人間拡張に関わるテクノロジーが、次のメガトレンドを作り出す。それがEYのシンクタンクEYQが2018年発表したリポートのメッセージだった。このメガトレンドはどんなビジネスを生み出すだろうか。

人間の身体能力、認知能力を拡張する「人間拡張」に注目が集まっている。人口減と高齢化が進む日本は、この技術を使った新市場をリードする絶好のポジションにある(写真/Shutterstock)
人間の身体能力、認知能力を拡張する「人間拡張」に注目が集まっている。人口減と高齢化が進む日本は、この技術を使った新市場をリードする絶好のポジションにある(写真/Shutterstock)

 人間拡張に関わるテクノロジーが、次のメガトレンドを作り出す。それがEYのシンクタンクEYQが昨年発表したリポートのメッセージだった。このメガトレンドはどんなビジネスを生み出すだろうか。

 前回述べたとおり、日本では人口減と高齢化に起因して生産年齢人口が急速に減少しており、生産性向上が求められている。一方で、人間拡張の研究が盛んであり、世界と比較して高いプレゼンスがある。「ニーズ」「シーズ」の双方で強みを持つ日本は、人間拡張テクノロジーが生み出す新市場をリードする絶好のポジションにいると言える。このチャンスをぜひ生かしたい。

 しかし、ニーズとシーズのポテンシャルは高くても、研究開発を加速化しビジネスを立ち上げるには、研究者や事業化を考える人たちへのバックアップが欠かせない。そこで大きな役割を国が担うことを期待したい。

 日本政府は現在、人間拡張テクノロジーをどのように見ているのだろうか。2019年2月19日、EY Japanはイベント「EY Japan Symposium 2019」を開催した。筆者がモデレーターを務めたパネルディスカッション『「超人化」時代における社会・産業とビジネスチャンス』では、パネリストの1人として経済産業省 製造産業局 ロボット政策室 課長補佐の栗原優子氏が参加した。同省の取り組みや今後の展望について伺う機会を得たので報告したい。

 栗原氏によれば、経産省はこれまでロボット技術の社会実装に力を入れてきたという。背景の一つが、産業用ロボット業界における日本の強さだ。世界の産業用ロボット出荷台数において日本メーカーのシェアは半分以上。世界の産業用ロボット販売台数は5年間で倍増し、今後も増加する見込みだ。

 政府は「ロボットによる『新たな産業革命』を起こす」(2014年5月6日のOECD閣僚理事会における安倍首相の基調講演より)として、成長戦略の一つとしてロボット技術の発展と普及に力を入れてきた。2015年2月には「ロボット新戦略」を策定。2020年までの5年間をロボット革命集中実行期間と位置づけ、ロボット関連プロジェクトへの投資(総額1000億円)や、福島県にロボットテストフィールドの設置、イベント「World Robot Summit」の開催などを推進してきた。

 一方、こうした取り組みの中で、特に重点分野の一つである介護分野の中で新たな課題が浮かび上がってきたという。「移乗」(車椅子からベッド、トイレから車椅子など乗り移り動作)「移動」「排せつ」「入浴」など、介護の現場では介護者に大きな肉体的な負荷がかかる。ロボット新戦略では、こうした重労働を軽減し、腰痛リスクをゼロにすることなどを目的に掲げた。実際ロボット技術の活用が進みつつあり、パワーアシストスーツなどの介護現場への導入も始まっている。しかしながら栗原氏によれば、介護者の負担を軽減するだけでは十分ではないことが分かったという。

 「現状のままでは、日本では高齢化の進展などを背景に、要介護の人の数が増え、生活に様々な不自由を感じる方が多くなっていく可能性がある。また、2018年に10.7兆円であった介護給付費が2025年には15.3兆円と約1.5倍に達する試算もある。介護現場の負担軽減はもちろん欠かせないが、それだけでは人々の生き生きとした暮らしを実現し、また日本を持続可能な社会としていく上で根本的な解決にはならない。例えば、高齢者の自立支援に目を向け、人々がなるべく介護状態にならないように目指したり、介護状態にある人の日常生活に関わる動作をサポートして筋力向上を支援したり、それぞれの人が自分らしい自立した生活に近づけるように後押しすることが重要だ。それらに資する人間拡張テクノロジーの活用に期待している」(栗原氏)。

 栗原氏の発言から、経産省が人間拡張テクノロジーに大きな期待を寄せていることが分かる。2018年11月、同省が所管する国立研究開発法人産業技術総合研究所が人間拡張研究センターを発足させたのは、その期待を具体化したものだと言えるだろう(次回の記事では同センター長の持丸正明氏へのインタビューを紹介する予定である)。

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