「データを生かしたサービス」が、現代のビジネスの潮流を作っている。このトレンドが今後もしばらく続くのは間違いない。前回述べたように、人間拡張テクノロジーが生み出す新産業でも、データを生かす仕組みが競争力の鍵を握ると考えられる。

今いる場所とは異なる遠隔地に自分がいるような感覚を与え、そこで行動することを可能にする人間拡張テクノロジー「遠隔存在」に取り組むスタートアップ企業が日本に登場している
今いる場所とは異なる遠隔地に自分がいるような感覚を与え、そこで行動することを可能にする人間拡張テクノロジー「遠隔存在」に取り組むスタートアップ企業が日本に登場している

 データを生かしたサービス作りで欠かせないのは、大量のデータをもたらすユーザー基盤だ。ただ資本力が必要であり、作れるのは巨大IT企業のような大企業にほぼ限られる。生まれてまもないスタートアップ企業は、厳しい戦いを強いられるのが現状である。

 とりわけ新たなハードウエアで勝負をもくろむスタートアップ企業は、ビジネスを軌道に乗せるまでにいくつもの関門を乗り越えなければならず不利な立場にある。

 「ハードウエア系スタートアップ企業の成長を阻む要因は大きく二つある」と指摘するのは、TomyK(東京・千代田)代表の鎌田富久氏である。鎌田氏は、ヒト型ロボット開発のSCHAFT(2013年にグーグルが買収)、小型人工衛星開発のアクセルスペース(東京・中央)、次世代パーソナル・モビリティ開発のWHILL(横浜市)など、数々のハードウエア系スタートアップ企業に対し、創業期に支援してきたエンジェル投資家として知られる。

 「ソフトウエア製品やネットサービスと違って、ハードウエアは市場に投入されるまでに長い時間がかかる。資金が続かなければ、ビジネスが立ち上がる前に倒れる。起業の出だしの障壁を越えても、次に資金調達の障壁が待ち構えている。ソフトウエアならせいぜい人件費とサーバー代で済むが、ハードウエアの場合、製造コストがかなりかかる。シリーズA、シリーズBまではスムーズに進んでも、シリーズCで難航する場合がしばしばある」(鎌田氏)。

 人間拡張テクノロジーを手掛けるスタートアップ企業にとって、独自のハードウエアが大きな役割を果たす場合が多く、他のハードウエア系スタートアップ企業が経験してきたのと同様の障壁にぶつかりがちだ。短期的な目標と長期的な目標を区分けし、短期目標の達成で利益を確保しつつ、長期目標の達成を図る二段構えの戦略が必要になってくる。

大注目スタートアップ企業が開発中の驚きの技術

 では実際に人間拡張テクノロジーのスタートアップ企業の起業家はどんな問題意識やどんな展望で新製品・サービスの開発に取り組んでいるのだろうか。今回は、ユニークなスタートアップ企業を紹介したい。

 「5年以内に1000台のロボットを販売できるマーケットを探す。それが2017年にこの会社を設立したときに掲げた目標だ」。こう話すのは、テレイグジスタンス(東京・港)の共同創業者でCEO(最高経営責任者)を務める富岡仁氏だ。会社名にしたテレイグジスタンスとは、直訳すると「遠隔存在」という意味。今いる場所とは異なる遠隔地にあたかも自分が存在するような感覚を与え、そこで行動することを可能にする人間拡張テクノロジーである。

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