Webページに用意されているFAQの内容をベースとした問題解決型のチャットボットなら、構築までの手間は比較的少ない。マネックス証券では金融サービスの初心者に向け、自己解決の手段を提供するため、担当者がほぼ一人でAI(人工知能)ボットを立ち上げ、1日20分のメンテナンス時間で運用している。
スパルタなのか、野放しなのか。新卒でマネックス証券に入社したばかりの日俣直彦氏が「主担当としてチャットボットを開発せよ」と業務上のミッションを与えられたのは、ユーザーサポートの部門に配属となってから、わずか2カ月後の2017年11月だった。
本来であれば30~40代以上の中堅社員が担う仕事だったのかもしれない。それでも「中高年の担当者が、昔取ったきねづかで自分の知識の範囲でなんとかするというよりも、柔軟な発想で素早く立ち上げる若い力に託した」(マネックス証券 東京コンタクトセンター長の広畑美弥子氏)という抜てきだった。
日俣氏は現在26歳。現在もチャットボットを担当しながら、青森県八戸市のコンタクトセンターに勤務する。「まずはチャットボットが何たるかを理解するところから調べた」と、立ち上げ当時を振り返る。質問文や単語と回答文をひも付ける初期チューニングに明け暮れた。元となるFAQサイトの項目数は1000以上。AIは自動学習の機能を持つとはいえ、人の手である程度チューニングや単語登録をしておかないと、チャットボットの学習スピードが遅くなってしまうからだ。
いきなりサービス立ち上げを担うのは戸惑いもあったが、システム部門などの協力を得ながら、サイト上でチャットボットをどう使ってもらうか、どう配置すれば便利になるかと、アイデアを形にする過程で「面白くなってきた」(日俣氏)。多様な項目をチャットボット用に加工する作業は骨が折れたものの、若手らしい勢いを発揮し、わずか1カ月後の17年12月にチャットボット稼働にこぎつけた。
1日の作業時間は20分
同社はよくある質問をFAQサイトにまとめていたが、金融商品の説明は専門用語が多く、知識の少ない若者や金融商品に触れたことがない初心者には、答えが探しづらいという課題があった。ユーザーが「用語を調べよう」と「Google」などの検索サイトを開けば、そこで表示された競合サービスのリンクに飛ぶ可能性もある。「自社サイト内で調べたいことを完結できる」(広畑氏)ことを目指し、チャットボット導入に踏み切った。
日俣氏が担当となる前に、運営の委託先は、AIを使ったチャットツールを開発するBEDORE(ベドア、東京・文京)に決まっていた。機能面では、AIで質問文と最適な回答文を自動的にひも付けできることに優位性があった。大手IT企業への委託に比べて大幅にコストが安いことも理由の一つだったという。
ベドアのAIの学習プロセスはこうだ。ユーザーが入力する質問文を単語レベルで解析し、適切な回答を選ぶ。100%の確度で正しい答えが見つかったら、一つだけを表示する。確度が70%前後の回答が3つ存在している場合はそれらを表示し、20%前後のものしかない場合はそのうちの5つを出す、といった具合だ。まったく回答が見当たらない場合は、「他の質問をしてください」と表示する。
複数の回答が表示されたときに、ユーザーは示された回答の一覧から、自分が求めているものを選ぶ。その後、「役に立ちましたか」という設問に「はい」と答えた場合に、AIが学習し、入力された文章のキーワードと回答文の結びつきを強くする。
AIが学習を重ねていくことで、例えば「株買いたいんだけどどうしたらいい?」という漠然とした質問でも、「買い注文の発注方法を教えてください」と質問したときと同じ回答文を示すようになっていくという。
ただ、ユーザーが操作ミスをしたり、「はい」「いいえ」を真剣に選んでいなかったりする可能性もある。そこで、AIがひも付けた質問文と回答文が正しいかをチェックし、微調整する作業を日俣氏がほぼ一人でこなしている。その作業は1日に20分程度。一度軌道に乗ってしまえば「それほどボリュームが大きい作業ではない」と日俣氏は話す。
そのほか月に1回は、2~3時間かけてアップデートをしている。例えば年度末であれば、確定申告に関する回答文を加えている。
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