「イノベーション300」にランクインした企業の中には、ソフトやサービスの変革で、さまざまな成果を生んでいる例もある。今回はJR東海、AGC、ミスミの事例でイノベーションに迫る。新たなことに挑戦する企業姿勢は各社のDNAに依存しているようだ。

イノベーションといえば「技術革新」と訳されるケースがほとんどだろう。それはハードありきの発想であり、多額の研究開発費を投じる企業は、イノベーションに積極的だと見なされることが多い。しかし現在の日本企業が進めているイノベーションは、ハードだけではない。ソフトやサービスの変革もイノベーションであり、さまざまな成果が生まれている。
ソフトやサービスのイノベーションでも今までのやり方をゼロから見直すことが必要になる点はハードと同様だ。これまでの発想を変えたり、アプローチ方法を変えたりすることで、意外な視点が開けるからだ。それが新しい市場の開拓につながる。その発想の根源はどこか。やる気やモチベーションは、なぜ出てくるのか。今までにないことに挑戦する企業の社員たちの姿勢は、各社に備わった企業風土やDNAに大きく依存しているのかもしれない。
JR東海、社員が発案した30~40代女性向けの新しい奈良
そんな企業の1社がJR東海だ。リニア中央新幹線の開発を推進している同社は、ハードの面では先進的なイノベーション企業と言えるだろう。夢の乗り物として長年、開発してきたリニア中央新幹線も、いよいよ実現の見込みが近づいている。JR東海のチャレンジ精神は、そうしたハードの面だけではない。エンジニアだけでなく、社内のスタッフ部門も新しい旅の企画を立案し、自分たちなりのイノベーションを推進している。リニア中央新幹線が象徴的だが、JR東海には新しいことに挑戦してきた歴史がある。今回紹介するのは、規模ではリニアに比ぶべくもないが、スタッフたちのチャレンジは、そうしたJR東海の“DNA”を感じさせる。
その一例が、奈良を対象にした旅行の販促キャンぺーン「うまし うるわし 奈良」である。これまではシニア層がメインだった奈良への観光客を30~40代の女性にも広げようと、2019年から販促キャンペーンを大きく見直した。映像や写真などのコンテンツをシニア層とは別の内容にしたり、ウェブサイトなどメディアも変えたりして、これまでの奈良旅行のイメージを刷新した。担当するのは、営業や宣伝部門ではなく、広報部に所属するスタッフ。奈良の新しい魅力を伝えようと、自らプロジェクトを手掛けたという。
「東京国立博物館の展示会で、平成の人気トップ3に選ばれたのは阿修羅や薬師寺、運慶などすべて奈良に関連していた。しかも18年は東大寺など古都奈良の文化財が世界遺産に登録されてから20年、元興寺創建1300年、興福寺中金堂300年ぶりの再建といったメモリアルイヤーとして盛り上がった。そこでシニア層の奈良ファンだけでなく、若い女性に向けて訴求したかった。奈良は修学旅行で行き、退職後にシニアが訪れるというパターンがほとんどだろう。しかし、それだけではもったいないため、改めて奈良の魅力を紹介しようとした」。キャンペーンのスタッフでもあるJR東海広報部東京広報室の穂苅裕太郎係長は、こう語る。
とはいえ、奈良の新しい魅力とは何か。それをどう表現すべきか。スタッフたちは毎週のように奈良に出向き、奈良で評判の高い店舗にも足を延ばすなど、自ら体験して歩いた。そこで30~40代の女性が何に反応するのかを考えていった。出した結論は、神社仏閣だけではなく、何らかのストーリー性を持たせるというものだった。
シニア層向けの奈良といえば、神社仏閣を訴求するのが中心だった。伝統や荘厳さ、雄大さをイメージさせる映像や写真を使い、テレビCMやポスター、雑誌や新聞広告で訴求していた、しかし30~40代の女性にとって神社仏閣はあまり身近な存在とはいえない。そこ神社仏閣を背景に身近なテーマを設け、ターゲットと同世代をイメージさせる女優を起用して映像や写真を撮った。
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