企業アカウントの「中の人」が運用の秘訣を語る本連載のトップバッターはTwitter開設10年を迎える東急ハンズ。第1回は、アカウント開設の経緯や目的、第2回は、企業アカウントの作法10カ条について、第3回はバズったツイート・売れたツイートを振り返った。第4回は炎上回避策と対応について説明する。

今回は、企業アカウントを運用するに当たって、ネット炎上をはじめとするトラブル回避策・対応策についてお聞きしたいと思います。第2回の「企業アカウントの作法10カ条」の中に、「投稿内容が偏らないように心がける」「企業アカウントは凹んではいけない」といった内容がありましたが、他に「これはしない・やらない」と決めていることはありますか?

いわゆる“常連”フォロワーさんとの距離感について。開店時刻の10時に朝のあいさつをすると、たくさんのリプライをいただきます。大変ありがたいことです。こうした常連さんとの関係を築くのは大事です。大事ですが、特定アカウントとだけ“キャッキャウフフ”しているように見える状態はあまり好ましくないと思います。外から見て、一見さんが入りづらそうな、疎外感を感じるような運用は避ける必要があります。

 企業によっては、例えば専門的な商材を取り扱っていて、その分野に精通した顧客とのやりとりが見ていて参考になる、という運用もあるかもしれません。ただ当社の場合は、幅広い品ぞろえで老若男女幅広いお客さまにご来店いただきたいお店なので、そこは偏らないように注意しています。これは実店舗の接客も同じです。よくご来店いただく顔なじみの常連さんと店員がずっと話し込んでいたら、印象よくないですからね。

確かに常連でないと分からないような会話が交わされていたりすると、新規の人を遠ざけてしまいますね。その点、「手羽先」の一言で入り込めるハンズアカウントはハードルが低そうです。他に何かルールはありますか?

トラブル回避策として、「5S」を定めています。

えーと、整理、整頓、清掃、清潔、あと1つ何でしたっけ?

いやいや(笑)。職場環境を整える5Sではなくて、ツイートで避けるべき5つの話題の頭文字を取った5Sです。「政治」「宗教」「差別」「スポーツ」「セクシュアル」の5つを指定しています。

政治、宗教、差別、セクシュアルは当然として、スポーツもですか?

スポーツは回避テーマだが、国民的関心事についてはこの限りではない
スポーツは回避テーマだが、国民的関心事についてはこの限りではない

もちろん、サッカーW杯やオリンピックのような国民的行事ともなれば、日本代表選手・チームを応援する投稿は問題ありません。あと、例えば広島店のアカウントが地元の球団、チームを応援するのもアリです。ここでスポーツをNGとしているのは、投稿者が個人的にファンである球団やチーム、選手をひいきするような投稿はよくないという意味です。アカウント運用に当たって投稿者の個性を出すこと自体はいいのですが、好みが分かれる領域で特定チームのファン活動をして、公式アカウントに色が付くようなことは避けたい。当社はプロスポーツチームの運営やスポンサーにはかかわっていないので、誤解を招かないようにする必要もあります。

なるほど。5Sは店舗アカウントも含めて順守されている?

はい、ただ一度だけ、このハンズ公式アカウントで「政治」に抵触まではしていないものの、ギリギリ言及したことがあります。2017年の10月、衆院選の直前でした。

それは覚えています。小池百合子都知事が希望の党を立ち上げて街頭演説していた時ですね。

ええ、東京・町田駅前での演説だったようですが、ちょうど選挙カーから看板が目に入ったのでしょう。「東急ハンズにもニトリにも、いろんなもの売っていますけれど、ちょっと足りないのが希望」という発言があったと。「将来への希望が持てる国をつくることが重要」という主張の流れの中ですけれどね。

「ハンズ、大人の対応」と称賛された
「ハンズ、大人の対応」と称賛された

 はじめは静観していましたが、この演説が党のYouTubeチャンネルで配信されていて、これにフォロワーさんが反応して「希望が足りないって言われていますよ」と知らせてくれました。ちょっと迷いましたが、固有名詞が出ていることもあるので、コメントいただいたフォロワーさんや来店者の方に答える形で投稿したのがこの内容でした(右図)。

 演説に対する反論になってしまわないよう、慎重に言葉を選びながらの投稿でしたから、バズを狙う意図など毛頭ありませんでしたが、これが大きな反響を得ました。ネットニュースをはじめ新聞記事にもなり、「ハンズには希望がたくさんあります。応援しています!」といったコメントが多数寄せられたのがうれしかったですね。もっともこれは例外中の例外なので、政治に言及しないルールは今後も変わりません。

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