セガ、キングジム、タカラトミー、タニタ、東急ハンズ、井村屋。6人の企業Twitter「中の人」にSNS運用の秘訣を聞く本連載。特別編として、ファンベース・ディレクターの佐藤尚之(さとなお)氏と6人がオンラインで集結した座談会をお届け。前編はTwitterの利用目的や「中の人」のスタンスについて。
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セガ、キングジム、タカラトミー、タニタ、東急ハンズ、井村屋の6社の「中の人」にファンに愛される極意を聞いた書籍『自由すぎる公式SNS「中の人」が明かす 企業ファンのつくり方』(日経BP)より、ファンベース・ディレクターの佐藤尚之(さとなお)氏と6人の座談会の様子を抜粋し、お届けします。
――単なる拡散目的ではなく、フォロワーとコミュニケーションを取ることで絆をつくってきた皆さん。今のスタイルをどうつくり上げてきたのでしょうか。
東急ハンズ 公式Twitterの目的は、当初から変わらずブランディングです。「新商品が出ました」といったコマーシャルなどには使わず、お客様とコミュニケーションを取りながら、お客様にとって東急ハンズのプライオリティーを上げていただくことを主眼としています。皆さんはいかがですか。
タニタ タニタというと、健康というイメージがあると思うんですけど、商品を買っていただけるお客様の層は40代以降の中高年以上の方が多いんですね。一定の年齢になると健康には自然と興味が湧くもの。そうした弊社にとってのメインストリームの層は通常の広報の部隊がいるので、商品のPRはそちらに任せておこうと。逆に公式アカウントでは、若い方との接点をつくるのが第一義です。明確な目標設定があってそれを目指せというような上からの指示も特にないので、今後もこのスタンスで続けていくのかなと。
セガ 総合的なエンターテインメントコンテンツの会社なので、それぞれの商品やサービスの一つ一つにファンがいます。SNSを始める2012年以前は、例えばゲームならコアな情報をゲーム雑誌に届けることが多かったんです。でも、もう少し分かりやすい言葉で、一般のお客様に広げていこうと、SNSがスタートしました。位置付けとしては、セガのコンシェルジュのような立場で、商品やサービスを笑顔で案内する人なのかなと思っています。
井村屋 実は、「Twitterをやらなきゃダメだ!」と提案したのは、私なんです。トップに掛け合ったときに、「Twitterで商品は売れません!」と言い切ったので、今も売り上げについてトップから何も言われません。企業のコミュニケーションアカウントというスタンスです。
キングジム 公式Twitterの立ち上げは10年なので、11年目を迎えます。その頃から、顧客接点の場という位置付けは変わっていません。扱っている商品が事務用品ということから、世間からどちらかというと「堅い」「とっつきにくい」というイメージを持たれがちなので、Twitterで柔らかいコミュケーションを取ることで、友人や知人のような関係性ができればなと。そして、最終的にキングジムのファンになっていただき、売り上げにつながればということを目標にしています。ただ、Twitterからどれだけの売り上げに結びついているかを会社から追求されるわけではありません。
タカラトミー 私がいるのは、メディア戦略部の中でマスメディアやSNSを活用する部門。 近年デジタルマーケティングに力を入れる中で、YouTubeなどの媒体も担当し、公式Twitterもその一つとして、最終的に物が売れるということを目指してはきました。ですが、売り上げへの貢献度を厳しく会社から求められることはありません。今、フォロワー数が30万人を超え、社内的にも自社メディアのような使われ方をされるようになっています。
「自分が一ファン」としてフォロワーとの結びつきを強化
さとなお 僕はこれまで30年以上「広告」という露出量勝負の世界にいましたが、今では悔い改め、ファンベース(編集部注:企業やブランドが大切にしている価値を支持する生活者を「ファン」と位置付け、そのファンをベースに中長期的な売り上げや企業価値の向上につなげていくこと)という考え方でやっています。特にこれから長い不況期に入ると思うのですが、不況のときにこそ大切にすべきは、今の売り上げの8割を支えている2割の強いファンなんです。特にここにいる皆さんは、SNSを通じてコミュニケーションを取り続け、既にファンである方々を強固につなぎ留めている。ファンとの結びつきをより強固にするため、どのような距離感で接しているのか知りたいです。
