ネットサービスが当たり前の現在でも、高年齢層を中心とした顧客との接点として、電話応対を重視する企業は多い。深刻化するコールセンターの人手不足を解消しようと、AI(人工知能)搭載の音声ボットを活用する企業が登場し始めた。ディノス・セシールと日本瓦斯の取り組みを紹介する。

ディノス・セシールのコールセンター。ピーク時間に人のオペレーターの回線を超える入電があったときに、AI搭載の音声ボットが電話を受け付ける(写真提供/ディノス・セシール)
ディノス・セシールのコールセンター。ピーク時間に人のオペレーターの回線を超える入電があったときに、AI搭載の音声ボットが電話を受け付ける(写真提供/ディノス・セシール)

 平日の午前11時。ディノス・セシールのコールセンターには緊張が走る。フジテレビ系列の情報番組のテレビショッピングコーナーで商品が紹介され、電話の受け付けが始まるのだ。「1日5000~6000本は電話を受ける。年末のズワイガニのような人気商品は1日中ずっと電話が止まらず、1万本を超えることもある」(執行役員ハートコール本部CSサポート本部ディノス・セシールコミュニケーションズ担当の岸端聡氏)。

 ピークの時間帯に合わせて通常350回線、最大で500回線を用意している。それでも電話がつながりにくく、あきらめて途中放棄してしまう顧客は多い。「3割弱は取れていない」(岸端氏)という機会損失が続いていた。

 ネットでも注文を受け付けているが、平日の午前中という時間帯だけに、主な顧客層は50歳以上の主婦。スマートフォンやネットショッピングに慣れていない世代ということもあり、「テレビショッピングは電話の比率が高い。60%は電話が占めている」(岸端氏)という状態が続いている。

通常回線を超える入電時にカバー

 急激に着電が増える番組直後にオペレーターを確保しなければ、応答率を上げられない。といってもピークに合わせて人を集めると、コストは際限なく増えていく。都合よくその時間だけ働いてくれる人を探すのも難しい。

 そんなジレンマを抱える中、産業技術総合研究所(産総研)発のスタートアップHmcomm(東京・港)が開発したコールセンター向けシステム「VContact」を知り、導入に向けた共同開発を進めている。まもなく19年春に稼働を開始する予定だ。

 注文の電話は、全国各地からかかってくるため、「音声認識率が高く、方言にも対応できる」(岸端氏)他、すでに化粧品や健康食品の協和(東京・新宿)のコールセンターで採用され、実績があったことを評価した。電話番号の0だけでも「ゼロ」「レイ」「マル」と複数の表現があるが、そうしたブレを含めて認識できる他、携帯電話からかける場合など周囲の雑音が多少あっても認識できる。

 AIは音声認識のためにディープラーニングによる機械学習を使う。注文を受けるうえでは、家電や健康器具などディノス・セシールが扱う商品を顧客がどのように発音するかといった、精度を高めるための学習用データが必要になる。ディノス・セシールの過去の電話のやり取りや、ディノス・セシールの社員がテスト用回線にかけて話して集めた30時間分(約300コール分)の音声データをHmcommに渡し、教師データとした。

 注文方法は、これまでの人間のオペレーターとのやり取りと変わらない。「ご注文はダイソンの掃除機でよろしいでしょうか」といったAIの音声が投げかける質問に声で回答するだけだ。続けて、製品の色やサイズ、名前、電話番号、住所、支払い方法について答えていく。やり取りの中で、うまく聞き取れない場合は、顧客が「もう一回言ってください」と話すと、AIが言い直してくれる。

 当面は120のAI回線を用意し、人のオペレーターの350回線を超える入電があったときにAIが電話を受ける。AIでスムーズに受注できるノウハウを構築できれば、これまで機会損失となっていた約3割をカバーできる計算となる。将来は「同様の悩みを抱える同業者にシステムを外販する」(岸端氏)ことも視野に入れている。

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