顧客との接点を深め、サポートを提供する、時には契約すら獲得してくる。ユーザーとの接点を築き、顧客対応の人材不足を補う手段としてチャットボットが広がりつつある。先進事例を掘り下げる特集の第1回は、アスクルへの問い合わせの5割に対応する「LOHACOのマナミさん」の成功の秘訣を探る。

アスクルの個人向けネット通販サイト「LOHACO」のサポートページ。マナミさんのチャットボット画面を大きく表示している
アスクルの個人向けネット通販サイト「LOHACO」のサポートページ。マナミさんのチャットボット画面を大きく表示している

 当初は、円の中にロゴマークが書かれたグレーの地味なアイコンだった。アスクルが個人向けネット通販「LOHACO」のWebサイトにチャットボットを設置したのは2014年9月。SNS風の対話でよくある質問に即座に答える。そんなチャットボットの効果で電話窓口のコール数を低減させるはずが、当初はそうはならなかった。

 それまで同社ではメールサポートのみを提供しており、同年にコールセンターを設置したばかり。LOHACO事業は好調で、問い合わせは増え続けていた。ユーザーが自己解決できる手段を提供できれば、簡単な問い合わせについてのコール数を削減できる。若い世代には「LINE」をはじめとするメッセージツールが広がり、チャット形式の問い合わせが時代にも合っている――。そんな狙いでチャットボットの設置に踏み切った。

 「お気軽にご質問ください」。開設したチャットボットの質問欄には、そう書かれていたが、ユーザーの視点から見ると親しみやすさの面で若干不足しているのは否めなかった。電話の問い合わせが増え続ける中、早急な対策が求められていた。

公開当初のアスクルのチャットボット画面。マナミさんの姿はなく、ロゴマークだけの表示だった
公開当初のアスクルのチャットボット画面。マナミさんの姿はなく、ロゴマークだけの表示だった

 チャットボットを開始してから、利用状況のデータを注視していた開発チームの中から「チャットボットをキャラクター化してみてはどうか」という声が上がった。アイデアとしては良いが、一からキャラクターを生み出すには手間もコストもかかる。

 そんなときに目に付いたのが、LOHACOでお気に入り製品を登録する機能の紹介ページ。女性がほほ笑むシンプルなイラストが付いていたからだ。これならキャラクターとして使えるのではないか――。即座に該当の部署に向かい、「このキャラください、とお願いしに行った」(カスタマーサービス&エンゲージメント カスタマーエンゲージメント コネクトデスクマネージャーの横田香菜子氏)。「おだんごヘアー」が特徴のそのイラストの女性こそが、現在のマナミさんとなった。

 マナミさんには、ロハコの想定ユーザーに近いキャラクター設定を加えた。趣味は雑貨屋さんやカフェ巡り、特技はお料理やお絵描き、家族は夫と長男(3歳)、長女(1歳)、犬と猫を飼っている、といった具合である。

回答文は600種類を用意

 チャットボットの開始から4か月後。マナミさんのキャラクターを登場させると、結果は如実に表れた。「キャラクター性のあるボットと楽しく対話できる」とネットでも評判になり、マナミさんへの問い合わせ数は急増。電話とメールを含めた問い合わせ数の中で、マナミさんが受け付ける比率は3割、4割と徐々に増えていった。

 現在では約半数をマナミさんが占めている。マナミさんの対応を月ごとの電話オペレーターの仕事に換算すると10人分以上となり、「電話オペレーターの急激な増員をしなくて済んでいる」(カスタマーサービス&エンゲージメント統括部長の蛯原一朗氏)。LOHACOの電話窓口の対応時間は午前9~午後6時。それ以外の時間帯はマナミさんがカバーできる点も大きい。夕食が済んだ午後9時ごろに、LOHACOについて調べたいという要望は多い。マナミさんへの問い合わせ数の中で、約4割は、電話対応時間以外の夜間が占めているという。

アスクルのチャットボットを運営するカスタマーサービス本部カスタマーサービス&エンゲージメント統括部長の蛯原一朗氏(左)とカスタマーサービス&エンゲージメント カスタマーエンゲージメント コネクトデスクマネージャーの横田香菜子氏
アスクルのチャットボットを運営するカスタマーサービス本部カスタマーサービス&エンゲージメント統括部長の蛯原一朗氏(左)とカスタマーサービス&エンゲージメント カスタマーエンゲージメント コネクトデスクマネージャーの横田香菜子氏

 マナミさんは国内で広がる自動応対ツールのひな型を作ってきた代表的なチャットボットの1つ。現在では、LINE上で利用者からの問い合わせを自動で返す公式アカウントもある。16年には法人向け通販サイト向けのチャットボット「アオイくん」も提供開始している。

 マナミさんやアオイくんは、入力された質問から言語解析の技術でキーワードを取り出し、あらかじめ用意された回答の中から、そのキーワードに紐づいたものを示すという、ルールをベースにした仕組みで動かしている。マナミさんとアオイくんでそれぞれ約600種類の回答文を用意しているという。キーワードを取り出す言語解析の技術は、米IBMの「Watson」を活用している。

 マイクロソフトが開発しているAI(人工知能)チャットボット「りんな」のような、自由な雑談を楽しむための機能は搭載していない。「あくまでも問い合わせに回答するユーザーサポートの一環」(蛯原氏)と位置付けているからだ。

 とはいえ事務的な回答ばかりでは、ユーザーを引き付けることはできない。そこで多少の雑談もできるようにしている。例えば「あいうえお」と入力するとマナミさんは「らりるれろはこ!」と回答する。これもルールベースで動かしており、雑談だけで100件以上を用意している。この100件が、マナミさんの明るく楽しいキャラクターをユーザーに印象づけ、親しみやすさを感じさせる大きな役割を果たしている。雑談の後には「LOHACOについてのご質問はございますか」などと、脱線しすぎないようにバランスを取っている。

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