2020年の東京五輪に向けて、インバウンド需要が高まりつつある中、観光業界は多様な国々からの顧客にどう応対するかという課題に直面している。解決策の1つとして注目を集めているのがチャットボットだ。東京都内では、多言語対応の音声ボットが使える機器を全室に導入するホテルも登場した。
スーツケースを引きずりながら歩く外国人の姿が目立つ東京・新宿駅南口から徒歩3分。複雑に交わる駅の線路や新宿御苑の緑を見下ろす高層ビルの上層階に、小田急ホテルセンチュリーサザンタワーがある。同ホテルでは2019年1月19日、375の全客室に多言語対応ができるチャットボットを搭載したAI(人工知能)スピーカーを設置した。
導入の背景には、観光業界でも広がる人手不足の問題がある。例えば、「加湿器はありますか」「追加でバスタオルとミネラルウオーターをください」と電話で客室備品の追加注文を受けるとき。こうした宿泊客の要請は夜間に集中することが多く、繁忙期にはサービス担当者がさばき切れないこともある。
AIスピーカーを使えば、電話を受ける担当者が他の宿泊客の応対をしているときでも、自動で注文を受けられる。宿泊客にとっても、電話のつながりにくさでストレスを感じることがなくなる。使い方は簡単だ。部屋のデスクに置いてある球形の端末に「アレクサ、サービススタート」と呼び掛け、「追加でミネラルウオーターをください」と伝えるだけだ。端末は米アマゾン・ドット・コムが市販している画面付きのAIスピーカー「Echo Spot」を利用している。日本語や英語の他、フランス語、ドイツ語など6カ国語に対応する。
電話と比べて混雑時のオーダーが受けやすい他に、「部屋番号の聞き間違え、書き間違えといったミスの発生を抑えられる」(ホテル小田急サザンタワー カスタマーサービス部宿泊課客室マネジャーの植田隆寛氏)という利点もある。訓練を積んだホテルマンであっても、わずかなミスは発生する。アマゾンのアレクサは英語の聞き取り精度には定評がある。クラウド上の管理画面で「備品オーダーを受付」「対応中」「完了」と状況を確認できるようになったことで「届け忘れがゼロになった」(植田氏)と成果を実感しているという。
周辺のレストランガイドを表示するなど観光案内をする機能もあり、導入から1カ月で約5万件の問い合わせがあった。ホテルに残されたアンケートやネットの口コミでも「『アレクサで頼んだものがきちんと届いた』という声が複数ある」(植田氏)。
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