏)という。
「楊端和(ようたんわ)が来た!」「突撃!」…名シーンで意思を共通化!!

小高奈皇光氏
カルチャーグッズEC運営
2012年設立
日本のオタクグッズの海外向け通販サイトやメディアを運営。世界100カ国以上に商品を発送している。自社での商品開発も行う
オタクグッズの海外向けECを展開するトーキョー・オタク・モード社長の小高奈皇光氏は、『キングダム』の名ぜりふを社内での意思共有に用いている。
重要商戦期など一丸となるべき正念場には、士気を上げるために麃公(ひょうこう)将軍の「突撃!」を全社で共有。さらに、苦戦をしている中で大きな案件を受注した際は、合従軍編で死地に山の民が救援に来たシーンをもじり、「楊端和(ようたんわ)が来た!」と盛り上がる。現状把握のズレを埋めてパフォーマンスを最大化するために、現況が瞬時にイメージできる漫画のシーンは、意識の共通化に一役買っているのだ。
また、戦場と同じく場数を踏ませるため、同社は海外出張やプロジェクトリーダーなど、重要業務を新人にも積極的に任せる。「戦局を変えられる千人将を早く育成したい」(小高氏)からだ。
経営情報を社内でオープン化 階層ごとの視界の違いを共有

世一英仁氏
デジタルマーケティング事業
2006年設立
自社でメディアをつくり集客する、新しいデジタルマーケティングサービスを展開している
「伍長、千人将、将軍など、階層によってそれぞれ見えている視界や景色が違い、守りたいものが異なる。これは企業運営においても同じです」。デジタルマーケティング事業を手がけるベンチャー、キュービック社長の世一英仁氏は『キングダム』に出合い、こう再確認したという。
2006年に東京・赤羽のマンションの一室で創業してから、今やインターンなどを含めて300人超を抱える企業へと急成長を遂げる中、「コミュニケーションミスは視界の違いから起こる」と世一氏は痛感。視界を共有化するために、メンバー誰もが同じ土俵で問題を認識できるよう、経営に関する情報のオープン化を徹底している。オンライン情報共有ツールなどを用いて、経営会議の議事録や経営に関する数字まで全社員に開示するのに加え、社長自らが社員に語りかける共有の場を積極的に設けている。
「誰と働きたいか」を重視 チームパフォーマンスを最大化

川畑翔太郎氏
若者の就活・転職支援
2012年設立
既卒・第二新卒向けの人材紹介サービスを展開。手厚いサポートと、共感を軸にした転職支援で入社1年後の定着率は94.7%と高い水準に
「“飯がうまいから”と那貴(なき)が仲間になるシーンは、チームづくりの気づきになっています」と語るのは、既卒・第二新卒向け人材紹介を手がけるUZUZ専務の川畑翔太郎氏。報酬や地位ではなく、居心地がいいというのは最高のモチベーションになるという考えの下、年2回の人事面談で「誰と働きたいか」「誰と働きたくないか」をアンケート調査し、チーム配置に生かしている。「強みを打ち消す人材配置が最も良くない。合従軍との戦いのように、それぞれの長所と短所を戦局に応じて当てはめることで、パフォーマンスは最大化します」(川畑氏)。
ぶれないビジョンを徹底訴求 内外に強力なアライアンスを生む

佐伯晋吾氏
「体験」&「教室」探しサービス
2017年設立
趣味と学びに関する「体験」&「教室」探しサービスを運営。約1万4500の教室を紹介し、学びたい人と講師をつないでいる
「政はとても無理だろうという頃から『中華を統一する』というビジョンを宣言。企業も同様に“理念ファースト”の姿勢が重要だと強く認識しました」。趣味と学びのマッチングサービスを展開する趣味なび社長の佐伯晋吾氏は、こう振り返る。同社は趣味や学びを通じて心豊かな社会を実現するために、企業理念を“「趣味」と「まなび」の『わ』をひろげ、生きがいエンジンに火をつける!”という標語で表現。社内外に強く打ち出している。「ビジョンに共感してもらえると、山の民のような強力な外部パートナーともアライアンスを結べ、勝てる布陣が組めます」(佐伯氏)。
©原泰久/集英社 (写真/古立康三、高山 透、近森千展)
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