有料会員限定で開催しているセミナー「日経クロストレンド・ミートアップ」。20回目を迎えた2020年12月11日は、新刊『マーケティング視点のDX』(日経BP)の発売を記念して、著者の江端浩人氏を講師にオンラインセミナーを実施した。「DXはマーケターの仕事」と力説する著者が、マーケティング視点からDXを推進するための極意を解説した。
近年、業種・職種を問わず「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を見聞きするようになった。2020年9月に菅義偉氏が首相に就任し、その目玉政策として「デジタル庁」が設立されることになったこともあり、政府をはじめ地方行政や民間企業など国全体でDXの取り組みが進んでいる。しかしながら、うまくいっていると言える企業は少ないのではないだろうか。
DXで顧客の問題・課題を解決
江端氏は「市場の声を聞き、市場の課題を解決する」ことがDXの成功を導くカギだと主張する。「企業側のつくりたい商品やサービスを提供するだけでは独りよがりになってしまう。消費者が便利さや楽しさなどを実感できることが大切。市場が喜ぶDXを実現するためには、消費者との距離が近く、市場を理解しているマーケターが必要」と江端氏は言う。
そもそもDXとは、データやデジタル技術を活用してビジネスを改革し、新たな価値を創造することを指す。つまり、市場や社会の動向を把握し、データを活用することで人々の課題を解決するには、マーケティングの視点を持つ人々が適しているのだ。そこで必要になるのが、消費者のニーズを捉え、サービスの内容を考えること。よく用いられるのが、「マズローの欲求5段階説」という考え方だ。
人間は睡眠欲や食欲など生活するうえで最低限に必要な「生理的欲求」から、安定した生活を望みたいと願う「安全欲求」を生じる。それが満たされると、人に好かれたい、友人が欲しいなどの「社会的欲求」が生まれ、次にその集団の中で尊敬されたいという「尊厳(承認)欲求」が起こる。そして最終的に、理想の自分になろうとする「自己実現欲求」が生じるという考え方だ。
マズローの欲求5段階説は、マーケティングにも当てはまる。例えば生理的欲求と安全欲求は、需要に対して供給が不足し、商品を作れば売れた大量生産・大量消費の時代だ(マーケティング1.0)。それが過ぎると、自分に適した商品を求めるようになる。社会的欲求に当たるこの時代では、ブランドがつくられ、同じカタログスペックのものでも「こちらのブランドが好きだからこの商品にしよう」「少し値段が高くても好きなブランドを買おう」という現象が起きる(マーケティング2.0)。
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