日経クロストレンドが開催している会員限定の交流イベント「日経クロストレンド・ミートアップ」。第9回となる2019年12月18日は「2020年のマーケティングトレンドを本音でトーク」をテーマに議論が行われた。
東京・大手町の大手町ファイナンシャルシティ グランキューブ3Fにある「グローバルビジネスハブ東京」で行われたイベントでは、音部大輔氏や富永朋信氏など、日経クロストレンドのアドバイザリーボードとして執筆や講演をしているマーケティングなどのプロフェッショナル11名が登壇。今期の振り返りや来期の目標を語りつつ、マーケティングトレンドを予測した。
イベントの最後には、登壇者と参加者、日経クロストレンド編集部員で懇親会を実施、名刺交換や質疑応答なども行った。
本記事では、識者が語った主な内容を紹介していく。
「幅広い業界に対応できる広報を育てていきたい」
クロストレンドの連載「風雲!広報の日常と非日常」の筆者であるDoen代表取締役の遠藤眞代氏は、「設立して1年になるDoenでは、従業員が万単位の大手から数人単位のスタートアップまで、幅広い企業の広報を受け持っている。最近は、広報の人材が足りないから紹介してほしいと言われることが多くなった」と語る。
どの業界でも広報経験者が少なく人材は不足しているため、広報人材を育成していきたいというのが同氏の抱負だ。「2020年以降は、できるだけ幅広い業界に対応できる広報を育てていきたい。今後は、企業広報向けのサブスクリプションサービスも考えている」(遠藤氏)。
「消費者重視から人間重視へ」
連載「音部大輔の『マーケティング視点』」の筆者でもあるクー・マーケティング・カンパニー 代表取締役の音部大輔氏は、「マーケティング業界では長年、消費者が重要といわれてきたが、2019年ごろから『消費者』ではなく『人間』が大切だという話が出てきている」と語る。
象徴的な例がビニール袋。消費者視点では提供するのは当たり前だが、環境保護という人間観点で考えると「使い続けるのはどうか」という議論がグローバルで巻き起こっている。
また、2020年以降は「データに基づいて消費者や人間、お金の流れに沿った意思決定が大切」と話す同氏。「様々な場所に潜在するデータに基づいて一貫性のある意思決定が行われる必要がある。そのためには、各種データを連携させることが重要だ」と業界への期待を述べた。
「データ分析の民主化が重要」
日本航空で顧客情報分析を担当し、2019年にデジタルガレージへ転職した同社CDOの渋谷直正氏は、「デジタルガレージでデータビジネスの責任者をしていると、データ活用に悩んでいる方が非常に多い」と転職後の実感を語る。「今はデータサイエンティストという職業が高度化しているが、本当に求められているのは『分析の民主化』」と同氏。一般のビジネスパーソンがエクセルを扱うような感覚でデータ分析できる人を増やしていくことがが、データドリブンな日本社会を実現すると信じて人材を育成していきたいと来年の目標を掲げた。
また、「データを活用してビジネスをする際に、『自分だけもうかればいい』という考えは受け入れられない。データ活用を通じた社会課題の解決も、2020年の目標に掲げて行動したい」と同氏は語った。
「飲食業界におけるサブスクリプション元年」
「飲食店経営のデジタル化」に取り組むfavy社長の高梨巧氏は、「飲食業界を振り返ると、2019年は『飲食業界におけるサブスクリプションサービスの元年』といえる」と業界の潮流を語る。
「月額定額制のコーヒースタンドや年会費モデルの飲食店が増え、当社の顧客だけでも1000店舗ほどある」と同氏。従来、飲食店は顧客のデータを持たないでビジネスをしていたが、サブスクリプションを通じて注文されたデータと顧客の情報が結びつくようになったと話す。2020年以降については「マーケティングのデジタルトランスフォーメーションが起きるのではないか。データと業界にいる人の働き方が密接に関わるフェーズに入っていくだろう」と予測した。
「マスメディアとソーシャルメディアの融合が加速」
