日経クロストレンドなどの主催で2019年5月に都内で開かれた技術イベント「テクノロジーNEXT 2019」。5月27日には、次世代技術で人間の能力を拡張する「人間拡張」をテーマとするプログラムを終日開催。最後のセッションでは、全く新しい技術でどうビジネスを組み立てていけば成功するのかについて、キーパーソンが激論を戦わせた。

「人間拡張技術はいかにビジネスに応用できるか、その可能性を読み解く」をテーマにしたプログラムでは、キーパーソンが人間拡張技術ビジネスを成功に導く鍵について議論を戦わせた
「人間拡張技術はいかにビジネスに応用できるか、その可能性を読み解く」をテーマにしたプログラムでは、キーパーソンが人間拡張技術ビジネスを成功に導く鍵について議論を戦わせた

 2019年5月27日に行われた人間拡張に関する最後のセッションのテーマは、「人間拡張技術はいかにビジネスに応用できるか、その可能性を読み解く」。デジタル・イノベーション戦略支援を手掛けるEYアドバイザリー・アンド・コンサルティングの園田展人氏と、ベストセラー書籍「起業の科学」の 著者として知られる田所雅之氏が登壇。まず10分ずつ割いて、人間拡張を使ったビジネスの在り方や課題についてそれぞれの視点で意見を述べた。それを踏まえた後半のトークセッションでは、日本企業が人間拡張ビジネスを成功させるためにどうアプローチすればよいのかについて意見を交わした。

未来社会「Society5.0」のキーテクノロジー

 冒頭に登壇した筆者は、まず人間拡張技術が近年注目を集める背景と、同技術を用いたビジネスモデルについての見立てを述べた。

先にスピーチした筆者は、人間拡張技術が近年注目を集める背景などを解説した。
先にスピーチした筆者は、人間拡張技術が近年注目を集める背景などを解説した。

 人間拡張技術が盛り上がる背景の一つは、日本における生産年齢人口(15~64歳までの労働力の主体となる年齢層の人口)の急減にある。日本の総人口に占める生産年齢人口比率は2050年には51%に落ちこむと予想される。何の手も打たなければ、生産年齢人口の減少に連動して経済も低迷する。危機を打開する切り札が「超人化」と「無人化」による生産性の向上であり、どちらにも人間拡張技術が重要な役割を果たす。

 人間拡張技術の研究開発は、日本以外でも活発に進められている。特に軍事方面での応用に力を入れるのが米国。国防総省の研究開発部門であるDARPA(国防高等研究計画局)は、失った手足の触覚を直接脳に生じさせる技術や兵士を疲れさせない技術、兵士の脳にチップを埋めこむ技術といった研究テーマに投資している。

 義手や義足、車椅子などの医療機器の高度化を推進しているのが欧州だ。障害者が、ロボット工学を駆使して強化した義手や義足、車椅子などを操作して競技に挑む国際大会「サイバスロン」は、欧州が目指すものを強く打ち出したイベントである。

 医療機器の高度化に注力している点で日本と欧州は似ている。ただ、超人化する対象として、障害者だけでなく健常者も含んでいるのは日本ならでは。象徴する取り組みが「現代のテクノロジーでスポーツを再発明する」をスローガンとする「超人スポーツ」だ。「パワーアシストスーツ」「ヘッドマウントディスプレ-」「センシング」などの技術で人間の能力を拡張し、技を競い合うイベントである。

 人間社会は、「狩猟社会」(Scoiety1.0)、「農耕社会」(Society2.0)、「工業社会」(Society3.0)と発展し、現在は「情報社会」(Society4.0)の段階にある。そして次に訪れるのが、サイバー空間とフィジカル空間の融合によって、経済発展と社会的課題の解決を実現する未来社会「Society5.0」である。Society5.0を実現する中核技術の一つが「ヒューマン・オーグメンテーション(人間拡張)」であり、政府もこの人間拡張技術に期待している。筆者が所属するEY JapanもSociety5.0のテーマ策定を支援しており、人間拡張技術の応用範囲を、人間が関わるあらゆる領域に広げるべきだと提言している。

 問題は、日本企業が人間拡張技術をビジネスにどうつなげられるか、である。筆者は、産業競争力のあるビジネスモデルを構築するには、人間拡張技術を通じて得られるデータの活用が欠かせないと考えている。

 例えば米グーグルは、主要サービスである検索エンジンを通じてユーザーの興味・関心・行動パターンなどのデータを収集・解析している。検索エンジンを無料で使わせたうえで広告サービスを展開し、広告主から利益を得ている。無料で提供する領域とマネタイズする領域を分けているのが特徴だ。

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