日経クロストレンドが開催しているセミナー「日経クロストレンド・ミートアップ」。第11回の3月24日はオンラインセミナーとして実施、「行動経済学で幸福をつかむ戦略」をテーマに、識者3人が議論を交わした。

左から、プリファード・ネットワークス執行役員CMOの富永朋信氏、BEworksの松木一永氏、クー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔氏
左から、プリファード・ネットワークス執行役員CMOの富永朋信氏、BEworksの松木一永氏、クー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔氏

 今回の対談は、世界的ベストセラー『予想どおりに不合理』の著者であるダン・アリエリー氏にインタビューした内容を凝縮した書籍『「幸せ」をつかむ戦略』(日経BP)が、2020年2月18日に発売されたことを記念して行われた(関連特集「『幸せ』をつかむ戦略」)。本書の著者(聞き手)であるプリファード・ネットワークス執行役員CMO(最高マーケティング責任者)の富永朋信氏と、アリエリー氏創業のコンサルティング会社BEworksの松木一永氏が登壇。クー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔氏をゲストに迎え、行動経済学と幸せについて議論を交わした。

BEworksは人間の不合理な行動パターンを研究する「行動経済学」を、ビジネスに生かすために活動している組織
BEworksは人間の不合理な行動パターンを研究する「行動経済学」を、ビジネスに生かすために活動している組織

マーケティングに有効な行動経済学

 行動経済学とは、人がどういう癖を持っていて行動するのかを深く研究する学問だ。まだビジネス界での広がりは小さいものの、行動経済学の知識はマーケティング活動にも有効だ。まずは行動経済学の考え方を、雑誌の例で紹介する。

 ある経済系の雑誌は、オンライン版と紙媒体を販売している。この媒体の価格設計は3パターンで、オンライン版のみだと65ドル、紙媒体のみは125ドル、オンラインと紙の両方では125ドルに設定した。すると、オンラインと紙の両方を購入する人が割合的に多かったという。その内訳は約8割がオンライン+紙、2割がオンライン購入のみであった。

 ここで思い浮かぶのが、「誰も選ばないのならば『紙のみ』という選択肢はいらないのではないか?」という疑問だ。そこで、オンライン+紙、オンラインの2パターンで販売したところ、なんと紙+オンライン購入を選択する人が急激に減ったのだという。

 これは「おとり効果」と呼ばれるものだ。人は何かを選ぶとき、必ずこの値段で買うという基準を持って購入するケースは少ない。そのため、比較対照となる選ばれないであろう選択肢を用意することで、ほかの選択肢に高い価値があると思わせることができるわけだ。

新型コロナのストレスを行動経済学で幸せに変えられる?

 しかし、人間の行動変容をコントロールするだけが行動経済学ではなく、消費や夫婦関係、子育てなど、あらゆることについてよりよい選択をする助けにもなるという。そこで、行動経済学の視点から見た幸せについて、音部氏は「新型コロナウイルス対策で行動経済学の知見をうまく使うとしたらどのようなことが考えられるか?」と質問。

新型コロナウイルスに関連するストレスに対し、行動経済学的にどのような幸福へのアプローチができるか議論する3人
新型コロナウイルスに関連するストレスに対し、行動経済学的にどのような幸福へのアプローチができるか議論する3人

 これに対し、富永氏は「強制感が国民の心を不幸だと感じさせている」と考えを述べた。政府は疫学的な考えや戦略に基づいて施策を実行しており、国民全体が従わないと功をなさない。「不幸感や不安感を抱いてしまうのは、上から押し付けられているという感覚があるからだろう」と富永氏は推測する。

 「要は、心の持ち方の問題。一度、自分が政治家や指導者だったらどのような意思決定をし、国民にアナウンスするかを考えてみてほしい。そうすれば、政府が国民に依頼していることは筋が通っていると納得できる人もいるだろう。仮に自分の考えとは違うと感じても、一歩引いた見方ができるはずだ」(富永氏)

富永朋信氏のプロフィル
富永朋信氏のプロフィル

 松木氏は自粛要請の内容が具体的ではないことも、国民の不安材料になっていると指摘する。「『自粛してほしい』という要請は、結局自粛したほうがよいのか、しなくてもよいのか、自粛するならその間何をすればよいのか分からない。自分がすべきことが具体的であればあるほど、人は行動を起こしやすくなるもの。最適解が示されていない状態で、何をすればよいのか分からないという不安が募り、反発の原因にもなっていると思う」(松木氏)

BEworks、松木一永氏のプロフィル
BEworks、松木一永氏のプロフィル