有料会員限定で開催しているセミナー「日経クロストレンド・ミートアップ」。第17回を迎えた2020年9月17日は、「外食、アパレルは『ニューノーマル時代』の未来像をどう描く?」をテーマに、コロナ禍でも顧客ニーズに合致した施策で業績が堅調に推移している飲食・アパレル業のキーパーソンが登壇。その秘策や、それぞれの業界の課題について議論した。
「お子様の食事支援」が好評
20年は新型コロナウイルス感染拡大によって外出の機会が減り、外食や旅行、アパレル、化粧品などさまざまな業種が影響を受けた。外食大手の吉野家は、コロナ禍で変化した顧客のニーズに合致した施策を展開して大きな反響を得たという。
その施策というのが、小中学校が臨時休校となったことを受けて実施した「お子様の食事支援」だ。3月10日から同月末日まで実施したこの企画は、12歳以下の子供用の食事として、テークアウトでの利用に限り、牛丼「並盛」を通常352円(税別)のところ、278円(税別)で割引販売するというもの。
吉野家常務の伊東正明氏は、「小中学校の休校でお子様が毎日家に居るようになり、家で1日3食ご飯を用意しなければならない。これは親にとっては負担で、出来合いのものを買って帰る現象は必ず起こるだろう」と予測。3月5日に主力商品「牛の鍋焼き定食」を発売したタイミングだったが、訴求対象を食事支援に切り替えた。
食事支援は家族世帯のニーズにうまく合致し、「吉野家史上最もリツイートされてバズが起き、大勢のお客さまに来店いただいた」と伊東氏は言う。普段の利用客層とは異なる、新たな顧客の獲得につながった。
「吉野家の主要顧客層は男性1人客で、普段お子様が来店することはほとんどない。それが食事支援施策では家族分をまとめて購入される。Tポイントと提携しているので調べてみたところ、新規顧客の利用率が高かった」という。
牛丼もテークアウトして家庭で食べることを習慣に
伊東氏は新型コロナの影響で食事の様式が変わることに注目し、吉野家のテークアウトを習慣化させる狙いもあったと話す。「今、吉野家をテークアウトで夕飯にご家庭で利用する顧客はあまりないと思う。今回の施策によって家庭で吉野家を食べるきっかけをつくり、習慣化させる狙いがあった」(同氏)
そこで、19年度に好評だった「ダブル定食」を弁当化。「牛皿」と好きなおかずを1品選べてご飯大盛り無料にした「ダブル弁当」を20年8月6日から598円(税別)で販売した。「こちらも好評で成功した。吉野家は『今年1年、弁当屋になる』と宣言している。家庭内で食べていただけるよう、テークアウト前提で試食会をしている」と話す。
コロナ禍によって生活様式や食事の様式が変化したが、「ビジネスチャンスを見つけるときには、変わらないことに注目するのも大事」だと伊東氏は指摘する。「人は1日3回、365日ご飯を食べることは絶対に変わらない。提供の仕方を変えていけば、我々のビジネスが下がることはないと確証を持っている」(伊東氏)。
そのニーズに対応する形になったのが、吉野家の公式サイトから商品を事前に注文・決済して店頭で受け取れる「スマホオーダー」サービスだ。17年から着手し、20年2月14日に満を持して全国展開を開始してテークアウト需要に対応した。インストールに手間がかかるアプリではなく、ブラウザーでの展開に踏み切った結果、アクセス数が伸び、注文率も上がったという。
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