セガ、キングジム、タカラトミー、タニタ、東急ハンズ、井村屋の人気企業公式Twitter「中の人」6人と、「ファンベース」を提唱する佐藤尚之(さとなお)氏がオンラインで一堂に会した座談会後編。ファンとの接し方、ファンの愛着を強くするSNS運用の秘訣について、議論が盛り上がった。

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 前回の「不況時に頼るべきは強いファン SNS「中の人」に学ぶつながり方」に引き続き、セガ、キングジム、タカラトミー、タニタ、東急ハンズ、井村屋の6社の「中の人」にファンに愛される極意を聞いた書籍『自由すぎる公式SNS「中の人」が明かす 企業ファンのつくり方』(日経BP)より、座談会の様子を抜粋し、お届けします。

フォロワーとのやり取りで気を付けていることは

さとなお 皆さんに共通するのは、ファンの方をちゃんと見て、常に理解しようとしていることだと思います。ファンベースの視点では、企業の真のファンになってもらうには、「共感」「愛着」「信頼」が重要になると考えていますが、SNSは中でも、特に愛着を持ってもらうために有効な方法だと考えています。どんな商品、サービスでもそうですが、たくさんの種類があったら、お客さんがそこからどれか一つを選ぶときに愛着が影響します。愛着を長い視点でつくっていらっしゃる皆さんの努力は、得難い資産だと思います。フォロワーさんとのやり取りの中で、気を付けておられることってあるんですか?

タカラトミー やっぱり、毎日のコミュニケーションの積み重ねですかね。リプライや返信に対してコメントを欠かさないとか。特に、「商品を買いましたよ」「イベントに行きました」「キャンペーンに応募しました」など、実際にアクションを起こしてくださった方への感謝の気持ちは忘れずに、お礼の気持ちを伝えます。一生懸命であるとか、誠実であるとか、ウソをつかないとか、素直な姿勢を貫くとか、そうした日々の積み重ねでいい関係が築けていると思います。

キングジム リプライは毎日届くので、それをチェックすることでどんな需要があるのか、ファンの方がキングジムの何に興味があるのか、といったことが肌感で分かってくるようになります。生活者の興味を蓄積していくことで、自分と生活者の感覚のずれを埋めていこうと意識しています。

さとなお まさに、そういうことだと思います。ファンの喜ぶツボを知らないでツイートするのって難しいと思うんです。なので、順序としては、まず会社のファンってどういう人で、ウケるツボはどういうことかを知ろうとすることが重要だと思いますね。

リアルとSNS、接し方は変えるべきか

セガ さとなおさんのファンベースの著書を参考にしながら、ファンの方々と交流をするファンミーティングを2回行ったのですが、ファンの熱量を知ることができたのは大きかったですね。「自分の好きな会社の社員が本当に仲が良く、会社に誇りを持っていることが分かってよかった」「一生セガを応援する」といった熱いコメントもいただけました。私たちがフォロワーさんを知らないといけないと思っているのと同様に、フォロワーの方々は本当に私たち「中の人」のことをよく見てくださっているなって感じるんです。だからまず、じかにお会いするときもそうですが、Twitter上でも誠実さやおもてなしをしようという気持ちを持ち続けていることが大事だなと思います。

タニタ 好きになってもらおうというのもあるのですが、こちらから好きになろうという気持ちも大事なのかなと。人と人とがつながっているわけですから、Twitterでもリアルでも、同じように接することを大切にしています。

井村屋 私は、ファンというふうに一言で言ってしまうのは、難しいものがあると思っていまして。井村屋の商品の中でも小豆だけが好きな人や、メロンボールのような駄菓子系のアイスだけが好きという方がいらっしゃれば、属人的な意味の「中の人」が好きだという方もいらっしゃいます。全員に愛着を持ってもらうのは公式Twitterの世界では難しいとは思っています。しかし一方で、その人たちが離れないようにする努力は必要だとは思いますね。

さとなお そこは、難しいところですよね。例えば、海が好きな人と山が好きな人とでは傾向が違うじゃないですか。海が好きな人に好かれたいなら、そのためのアプローチがあるわけで。例えば、あるファンの方からすごく真面目な会社だと思われていて、誠実さや堅さが好きというのがツボだったとして、ちょっと砕けたり、カジュアルな面を感じたりすると、失望されてしまうかもしれない。だから、信頼のありどころも好きになってもらえる場所も、本当は相手のことをきちんと見ないと分からないはずなんです。SNSって、向こう側に大衆がいると思われがちですが、それはテレビや新聞などのマスメディアの話であって、SNSは全体にはふわっとはしているものの、ファン一人一人の輪郭は見えてくるものかなと。そうであれば、まず相手のことを知らないと、好きになってもらう方法も分からないんじゃないかなというのが私の考えです。

東急ハンズ まさにそうだと思います。東急ハンズの文化に「売らんかなの商売はしない」というのがあって、入社するとまず押し付けない売り方を徹底的に仕込まれるんですね。商品を買ってくれなくてもいいから、お客さんの問題を最適に解決しろと。うちのファンの方って、その接客スタイルが好きで来ている方が多いと思うんです。それでTwitterの向こう側のファンの方も同じだと肌感覚で伝わってくるので、商品をほとんどアピールしないんです。タニタさんがおっしゃっていたのと同じで、それは宣伝部にやらせておけばいい。逆に、私が「今日、雨ですね」とツイートすると、フォロワーさんから「ハンズさん、そこで傘紹介しないと」と言ってもらえる関係性がすごくありがたいんですよ。

