人間拡張技術を社会に根付かせるには、どんなビジネスモデルが馴染むだろうか。この問いを考える上で、注目すべきキーワードは、「データ」である。データをどう活かすか。その視点が、人間拡張テクノロジー・ビジネスを考える上で欠かせない。

人間拡張を使った素晴らしいサービスを世に送り出し消費者の心をつかむには、ビジネスモデル作りが大切だ。そのヒントが米ゼネラル・エレクトリック(GE)などにあるという(写真/Shutterstock)
人間拡張を使った素晴らしいサービスを世に送り出し消費者の心をつかむには、ビジネスモデル作りが大切だ。そのヒントが米ゼネラル・エレクトリック(GE)などにあるという(写真/Shutterstock)

 いくらすばらしい人間拡張テクノロジーを開発しても、モノ(ハードウエア)を売って終わりという考えで取り組めば安価な類似品との厳しい競争にさらされ、あっという間に競争力を失ってしまう。かつて栄華を誇った日本の製造業の多くの製品がたどった道である。

 日本企業が同じ失敗を繰り返すことは悲しいし、何としても避けたい。そんな思いで、私はこれまでコンサルタントの業務に携わってきたが、残念ながら伝統的な製造業各社などにデータ活用の重要性を訴えても理解していただけないことが少なくない。

 昔はモノであれサービスであれ、顧客に価値を提供して対価を得るビジネスモデルが一般的だった。しかし今、成功を収めているのは、モノやサービスを通じて顧客から得たデータを利用して多種多様なビジネスを展開するモデルである。従来の「モノ/サービス」に、「データ」と「データ起点サービス」が加わったのが現代のビジネスモデルなのである。

モノやサービスそのものの対価でなく、モノやサービスに内在するデータの価値から対価を得る
モノやサービスそのものの対価でなく、モノやサービスに内在するデータの価値から対価を得る

 ソフトウエアを扱う業界では、ユーザーの利用データをサービス向上や新サービスの開発に生かす仕組みがすでに確立されている。例えばストリーミング配信が主流になった映像や音楽の世界では、データ活用こそがサービスの質を決める大きな柱の一つになっている。

 IoT(インターネット・オブ・シングス)の普及とともに、ハードウエアを扱う製造業の中でもデータ活用の重要性は徐々に理解されるようになりつつある。2000年を境として、製造業はそれ以前とそれ以後で全く姿を変えている。

 データ活用とデータ起点のサービスを取り入れ、ビジネスモデルの変革を成し遂げた代表的企業の一つが米ゼネラル・エレクトリック(GE)である。

 米国最大のコングロマリッドであるGEの主力事業は1892年の設立以来、産業用機器の製造・販売、すなわち「モノ売り」だった。ところが2000年代以降、同社は「サービス売り」の会社へと大胆な変貌を遂げた。象徴的なのが、世界で圧倒的なシェアを誇る航空機エンジンをめぐる変革である。かつてGEは航空機エンジンを製造し、米ロッキードマーチンや米ボーイングのような航空機メーカーに販売していた。エンジンは航空機メーカーによって航空機に組みこまれ、米アメリカン航空や米デルタ航空、米ユナイテッド航空、あるいは軍用機であれば米軍などに納入していた。モノが航空機メーカーからエアラインへと移っていく典型的なモノ売りビジネスだったのだ。

 このビジネスモデルにおいてエアラインは、GEにとって間接的な顧客であり直接的な顧客ではない。しかし潜在的価値を見いだすことで、エアラインと直接関係を結ぶことに成功する。

 実は当時エアラインは二つの課題を抱えていた。一つは、機器の故障などによる旅客機・貨物機の遅延やキャンセルによって発生していた損失だ。「メンテナンス費用」「従業員の賃金」「物流コスト」「顧客喪失」などで、年間110億ドル以上とも言われる。もう一つは、燃料費の高騰である。この二つの課題を解決するために、旅客機・貨物機の遅延・キャンセルを減らす「最適な保守計画」、さらに燃料費を節約する「効率的な運行計画」をエアラインに提供。これまで誰も手を付けていなかった潜在的価値に注目したわけだ。

 単にモノの販売だけであれば、潜在的価値のごく一部にしかアクセスできない。そこでGEは、センサーを航空機に組み込んでリースすることにした。航空機エンジンの運用状況のデータを取るためだ。

 これによって、顧客(航空機メーカー)の顧客だったエアラインが、GEにとって直接の顧客となった。リースした航空機エンジンの状況を常時モニタリングして解析可能になり、故障箇所やメンテナンスを要する箇所をいち早く察知し対処できるようになった。様々なセンサーからの情報を元に、燃料費を節約する航空路を提案することも可能になった。センサーデータの活用によって、データ起点のコンサルティングサービスを提供できるようになったのだ。