日経クロストレンドが独自に行った調査「イノベーション300」を解説する本特集。最終回は、業界別にランキングの傾向をみていく。イノベーティブな企業が比較的多いのはどの業界か? ライバル企業対決はどちらに軍配が上がったのか? また300社ランキングを一挙に公開する。

特集最終回は、日経クロストレンドが独自に行った調査「イノベーション300」の結果を業界別に考察する。
イノベーション企業が多い業界はどこか? 業界別にイノベーションスコアの平均値を算出したところ、トップは「サービス」で平均スコアは293.9だった。2位は「情報・通信」(同289.0)が続いた。
ランキング300社中、サービス業は15社。うち10社が100位以内、8社が50位以内に入ったことで平均スコアを伸ばした。サービス業上位の顔ぶれは、5位楽天、10位日本M&Aセンター、15位オリエンタルランド、16位リクルートホールディングス、19位カカクコム、27位サイバーエージェント、といった具合だ。
10位の日本M&Aセンターは、企業のM&A(合併・買収)の仲介が主業務。「WiNNOVATION」と題したカンファレンスを開催し、M&Aを通じて生産性向上、イノベーションの創造を支援する側の立場だ。2018年の日本企業が当事者となるM&A件数は3850件、金額は29兆8802億円で、ともに過去最高を記録している。一方、中小企業では経営者の高齢化で後継者問題から企業存続の危機が広がっている。イノベーション実現のために、開発、成長にかかる時間を買う形でM&Aを活用するケースは、今後さらに増えそうだ。
15位のオリエンタルランドは、言わずと知れた東京ディズニーリゾートの運営元。根強いリピーターを確保する同社については、混雑と値上げによる顧客満足度の低下を不安視する声もあったが、18年度は開園35周年イベント効果で過去最高の入園者数を記録した。20年春には東京ディズニーランドに「美女と野獣」をテーマとする新エリアをオープン。22年には東京ディズニーシーを拡張して8つ目の新エリア「ファンタジースプリングス」を設置し、映画「アナと雪の女王」のアトラクションを導入するなど、積極的な投資が続く。
16位のリクルートホールディングスは、旅行、結婚、学習、クルマ選びなどさまざまな事業領域でAIを活用し、自動チャット対応やチャット検索などで既に実装を進めている。AI活用については、実証実験に取り組みながらその後、音沙汰ない企業も少なくない。その点、利用者の利便性が確実に向上して、業務効率化と収益性も高まるような実用レベルに落とし込む同社の開発力、およびそのスピードには定評がある。
27位のサイバーエージェントは、好調なネット広告事業で得た利益を、インターネットテレビ局「AbemaTV」に積極投資する姿勢がイノベーティブと評価された。AbemaTV単体の収益は苦戦しているものの、過去番組のタイムシフト視聴やダウンロード機能などを利用できる有料会員サービス「Abemaプレミアム」の登録者は40万人を突破。10~20代の視聴者が多いことから、若年層にリーチしたい広告主からの広告出稿に伸びしろがありそうだ。
業界ランキング2位の情報・通信は、総合3位のLINE、同6位のソフトバンクグループ、同8位のヤフーと、トップ10にランクインした3社が業界平均スコアを引き上げた格好だ。また14位には、ECや公共料金の決済代行など決済サービスを提供するGMOペイメントゲートウェイが入った。同社の子会社が提供する「GMO後払い」は、EC利用者が商品受け取り後にコンビニや銀行で支払いができる後払い決済サービスで、クレジットカードを持たない若者層の利用が多い。ZOZOTOWNが導入し、「ツケ払い」の名称で提供している。
業界ランキング下位に目を転じると、主に大手私鉄など鉄道会社が属する陸運が19位、大手ゼネコンが属する建設業が21位、電力・ガスが24位、そして最下位の26位は卸売業という結果だった。総じて事業領域がドメスティックで成長性や収益性で見劣りする企業が多いことから、投資家評価でも票が伸びず、スコアが低迷する要因となった。
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