タカラトミー フォロワーさんから助けられることってありますよね。弊社では月末に商品解禁のタイミングがあるのですが、1年ほど前に130ぐらいの新商品が一気に出る機会があったんです。すべての商品を1日で投稿しようとすれば、それこそ5分に1回ぐらいツイートしないと間に合わない。「解禁する商品が多くてつらい。もしよければ、ハッシュタグを付けて協力してください」と投稿すると、フォロワーさんがわざわざ弊社の通販サイトに商品を見に行って、その商品に合った投稿をしてくれるという、非常に心に残る現象がありました。その件数も数百件と多くて、ファンの方がタカラトミーのために動いてくれるんだというのは、新しい発見でもありました。

セガ 設立記念日に「セガの誕生日に思い出を語るよ」というようなハッシュタグがあったりすると、長時間Twitterのトレンドに上がっていたりすることもありがたいです。中には、「自分が小学生のときに、セガのゲームをやっていると言ったらクラスメートにバカにされた」とお客様相談室に訴えたら、「将来、君がバカにされないゲームをつくります」と言ってくれた、というような私の知らないエピソードもあって。そういうときにその人の意見をリツイートすることで、生の声を社内外に共有できるのはうれしいんです。

東急ハンズ うれしいといえば、広報も把握していないようなネットニュースをフォロワーさんから教えていただいたりすることもありますね。

井村屋 地方のテレビ局で広報部署を介さずに商品が紹介されていたりすると、フォロワーさんが教えてくださることも。あと、バズるという表現が正しいのかは分かりませんが、関市の鍛冶屋さんの画像を使って「あずきバーの秘密」みたいな投稿をしてくれた方がいたんですね。エゴサーチで見つけて、引用リツイートで「社外秘が漏れてしまった」と返したら、フォロワーさんが一気に増えたことがありました。あずきバーが固いというのをフォロワーさんが意識しているというのは、すごくありがたかったです。以来、困ったらあずきバーを出せばなんとかなる。鉄板ネタになっています(笑)。

ファンとのプロレスで親密感を醸成

東急ハンズ 弊社のロゴが、フォロワーさんから手羽先だと呼ばれていて鉄板ネタのようになっていますが、それは認めたことがないんです。あえて認めないのが、ロングランの秘訣になっています(笑)。今日も朝、青空の写真を投稿したら、突っ込まれましたが、ツッコミの余白は大事だと思います。

キングジム ツイートで間違ったりすると、リプ欄が大喜利化することもありますよね。それは長くやってきたからこそかなと。気軽に「なんでやねん!」みたいに突っ込める関係になってきたというのは、ファンの方を知ることでファンの方から声を掛けていただく機会が増えてきたからなのかなとは思います。

さとなお 「中の人」に絡んでくる方というのは、ある種、予定調和のプロレスに近いとこありますよね。そういう近い距離感での掛け合いができるのは、自分に価値観が似ていると感じているからこその言動ですから、非常にいい関係を築けているのでしょうね。

キングジム 鉄板ネタといえば、企業の公式アカウント同士の会話もその一つですね。企業アカって、1社だとただの独り言になってしまって、成り立たせるのが難しいことがあるんです。そんなとき、ここにいる皆さんのような方々とコミュニケーションをすることで、ファンが入りやすくなるのかもしれません。ちょっと話し掛けづらいと思っていても、クラスでセガとタニタ、キングジムがみんなでガチャガチャしていたら、ここに自分も入っていいかなと。そういった雰囲気がつくれるのは、1社ではできないことだと思います。5年ほど前から、「井村屋さんを呼び出してくれ」と盛んに求められています。確かにすっかりマンネリのネタではあるのですが(笑)、そういうストーリーを定期的に見ると安心するような要素がTwitterにはあるんだと思います。

井村屋 私はそれを様式美って言ってます(笑)。

キングジム コラボは企業同士のWin-Winになるのが理想ですね。以前に、井村屋さんとコラボして、キャンペーンで「あずきバーキングファイル」をつくってプレゼントしたら3万件の応募があり、反響も大きかったです。ただ、だらだらと企業同士のコラボを引っ張っていると、内輪ネタと取られかねない。一見(いちげん)さんや通りすがりの方が見ても面白いと思ってもらえるような企画であるかどうかを考えています。

さとなお いつも一人で投稿している「中の人」が、会話する相手がいることで違う面が見えたりする。それはファンを喜ばせます。相手の企業のファンになることもあるでしょうね。コラボの話もそうですが、一ファンとしての視点を大切にしたり、鉄板ネタをつくったりと、様々な方法で親近感や信頼感を得ておられますよね。私自身、SNSをPRのために使うとか、拡散のために使うのは間違っていると思っているのですが、皆さんはそれぞれの立ち位置は違えど、そこを実体験で理解し、とてもうまく生かしていると感じました。こうした感覚と日々の努力は、企業にとって得難い資産であり、今日の6人の方々以外も含めてそれをつかんでいる「中の人」は、生半可でリクルートできないプロフェッショナルだと思います。マジで申し上げるのですが、こういう感覚を日々磨き、コツコツとファンとの関係性を積み重ねてきた「中の人」の給料は、今の倍以上に上げるべきだと思います。