※日経トレンディ 2019年4月号の記事を再構成

ビル・ゲイツなどの名経営者が愛読したことでも知られる兵法書「孫子」。経営コンサルタントの長尾一洋氏は、「『キングダム』には孫子の兵法に合致するシーンが多い」「現代のビジネスシーンの経営戦略に大いに役立つ」と言う。『キングダム』にも通じる、孫子の兵法から経営のヒントを探る。

(写真/Bridgeman Images/アフロ)
(写真/Bridgeman Images/アフロ)
長尾一洋氏
NIコンサルティング代表

孫子兵法家。中小企業診断士。孫子の兵法を企業経営に応用するコンサルティングに取り組む。著書に『小さな会社こそが勝ち続ける 孫子の兵法経営戦略』(明日香出版社)など

 「孫子」とは、紀元前500年頃の中国春秋戦国時代に、新興国の呉の王様に仕えた軍事戦略家、孫武が記したとされる兵法書だ。ビル・ゲイツなどの名経営者が愛読したことも知られている。「『キングダム』には、孫子の兵法に合致するシーンが多い」と言うのが、孫氏の兵法を現代の企業経営に応用し成果を出している経営コンサルタントの長尾一洋氏だ。乱世で強い集団をつくり、それを率いて勝利する『キングダム』のリーダーの行動が、孫子が説く優秀な将の条件に当てはまることが多いという。

 「乱世を戦い抜く教えである孫子の兵法は、人工知能の台頭や働き方改革を迫られるなど、従来の常識では対応し切れない現代のビジネスシーンの経営戦略に大いに役立つ」(長尾氏)。

最終目標は「負けないこと」

 孫子の兵法の基本を端的に語ると「『負け戦はしない』に尽きる」(長尾氏)。敵と味方の兵力を冷静に見極め、勝てるときにしか戦わない。それどころか、戦わずして勝つにはどうするかを考えるという、現代的とも感じる考えが示されている。『キングダム』にも、戦わずに和睦を申し入れる場面が出てくる。

【勝てない戦はしない】
未だ戦わずして廟算(びょうさん)するに、
勝つ者は算を得ること多きなり

算多きは勝ち、算少なきは勝たず

 孫子の最も重要な教え。事前に戦略を立て、勝利条件が多いほうが実戦で勝利し、少ないほうは敗北する。無謀な戦いを挑まず、勝てる相手に勝つことが優秀な将軍。さらに強いリーダーは、勝ってから戦う、とも説く。
21巻222話
21巻222話
王翦。冷静な分析によって勝てる戦しかしない秦の将軍。相手の心理や行動を先読みする天才

 しかし、ビジネスにおいては時には赤字覚悟の戦いを強いられる場面もある。「孫子が同じ質問を受けたときに語ったのは、敵の不備を突き、想定外の方法で、警戒していない地点を攻めろということ。総力では劣る力を集中させ、一点突破で突き抜ける。奇策を仕掛ける桓騎や山の民の兵法など、『キングダム』には、この孫子の兵法に通じる場面が多数ある」(長尾氏)。

 これをビジネスに置き換えると、ライバルが商圏を拡大しようとするときは、追従するのではなく、逆にエリアを絞り込んだり、得意分野に集中したりするほうがいいということになる。相手の兵を分散させ、こちらは総力を1点に集中させれば、弱い軍が強い軍を打ち負かすこともできる。

【一点集中】
我は専りて一と為り、敵は分かれて十と為らば、
是れ、
十を以て其の一を攻むるなり

 1対10の兵力で、敵が分散して10隊に分かれた場合、1点に力を集中させれば敵と対等の兵力で攻めることができる。個々の戦闘において、兵力を集約させ、集中して敵に当たれば小兵力で大兵力を打ち破ることができるの意。少ないリソースをいかに使うかという教えはビジネスにも通じる。

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