パナソニックの家電事業が中国市場で復活した最大の理由は、経営の現地化を実施し、家電事業をチャイナスタイルで推し進めたことにある。パナソニックAPチャイナ総経理の呉亮(ウー・リアン)氏に、パナソニックの家電事業再生のための取り組みと、今後の成長の手立てについて、聞いた。
パナソニックAPチャイナ総経理 兼 中国・北東アジア社常務
パナソニックの家電事業は、2012年にテレビ事業から撤退して流通からの信頼を失い、低迷していた。そこから立て直し、16年から安定成長ができた最も大きな理由は何か。
本間(哲朗、中国・北東アジア社社長)さんもよく話すが、スピードや経営スタイルなどを中国の企業に学んだからだ。私は、高校卒業後に中国の国営企業で6年働き、その後、日本に留学して学び、再び中国に戻って現地企業で仕事をしてから、縁あってパナソニックの現地法人の1つに入社した。そうしてその現地法人の責任者となり、17年4月には中国人としては初めて、パナソニックAPチャイナのトップに就いた。日本と中国の良い面と悪い面を両方ともよく知っており、当時のパナソニックは中国企業から学ぶことが多かった。
パナソニックAPチャイナのトップに就く以前の14年ごろから、パナソニックの中国における家電事業を実質的に切り盛りしていたと聞く。スピードや経営スタイルを学んだというが具体的にはどんなことを学び、どんな手を打ったのか。
当時のパナソニックの経営と中国の現地企業の経営の間には、大きなギャップがあった。パナソニックでは、変えてはいけない、やってはいけないことがとにかく多く、日本からの出向者が複数の管理職に就いているせいか決断のスピードも遅かった。そこで、変えれば消費者のため、商品のため、従業員のためになるというものを洗い出し、私の担当する領域の中で、改善すべき点をどんどん変えていった。まずやってみるというのがチャイナスタイルだ。
例えばEC。14年ごろのパナソニックでは、ECは偽物と安物であふれているから触れるのもご法度とされていた。しかし、現実には中国の消費者は、現地メーカーの家電をECで購入する。だから私は、「天猫(Tモール)」と「JD.com」という2大ECサイトと協力関係を結び、ECで商品を売る専門部隊を作って、ECでの商売を解禁した。おかげで、理美容など小型家電の領域に限ってだが、今日ではパナソニックの売り上げの約70%をECで稼ぐまでになった。あのとき、「別に辞めることになっても構わない」と考えてEC参入を決断していなかったら、今ごろどうなっていただろうか。
もう1つ。営業担当者のインセンティブの体系も全部変えた。当時は営業担当者を社員として雇い、どれだけ営業成績を上げても固定給しか支払っていなかった。これを、日本の請負と同じように営業担当者の位置付けを見直し、担当者に書かせていた面倒な社内稟議書(りんぎしょ)などもすべて廃止した。営業に専念できるようにし、かつ稼げば稼いだだけ、青天井でインセンティブを与える仕組みに変えた。そうしたら、大した仕事をしないから早く解雇しよう、とそれまで思っていた営業担当者が、残らず優秀な成績を挙げ始めた(笑)。
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