老舗の健康計測機器メーカーで“堅い”イメージとは裏腹に、ゆるさ満点の投稿をするタニタの公式Twitter。炎上や企業イメージを損なう可能性を避けるため、管理を強化するアカウントも多い中、なぜ自由につぶやけるのか――。投稿にも登場する谷田千里社長にSNSやデジタルマーケティングの戦略を聞いた。

谷田千里氏。タニタ社長。1972年生まれ。97年に佐賀大学理工学部を卒業後、船井総合研究所を経て、2001年にタニタ入社。05年タニタアメリカINC取締役、 07年タニタ取締役を歴任後、08年から現職
谷田千里氏。タニタ社長。1972年生まれ。97年に佐賀大学理工学部を卒業後、船井総合研究所を経て、2001年にタニタ入社。05年タニタアメリカINC取締役、 07年タニタ取締役を歴任後、08年から現職

 タニタは1944年設立の老舗健康計測機器メーカーである落ち着いたイメージとは異なり、Twitterの公式アカウントはゆるい投稿が際立つ。盟友・シャープ公式との軽妙な掛け合いも見もので、「フリーダムすぎる」と言われることも少なくない。Twitter担当者は、なぜここまで自由に運用ができるのか、どうしてファンを引き付けるのか。その秘密を探るために、Twitterにもたびたび登場する同社の社長、谷田千里氏を直撃。SNS運用やデジタルマーケティング戦略について聞いた。

もともと御社のTwitterの公式アカウントは、どういった経緯で開設されたのでしょうか。

谷田千里氏(以下、谷田氏) Twitter運用の源流は、2008年にスタートしたニコニコ動画での動画配信に遡ります。弊社は、体組成計などの健康にまつわる商品が主力なので、中高年層からは支持を得られやすい一方、若い世代の認知度がどうしても低かった。その層にアプローチするにはどうしたらいいか、何か新しいことに挑戦しようと常々考えていたときに、ニコニコ動画の存在を知ったのです。そこで08年に、ニコニコ動画のコミュニティー機能を使って、公式チャンネル「ComeSta Channel」(コメ・スタ・チャンネル)を開設しました。社長就任直後の私もたびたび登場していましたが、そのときに現在のTwitter担当も一緒に動画をつくっていたんです。

 彼はその後、ニコニコ動画の担当から離れましたが、実は10年ほど前に、非公式で「自称体重コンシェルジュ」と名乗って、Twitterアカウントを立ち上げていたのです。

 当時、あるフォロワーさんが競合他社さんの体重計の操作方法をTwitterで尋ねられたので担当が答えたところ、別のフォロワーさんが「なんで違うメーカーの人に聞くんだ」と突っ込む一件があったそうです。その際、「体重コンシェルジュなので、何でも聞いてください」とTwitter担当が応じたら、「メーカーの対応として素晴らしい」と、インターネット上にまとめ記事がつくられたんです。

 あるとき、その記事を持って「企業公式アカウントとして認めてほしい」と担当が許可を得に来ました。私はその時に初めて、彼のTwitterでの活動を知ったんです。

非公式とはいえ、勝手に自社の名前が分かる形でSNSを運用されていたのを知った後は、どのように担当者の活動を見てこられたのでしょうか。

谷田氏 最初は、「知らない間に、そんなことしていたんだ」と驚きました。ただ、当時、私は企業の公式アカウントに対する知識もそれほどなかったですし、重要視をしていなかったというのが正直なところです。それで「チャレンジするのはいいことだから、いいんじゃないか」と。

 彼からの報告の時期がもう少し遅く、現在のように企業の公式アカウントが注目を集めている時代だったら、「なんでそんな重要なことを黙ってやっていたんだ」と、問題視していたかもしれませんね。

タニタ公式Twitterは2011年に開設され、10年目に突入。フォロワー数31万人を超える人気アカウントになり、ファンへの影響力もますます高まっています。担当者はファンとの積極的なコミュニケーションを取るなど、裁量が大きいように見受けられますが。

谷田氏 Twitter担当とは、以前にニコニコ動画の配信プロジェクトを一緒に手掛けていたこともあって、さまざまな失敗を共有してきた経験があります。動画配信の試行錯誤を通じて、ネットでの作法や受けやすいネタを一緒に探っていましたから、「分かっているよな」「心得ています」というやりとりをした後は、一任してきました。

 そのため、そのときに培った基準である、「『宗教』『エログロ』は避ける」「他人の批判をしない」という最低限の約束ごとだけはリクエストしましたが、それ以外は内容について口を出したことはありません。

タニタ公式Twitterは2011年1月にスタート。フォロワー数は31万人を超える。他社の企業アカウントとの掛け合いにも注目が集まる
タニタ公式Twitterは2011年1月にスタート。フォロワー数は31万人を超える。他社の企業アカウントとの掛け合いにも注目が集まる

Twitter活用について、社内の目が変わったある出来事

御社のTwitter担当者の自由な発言から、社内でのSNSに対する理解が高いように感じられますが、初めから他の部署の社員も協力する意識があったのでしょうか。

谷田氏 公式Twitterを始めた当時、担当はまだ専任ではなく、営業部に所属しながら日々投稿をしていました。彼の直属の上司が「営業の人間に何をさせているんだ」と言っているのを耳にしたこともあり、当然、風当たりが強い時期もあったと思いますよ。営業が何をやっているんだと、直接言われたこともあったでしょうね。

 しかし、彼は反対する人がいてもコツコツと続けてきた。Twitterの認知度が上がってくると、徐々に社内での印象も変わるものです。そして、18年に、Twitterにファンの希望の声が殺到したことから実現した人気オンラインゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』とのコラボ商品(歩数計)が大ヒットしたことで、完全に潮目が変わりました。そうなると、社内での協力体制も整ってきます。

 ただ、私は人生で成功する人は、我を張って、勝手にやった人だと思っているんです。自分がこれをやるという信念があって、それが時代と合えば、周りの理解もおのずと得られます。受動的に動くのではなく、たとえ周囲から反対されようが突破していく人しか成功できない。「他の企業が皆やっているから、うちでもやらせてください」というのでは、後追いになってしまって意味がないですから。Twitter担当は社内の理解を得る前から能動的に動いていたというのが、成功につながったんだろうと評価しています。

タニタでは、社員が希望すれば、雇用契約から業務委託契約をベースにした個人事業主に切り替える「日本活性化プロジェクト」という働き方をスタートし、注目を集めていますね。Twitter担当者は、その一期生として立候補したとのことですが。

谷田氏 社内でやりたいこと、やらなきゃいけないこと、やったら面白いと思えることを自発的に探して動ける。そんな自営業的なマインドを持っている人が育ってくれたらと考え、立ち上げたプロジェクトです。これまで社内から24人がこの仕組みを利用していますが、Twitter担当は最初の期に立候補しました。この仕組みを使ったことで、彼にとっては社内の縦割りの体制にとらわれず、動きやすくなったのではないかと思います。