日経クロストレンドが開催している登録会員限定のセミナー「日経クロストレンド・ミートアップ」。第12回となる2020年4月23日は、新型コロナウイルスの影響を受けてオンラインで配信された。「『刺さる』プレゼンの極意」と題し、最新のノウハウをビジネス書作家の戸田覚氏が実演で語った。

 マーケターはもちろんのこと、ビジネスパーソンにとって必須のスキルとなっているプレゼンテーション。新型コロナウイルスの影響で、ビデオ会議ツールを使って新製品の発表や企画の提案などをプレゼンする機会が増えているだろう。そこで今回は、日経クロストレンドで連載『「刺さる」プレゼンの極意』を執筆し、プレゼンの書籍を数多く出版している戸田覚氏が登壇。相手の心に刺さるプレゼントは何か、コツやポイントを解説した。

「『刺さる』プレゼンの極意」の連載を持つ戸田覚氏。今回はオンライン会議ツールのZoom(ズーム)を使って開催された
「『刺さる』プレゼンの極意」の連載を持つ戸田覚氏。今回はオンライン会議ツールのZoom(ズーム)を使って開催された

聞き手を考えてプレゼンを作る

 「刺さる」プレゼンを作るには、制作に取り掛かる前に意識しておくべきポイントがある。それは聞き手が自分のプレゼンを見たいと思っているかどうかを考えることだ。プレゼンに高い関心を持っている聞き手が集まっているケースもあれば、そうではないケースもある。例えば、社内で新製品の発表会をする場合は前者だろう。後者は、営業や取引先などに企画や新製品を提案する場合などだ。

 「相手のニーズによってスライドの構成を変えるべきだ。とある企業では新製品の提案を1日に20件受け入れている。一生懸命スライドを作りプレゼンしても、相手にとっては20分の1。自分と聞き手の意識は全く違うことを理解しておかないといけない」(戸田氏)

 重要なのは、相手が自分の話を聞きたいのか、関心が低いのかを早めに判断すること。相手の気持ちが分かると、スライドの構成や作り方が変わってくる。これがプレゼンには非常に大切で、構成を作るところからプレゼン作りは始まるといっても過言ではない。

キラーインフォメーションで相手の心をつかむ

 では相手の関心が低い場合はどうすればよいのか。興味を持ってもらうためには、相手の心をつかまなければならない。

 例えば、テレビショッピングのCMは、商品が違っても紹介パターンは基本的に同じだ。最初に「すごい掃除機が出ました!」「寝心地のよいマットレスが出ました!」などという商品紹介から始まり、最後まで値段を決して発表しない。視聴者が一番聞きたいことが値段だと分かっていて、最後に発表する構成にしているのだ。これはもともと聞き手の関心が高いときに有効だ。

 「最後まで値段を引っ張ることで、視聴者は『いくらなんだろう?』とウズウズしながら見る。そして本来は聞いてもらうのが難しい、商品の機能や性能などの説明も聞いてしまう。大して安くない商品でも、さまざまな説明を聞いていくと『それなら安いな』と思わせることができる。これが関心の高め方」(戸田氏)

 一方相手がプレゼンを聞きたくない場合は、相手の知りたいことやインパクトのある事柄を説明の冒頭にするのが効果的だ。プレゼンの最初の説明で「今回の商品やサービスはすごい!」ということを伝えると、なぜすごいのか疑問に思って聞いてもらいやすくなるためだ。

 そこで大切なのが、重要な情報が何かを意識すること。「商品のアピールポイントが複数あったとしても、それはプレゼンする側が重要だと思っているだけ。聞き手にとっては何が『キラーインフォメーション』(相手が一番欲しい情報)かを考えて、スライドの内容を組み立てなければならない」(戸田氏)

スライドにはなるべく文字を書かない

多くの人が、このようなスライドを作りがちだ。これでは聞き手は文字を読んでしまい、話し手の説明を聞かなくなってしまう
多くの人が、このようなスライドを作りがちだ。これでは聞き手は文字を読んでしまい、話し手の説明を聞かなくなってしまう

 プレゼンのスライドの作り方にもコツがある。プレゼンがうまくいかないと悩んでいる人の多くはスライドに書かれている文字が多く、スライドに記載されている文章を読むだけのケースがほとんどだ。

戸田氏は文字を最小限にするという。目に入る情報量が少なくなり、聞き手は話し手の説明に耳を傾けやすくなる
戸田氏は文字を最小限にするという。目に入る情報量が少なくなり、聞き手は話し手の説明に耳を傾けやすくなる

