成功した記事とは何か?

 しかし、「アクセスを伸ばしたりバズらせたりするためにも、広報は報道機関の編集権を尊重すべきだ」と鈴木氏は主張する。報道機関の記事は、同じアクセス数だとしても、その公平性から広告より価値がある場合もある。一昔前は、発行部数の多い媒体に掲載されることや掲載された媒体数で、広報活動が成功したかどうかを判断していた。しかし最近は、SNSの登場によって1本の記事がどれだけ拡散されるかも重要視されるようになっている。

鈴木氏が考える原稿チェックにおいて大切なポイント
鈴木氏が考える原稿チェックにおいて大切なポイント

 「10本の平凡な記事がニュースに出るよりも、1本の跳ねた記事が出たほうが成功したといわれている」(鈴木氏)。では、拡散される記事とはどのようなものか。読者の関心を引く驚くべき内容が書かれていることはもちろんだが、「記事化が信用できるメディアに掲載されることが重要。『あそこが書いているなら信用できるよね』というメディアの信頼性が、拡散のエネルギー源になっているのではないか」(鈴木氏)。

 そのためには、やはり報道に独立性がなければならないというのが鈴木氏の意見だ。「チェックをさせてくださいと言っても、聞いてもらえないことにむしろ価値がある。商品宣伝などをゴリ押しするのが広報の仕事ではなくて、価値のある編集記事を作ってもらうためのお付き合いの仕方を考えるべきだ」と鈴木氏は強調する。

外資系ならではのKPI

 次いで人気となった記事が、「外資系ならではの悲哀 『KPI未達』の引き金となる日本の記事」だ。鈴木氏によると、外資系企業はたとえ日本法人であっても海外本社のルールが適用されるケースが多く、文化の違いで生じる日本と外国の記事のテイストの差異によって低く評価されることがあるのだという。

 KPI(重要業績評価指標)として設定されるものの1つに、カバレッジリポートがある。つまり記事のクリッピング数だ。先に述べたように、紙媒体の場合はその媒体の発行部数や掲載数で広報業務の成果を割り出していたが、「今は1本のWebの記事の拡散力が重視されるので、(このKPIは)あまり意味がなくなってきている」(鈴木氏)と言う。

外資系企業の広報が気を付けるべきKPIのポイント
外資系企業の広報が気を付けるべきKPIのポイント

 気を付けたいのが、記事のトーンだ。外資系企業の広報は掲載された記事を「ポジティブ、ニュートラル、ネガティブ」に分けてセンチメント(感情)評価を行い、ポジティブな記事にこだわりがちだ。しかし、日本の記事は淡々としており、ニュートラルに書かれていることが大半。そのため、鈴木氏は「私が見ている限りネガポジ分析はそこまで気にしなくてもいいのでは」と見解を述べる。

 日本の記事は、海外のように必要以上に褒めることはあまりしない。ネガティブ、ポジティブな内容に関係なく、「なるべく客観的な視点に立って良しあしを判断できる形に持っていくように心がけている。そのため、さまざまな角度から見て、ビジネス上の課題なども書くことでより客観性を持たせ、読み手に多様な視点を提供することを大事にしている」(吾妻)。

 ただし公平中立とはいえ、最近はニュートラルな記事ばかりで、商品の良しあしの判断がつきにくくなっているケースも多い。そのため日経クロストレンド副編集長の酒井康治は「編集者の力量にもよるが、意図的に熱を込めているように書いたり、特定の話題に絞って書くなどして仕掛けるときもある。ただ、それはファクトが前提になるので、事実の中でどれを重視して書くかが腕の見せどころだ」と語る。

 また遠藤氏は、広報に課されるKPIによっては、広報活動が怖くなってしまうのが課題だと主張する。広報担当者が一生懸命動いても記事にならなかったり、頑張ってもネガティブな記事が出てしまったりして、そのような経験が積み重なると広報活動が怖くなる人が多いためだ。

 「下手に動くと評価が下がるかもしれないから、とりあえず部署が用意したプレスリリースだけメディアに出す。怖くてトライ&エラーができないという人が多い」と遠藤氏は感じていると言う。カバレッジリポートやネガポジ分析ばかり気にすると、結果主義になってしまう。広報の仕事は、結果が出ないことが非常に多いため、「地道な広報活動自体を企業のトップが行ったり、広報部門のトップがその性質を理解して担当者を評価したりすることが重要だ」(遠藤氏)と語った。

 では、どの状態になれば広報活動が成功したと判断できるのだろうか。鈴木氏は、“うまくいったと実感すること”だと話す。「これだけ(商品などが)テレビに露出したし、道行く人もみんなサービスを知っているなど、広報担当者自身が実感していれば成功しているということ。その状態になればこれ以上その案件に時間をかける必要はないし、次の(商品やサービスの)広報をすればよい」(鈴木氏)とアドバイスした。

ミートアップ終了後に交流会が行われ、登壇者と参加者が和気あいあいとコミュニケーションを取った
ミートアップ終了後に交流会が行われ、登壇者と参加者が和気あいあいとコミュニケーションを取った

(写真/花井智子)