小売業界にとって、「ネットとリアルの融合」は古くて新しいテーマだ。セブン-イレブン・ジャパンは今、リアル店舗の商品在庫をネット通販でも注文できるようにし、専用の配達網でスピーディーに届ける業界初のモデル「ネットコンビニ」を北海道でテストしている。「近くて便利」の革新はなるか?

 「近くて便利」というキャッチフレーズが象徴するように、セブン-イレブンの強みの1つは全国2万904店(2019年3月末時点)を数える日本一の店舗網にある。業界2位のファミリーマートとは、今なお4000店以上の開きがある。そんなセブン-イレブンが全店で抱える店頭在庫は、およそ1500億円に上る。この膨大な商品をネット空間に解き放つ、業界初の試みが、北海道でテスト中のネットコンビニ「セブンらくらくお届け便」だ。

 これは、店頭在庫をスマートフォンでいつでも注文可能で、近くの店舗から最短2時間でスピーディーに配達するサービス。ネットの“空中戦”を交えて各店舗の売り上げを最大化する狙いがあると共に、ユーザーにとっては近くのセブン-イレブンを、まるで“自分専用の冷蔵庫”として使えるメリットがある。

 最短2時間で届く同様のサービスとしては、すでにアマゾン・ジャパンが東京都や神奈川県、千葉県、大阪府、兵庫県の対象エリアで展開している「Amazon Prime NOW(プライム・ナウ)」がある。しかし、専用の物流拠点を新たに用意しなければならないアマゾンと、全国約2万店の店舗網をそのまま使うセブン-イレブンでは、出発点で大きな違いがある。“後出し”でも、サービスの展開スピードはセブン-イレブンに分があるだろう。

 また、イトーヨーカドーやイオンなどが展開する既存のネットスーパーと比べても、サービスのカバー範囲は段違いに広い。生鮮食品を中心とした品ぞろえの差こそあるが、セブン-イレブンは弁当や総菜といった最も成長している中食市場で優位に立つ。つまり、ネットコンビニが全国展開されれば、「近くて便利」という強みをデジタルとの融合で拡張する、まさに最強の一手となり得るということだ。

 ネットコンビニの取り組みは、17年10月から札幌・小樽市内の5~6店舗でスタートし、18年8月には100店舗に拡大している。今後、北海道の全店(約1000店)に広げ、2020年からは順次、全国展開を始める予定だ。

 北海道の対象エリアでは現在、弁当や総菜、日用品など、セブン各店で扱うほぼすべてとなる約3000品目がスマホで注文できる。配達場所は自宅でも職場でも自由に設定可能。ネット上で最寄りの店舗を指定すると、注文を受けた店舗スタッフが商品をピックアップし、配送は物流大手のセイノーホールディングスが設立したセブン専用会社、GENie(ジーニー)のスタッフが担う仕組みだ。

 このジーニーによる専用の配送網こそ、ネットコンビニのビジネスモデルの核となるものだ。現在は100店舗に対して20台のネットコンビニ専用車を用意。これを適宜配車することにより、注文から最短2時間、配達時間を10~22時の1時間単位で選べるというきめ細かな配送を実現している。また、配達エリアは店舗からクルマで10分以内、500メートル~1キロメートルの範囲で設定されており、「おでんや、ななチキも熱々の状態で届く」(セブン-イレブン・ジャパンのデジタル推進部総括マネジャー 新居義典氏)と言うほどだ。

ネットコンビニのサービスの流れ
ネットコンビニのサービスの流れ

 ネットコンビニの“原型”は、専用の日替わり弁当などの宅配サービス「セブンミール」にある。高齢化や女性の社会進出を背景に拡大してきたサービスだが、人手不足の問題が顕在化する中で、店舗スタッフが届けるセブンミールのモデルには“限界”が見えてきた。また、セブンミールでは1~3日前の予約が必要となり、配達も昼便(12時まで)と夜便(19時まで)のみで、機動力に欠ける面がある。そこでセブン-イレブンは、14年から広島県の一部店舗でセイノーとの提携による配送網の整備、店頭在庫を含むセブンミールのネット注文の仕組みをテストしてきた。その延長線上で、店頭在庫のネット販売に絞って取り組んでいるのが、北海道のネットコンビニだ。

 「全国展開を見据えているからこそ、最もビジネス環境が厳しい地方で成功する必要がある」。新居氏は、北海道を舞台に選んだ理由をそう語る。北海道の人口密度は低く、平均所得は少なめ、そして冬には雪が容赦なく降り積もって配送を混乱させる――。ここで黒字化できなければ、2万店超の店舗網を生かした新たなネット通販モデルも絵空事で終わる。逆に北海道で成功すれば、他のエリアにも展開できるというわけだ。

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