 「よいスライドとは文字が少ないもの。理想は紙芝居」と戸田氏は言う。プレゼンを失敗する人が作りがちのスライドは、紙芝居の絵が左にあって、裏に書いてある話の文章が右側に書かれてしまっている状態。そのため聞き手は文章に目がいってしまい、話し手の説明に耳を傾けなくなる。

 「多くの人が『説明の途中で分からなくなってしまう』『正しく伝えたい』と文章をスライド上に記載するが、話す側がきちんとプレゼンの内容を理解していないだけ。自分が話す内容をきちんと理解し、自分の言葉で話すようにすればうまくいく」(戸田氏)

 ただし、原稿を作って暗記するのはNG。プレゼンのストーリーを理解していれば、スライドに文章を書く必要がなくなり、きちんと説明ができる。構成の順番が狂うと元も子もないので、アシスト的な意味でタイトルや製品名、絵などを入れればよいのだ。

ビデオ会議にもおすすめ「秒速プレゼンテーション」

 戸田氏のお勧めは「“秒速”プレゼンテーション」だ。1枚のスライドを平均1分以下でめくる手法で、45分のプレゼンで200枚用意するケースもあるという。

ついつい作りがちなスライド画面。秒速プレゼンテーションは、このスライドに書かれた要素を分解して書けばよい
ついつい作りがちなスライド画面。秒速プレゼンテーションは、このスライドに書かれた要素を分解して書けばよい

 1枚のスライドに説明したい絵や文字がすべて書いてあるのが一般的だ。しかし戸田氏はこの手法はよくないと主張する。前述の紙芝居と同じで、聞き手は説明を聞く前に文字を読んでしまうからだ。秒速プレゼンテーションの場合は、この1枚のスライドを数枚に分ける。戸田氏は、新製品のパソコンを例に実演で紹介した。

「新製品のポイントを紹介します。何と言っても最大のポイントはいつでも持ち歩けること。いつでも持ち歩けるパソコンは仕事の効率化アップにつながりますよね。ところが重いと持ち歩く気がしなくなり、利用機会が減ってしまいます」
「新製品のポイントを紹介します。何と言っても最大のポイントはいつでも持ち歩けること。いつでも持ち歩けるパソコンは仕事の効率化アップにつながりますよね。ところが重いと持ち歩く気がしなくなり、利用機会が減ってしまいます」
「どのくらいの重さかというと、1.98kg。重いかもしれませんが、これくらいなら十分持ち歩けます。なぜ軽いのかというと、マグネシウム合金を採用したからです」
「どのくらいの重さかというと、1.98kg。重いかもしれませんが、これくらいなら十分持ち歩けます。なぜ軽いのかというと、マグネシウム合金を採用したからです」
「金属にはさまざまな種類がありますが、マグネシウム合金は特に軽い。これはさまざまな金属の比重のデータです。マグネシウムは鉄に比べると5分の1くらいの重さしかありません」
「金属にはさまざまな種類がありますが、マグネシウム合金は特に軽い。これはさまざまな金属の比重のデータです。マグネシウムは鉄に比べると5分の1くらいの重さしかありません」
「マグネシウムは製品に使える実用的な金属の中で圧倒的に軽量ですが、価格が高い」
「マグネシウムは製品に使える実用的な金属の中で圧倒的に軽量ですが、価格が高い」
「そのマグネシウムを使ったにもかかわらず、11万7800円というのは割安であるといえます」
「そのマグネシウムを使ったにもかかわらず、11万7800円というのは割安であるといえます」

 テンポよく、それぞれのスライドで説明をしていくと、聞き入ってくれる。話すべき内容すべてが1枚のスライドに書いてあると、「値段は○○円なんだ」「マグネシウム合金を採用しているのか」など、話し手の説明とはお構いなしにさまざまなことを考えてしまい、説明を聞いてくれなくなるのだ。

 ビデオ会議にはスマホで参加している人もいるので、文字量が多いと読むのが大変で頭に入ってこないケースも少なくない。秒速プレゼンのように、少ない文字量でどんどん切り替えたほうが退屈せずに頭に入っていくはずだ。

 秒速プレゼンにすることで、スライド作りが楽になるというメリットもある。デザインやバランスを過度に考える必要がなくなるからだ。

 緊急事態宣言が解除となっても、新型コロナウイルスへの警戒がなくなることはない。オンライン会議システムを使ってプレゼンをするケースも増えるだろう。オンラインプレゼンが当たり前の時代になり、テンポよく伝えるスキルがこれまで以上に重宝されるかもしれない。今のうちから、ポイントを押さえておくべきだろう。