東急ハンズ 始めた当初は、「会社の看板を背負って情報発信するぞ!」と肩に力が入っていました。でも、それでは鳴かず飛ばず。そこで、途中からうまく活用している他企業のアカウントを研究すると、コミュニケーションを大切にしているなと気付きました。そこからは、ハンズファンの一人という立ち位置で、たまに俺は社員の一人だったんだと気付くくらいの感じでいます。
タカラトミー 僕自身も、一ファンという意味では、東急ハンズさんと近いと思います。やはりタカラトミーの商品がもともと大好きで、おもちゃで遊んできた人間。僕が子供の頃に遊んでいたベイブレードなど、素晴らしいものを届けたいという気持ちが強いです。一番のファンとして、1人でも多くの仲間を増やすと楽しい社会が広がるかなと思って取り組んでいます。
井村屋 ファンという点では私もそうですね。私は、井村屋は必ずしも生活に必要な商品ではなく、嗜好品を扱っていると思っているんですよね。極端に言えば、買わなくてもいいものを扱っていると。でも、井村屋に期待してくださる方がいるのも事実ですし、私の場合は商品の設計から関わっていますので、どの商品にも愛情を持って世の中に出しているんです。
セガ 私自身もセガのファンです。ですが、商品が多岐にわたっているので、特定の商品だけに過剰な思い入れを持って伝えないようにと、気を付けています。セガには、単に製品やサービスを売るのではなく、その先にある熱狂や感動体験を提供するというミッションがあるので、創業以来の精神のようなものを一ファンとして大切に伝えていけたらと思っています。
タニタ 現在はそれほど健康に関心がない若い世代にタニタってどんな企業か知ってもらうために、「ものづくりをしている人たちはどんな人?」という人間の部分を知ってもらえたらなという思いで発信しています。例えば、私がタニタの1人として、何を日々感じて、社長とどういったコミュニケーションを取っているか。社長は何が好きなのか。人間味を通して、親近感を持ってもらうことがテーマだと思っているんです。
キングジム 「知り合い以上、友達未満」くらいの関係性でいることが、立ち上げ当初からの運用スタンスです。10年前は、一般のユーザーが企業に問い合わせをしようとすると、CS部やお客様相談室くらいしか窓口がなかったと思うんですね。ただ、今はSNSが普及して、気軽に企業で働く一社員に話しかける環境が整ったのは大きな変化です。いつでも気軽に話しかけられる存在でいたいと思っています。また、会社と自分とを足して割ったような感じの、「アカウントの人格」を意識しているのですが、皆さんは「人格」についてはどんなふうに考えていますか。
どこまで「個」を出すのが「中の人」の正解か
タカラトミー やっぱり、タカラトミーのおもちゃが大好きな、一ファンだと思ってもらいたいですね。商品を紹介したときにも、この人本当に好きだから商品について熱い思いを持っているんだなと思ってもらえたら、心とか耳を傾けてくれると思うので。
セガ 私はあまり、人格をこうしようとかは考えたことがないんですけど。京都の人に京都のおみやげを渡してしまうなど、身近な失敗も投稿しているので、フォロワーさんからはドジっ子みたいに思われているかもしれないですね(笑)。ただやはり、会社のイメージと同様に、何事にも一生懸命で「創造は生命」の名の下に、時には突っ走ってしまったり、無謀なチャレンジをしたり、何か面白そうなことをやってくれる存在として見られていればいいなと。
井村屋 140文字の中で、それぞれの人格って、なんとなく伝わってしまうものなのかなとは思いますね。だから、無理やり自分の素の人格を変えたり、つくろうとしたりせず、誠実なまま活動しています(笑)。
タニタ 私も無理に自分のキャラをつくろうとは思っていませんね。自分が思っていることを率直に伝え、それで集まってきてもらえるという感覚に近いです。
東急ハンズ 同感です。ただ、皆さんと違うのは、うちが小売り業態ということですね。SNSでフォロワーさんとコミュニケーションを取るわけですが、店頭では日々うちの従業員がお客様とじかに会話をしているんです。だから、SNSのコミュニケーションと店頭での接客に乖離(かいり)があってはいけない。店頭で丁寧な接客を受けて東急ハンズを信頼してくださっているお客様の期待をSNSで裏切らないということは、念頭に置いていますね。
次回、後編に続きます(6月17日公開予定)。