現地で発売もしていない自社の商品が、国境を越え、全く意図しないまま中国で大人気を博したときどうするか──。日東紅茶ブランドの粉末タイプ「ロイヤルミルクティー」が、2年前にまさにそういう状況に直面。発売元の三井農林は、後追い対応を余儀なくされながら、現地向けマーケティングを展開して人気を維持し、19年下期に現地での商品発売にこぎつける。中国市場で巻き返しに出たパナソニックやストライプインターナショナルとは異なる、その取り組みを解説する。
「いったいどうなっているんだ!」「分かりません……」
2年前の2017年8月末、東京・日比谷にある三井農林の本社では、大混乱が生じていた。同社は、発売からちょうど90年が経過した、歴史ある「日東紅茶」ブランドで紅茶事業を展開している。その主力商品の1つである粉末タイプの「ロイヤルミルクティー」の売れ行きが、文字通り、いきなり急伸し始めたのだ。
通常は毎月1ケースしか注文してこない大阪のあるドラッグストアは、9月に入るといきなり100ケースを発注してきた。「最初は店が発注量を間違えているのだと思ったくらい」と三宅徹取締役ビジネスソリューショングループリーダーは、当時の混乱ぶりを振り返る。
しかし、そうではないことが徐々に明らかになっていく。8月末から伸び始めた売り上げは、9月に入ると通常の約10倍に達しようとしていた。このため、倉庫にあったわずかな備蓄分を放出した後は、生産量がまるで追いつかずに受注残ばかりが積み上がり、商品を供給できない事態が続いた。正確な納期を示せない営業担当者は、小売店に対して平身低頭で謝るしかなかった。
異常事態の原因を究明したところ、どうやら中国でバカ受けしているからだと分かってきた。中国版Twitterといわれる「微博(Weibo、ウェイボー)」のような現地のSNSに、「日東紅茶の粉末タイプのロイヤルミルクティーがおいしい」といった投稿が大量に寄せられており、これは商売になると考えた中国人のバイヤーや訪日観光客が、日本国内で商品を大量に買い占め、中国に持ち込んでいたのだ。
原因が分かっても対処しようがなかった
だが、原因が分かっても対処のしようがなかった。三井農林は当時、中国国内で日東紅茶ブランドの紅茶を販売していなかった。中国市場に直接、商品を供給して国内の需要を引き下げるという手立てを打てず、さりとて国内の小売店に対して中国人に売るなと言えるはずもなく、事態を静観するしかなかったのである。
品薄が続いたため17年夏ほどの売れ行きにはならなかったものの、18年に入っても日東紅茶ロイヤルミルクティーの人気に衰えは見られなかった。いわゆる“爆買い”をして自力で中国に持ち込む中国人だけでなく、日本で買い集めた商品を並行輸入品として中国に輸出している業者までいることが判明した。それほど中国での日東紅茶ロイヤルミルクティーの需要は底堅かったのだ。
そこで三井農林は、安定して高い需要が続くと判断して本格的な増産を決断。併せて、中国市場に自らの手で直接商品を供給する手段を検討し始めた。さらに、「この人気が陰ることのないように、中国向けのマーケティングを実施する必要がある」(ビジネスソリューショングループ海外事業ユニットの阿部慎介氏)と考え始めた。
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