前回紹介した「可変単位地区問題」は、簡単な地理空間データの分析において必ず検討すべき問題である。しかし見方を変えれば、地区の分割は分析者の個性や独創性を発揮しやすい部分でもある。またエリア分割の方法をいくつか知っていれば、データやその分析結果を多面的に評価もできる。今回は地区分割の方法を紹介する。
地区分割には、前回の方法以外にもさまざまな切り口がある。例えば、「町字」ではなく「町丁目」(新宿区歌舞伎町1丁目、新宿区歌舞伎町2丁目など)による分割や、地下鉄の最寄駅を踏まえた分割などである。郵便番号や小学校・中学校の学区、最寄りのコンビニエンスストア、地域メッシュといったアイデアもある。日頃接しているデータの種類や分析対象の業界によっても、アイデアは変わるだろう。
ただし地区の分割は、単純にアイデアに依存するわけではない。そもそも可変単位地区問題には、2種類の問題がある。1つは分割する地区の形状によって集計結果が変わってしまうことで、これはゾーニングの問題と呼ばれる。例えば、前回のように町字と最寄駅で地区を区分すると、各地区の形状は異なる(注1)。
もう1つは、集計単位の粒度によって集計結果が変わってしまうことで、これはスケールの問題と呼ばれる。例えば、国勢調査の250メートルによるメッシュと、500メートルによるメッシュでは集計結果は異なる。また2つの問題は同時にも起こる。例えば、行政区画である町字と町丁目では、分割する地区の形状と集計単位の粒度の双方が異なる。
分割方法の紹介
このような地区の形状や大きさに基づく集計結果の違いに気が付けば、さらに新しい地区の区分を考え出すことも可能である。では、どのような地区の区分方法があるかを考えていこう。
まず、網の目や多角形などで対象エリアを幾何学的に区分する方法だ。例えば国勢調査における地域メッシュは、「1次メッシュ」「250メートルメッシュ」といった複数の単位がある。いずれも緯度経度に基づいて網目状に地区を分割したものである。また、英ワットスリーワーズ(what3words)は、世界中を3メートル四方の正方形で分割し、それぞれに3つの単語を割り当てている。また、米ウーバー・テクノロジーズの場合、世界中を六角形で分割していることが知られている。このような幾何学的な視点の場合、分割した地区の形状は同じで、地図の縮尺を変えても解釈の方法まで大きく変えなくてもよい。
ただし図形の種類によっては、縮尺が同じでも、全ての地区が同じ大きさとは限らない。球である地球を平面図形で近似すると歪みが生じてしまうからである(注2)。例えば、単純な緯度経度で網目状に区分けすると、世界地図で高緯度と低緯度の地域では一つのマス目の大きさが異なることがある(注3)。広域な空間を分析したり、分析結果を広域な空間で可視化する際には一考しなければならない。
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