産業技術総合研究所は2018年11月、「人間拡張研究センター」を東京大学の「柏IIキャンパス」(千葉県柏市)に新設した。19年4月に本格稼働した同センター長の持丸正明氏に、人間拡張研究の産業化が抱える課題について話を聞いた。

産業技術総合研究所「人間拡張研究センター」センター長の持丸正明が明かした、人間拡張実現に立ち塞がる課題とは(写真/Shutterstock)
産業技術総合研究所「人間拡張研究センター」センター長の持丸正明が明かした、人間拡張実現に立ち塞がる課題とは(写真/Shutterstock)

「人間拡張」の定義について教えてください。また、人間拡張を定義付ける上で最も重要なことは何でしょうか。

人間とシステムをセットにして、人間の能力を拡張・増強させる技術です。東京大学の暦本純一教授や稲見昌彦教授は、顕微鏡や望遠鏡が登場した頃に人間拡張の研究が始まったとしています。顕微鏡と望遠鏡は、人の目では見えないものを見えるようにする人間拡張技術と考えられるからです。人間拡張は、ITやロボット技術を使って人間を拡張しようする概念です。

 ただ私は、システムを使って一時的に身体能力を拡張し、後は自分の体は弱っても構わないものは作りたくありません。システムに頼りきりではなく、使い続けると生物学的に増強されていくシステムを作りたいと考えています。

サイボーグみたいなイメージでしょうか。

そうです。エクソスケルトン(外骨格)のウエアラブルロボットは人間拡張にとって重要な概念で、身体機能をパワーアップするキーテクノロジーには違いありません。しかし私は、もう少し広い概念で人間拡張技術を捉えています。

 以前、電気通信大学で開催された国内会議で行ったデモを紹介しましょう。参加者がサッカーボールを蹴ってゴールに入れるというもので、ボールを蹴るタイミングでキッカーが装着していた人工筋肉が作動しました。キッカーは身体的にパワーアップした感覚を得られ、さらに蹴ったボールがゴールネットを揺らした瞬間に、風を切った音が出ます。つまりキッカーは、体のパワーアップだけでなく、自分がボールを蹴ったことによる環境の変化も増幅して感じられたのです。

自分自身が増強されるだけでなく、周りの環境もその人の増強を助けるわけですね。

ボールを蹴るタイミングでキッカーが装着していた人工筋肉が作動する「超人PK」の様子(提供/持丸正明氏)
ボールを蹴るタイミングでキッカーが装着していた人工筋肉が作動する「超人PK」の様子(提供/持丸正明氏)

その通りです。先ほどのサッカーの例は、名付けるなら「超人PK」。私はもともと人間とは、外界からの刺激を感じて反応する「スティミュレーション・レスポンス」(SR)なシステムだと捉えていました。例えば、急に明るい場所に来ると「まぶしい」と感じて目を閉じますね。

 ただ超人PKはSRではありません。まず蹴る力をパワーアップし、実際に蹴ると今度は環境がパワーアップされる。その結果、キッカーは自分が蹴ったボールがすごい音を発生させたと知覚できる。私はこれを、「アクション・パーセプション」(AP)と呼んでいます。

 人は外界を変えようとしている生き物です。どれくらい自分の力で外界を変えたかを知覚して、自分の力を測っています。APモデルの人間拡張技術は、人間と環境が相互作用するのです。

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