ソーシャルメディアの企業活用を啓蒙するアジャイルメディア・ネットワーク アンバサダーの徳力基彦氏は、「2019年はマスメディアとソーシャルメディアの融合が加速した年だったと思っている」と変化を語る。
象徴的なのは、ラグビーW杯。トライを決めた2分後には公式アカウントがそのシーンを動画でアップしていたように、地上波の放送とインターネット上での動画配信がほぼリアルタイムで共有されるような状況が起こった。「これまで、マスメディアとソーシャルメディアは企業の別の部署で担当していたり、活用目的も別だったケースが多かった印象が強い。しかし、これからは俯瞰(ふかん)的に組み合わせで考えないといけない時代に突入している」(徳力氏)
「『守破離』を意識してマーケティングを身につけることが大切」
クロストレンドで連載「富永朋信『デジタル×マーケティングのウソ』」を執筆するプリファードネットワークスCMOの富永朋信氏は、2019年を振り返って「『フレームワークの功罪』や『マーケテイングって何?』などといった風景が見えてきた。そういう潮流を受けていると、マーケターは来年以降『守破離』を意識して基本をきちんと勉強することが大切だと実感した」と話す。
教養としてマーケティングを身に付け、自分独自の事業観を獲得した上で、自分のマーケティングの型を作ることが重要と同氏。「そのような大局観を持って、仕事やマーケティングを見たり、マーケティング業界を俯瞰(ふかん)したりすると、様々な議論が一気に整理できるだろう」(富永氏)。
「五輪を機にブランディングやマーケティングが大きく進化」
日清食品ホールディングス 執行役員CMOの深澤勝義氏は、「2019年から2020年にかけては「『感動系』のマーケティング」が最も重要だと思っている。2019年はラグビーW杯をはじめ、人々が感動する機会が多かった」と話す。
2020年は、東京オリンピック・パラリンピック抜きには語れないと同氏。「オリンピック周りでどんな感動を作るかは大きなテーマだが、感動する空気が充満している中で単純に乗っかるのではなく、どのような施策を打つかが大切」と2020年のポイントを語った。
また、「2020年は世界の中で日本やアジアが見直される年だと思っている。仕事で英国やシリコンバレーに足を運ぶと日本の見方が大きく変わっているが、東京オリンピックを通じてさらに加速するだろう」と予測。インバウンドで日本と世界中がつながる年になり、オリンピックを契機に国や言語を超えてブランディングやマーケティングが進化していくだろうと見通しを語った。
「働き方改革を通じて地方への移動が活性化」
クロストレンドの連載「風雲!広報の日常と非日常」の筆者であるNECパーソナルコンピュータ 広報部長の鈴木正義氏は、「今どんなパソコンが売れているかに注目すると、世の中の動きが見えることがある」と話す。
今年のパソコンは、薄さや軽さに加えてバッテリーの持ち時間が重要視されている。ここから見えてくるのは、各企業が働き方改革やテレワークを本気で進めようとしていること。「働き方改革が進むことにより、満員電車や子育て問題の緩和など、いくつかの課題解消が期待できるが、加えて地方に行きやすいというメリットもある」と語る同氏としては、働き方改革が進むことで2020年以降は地方に新たな動きが出るのではないかと予測している。
その動きを大きくドライブするのが東京オリンピックだ。「最近は、東京都や国土交通省などがテレワークを推進しているが、地方への移動も2020年にかけて活性化されるのではないだろうか」と話した。
「日本における移動問題をMaaSで解決」
クロストレンドで「Beyond MaaS 移動の未来」など多数の記事を執筆するMaaS Tech Japan 代表取締役の日高洋祐氏は、「自動車業界では、海外を中心に破壊的なイノベーションが起きた。自動車や鉄道は非常に古い業界だったが、様々な技術の社会実装が進み、新しく生まれ変わりつつある」と変化を実感する。
日本における人口減少や高齢化の問題をどのように解決するかを考えた場合、「移動」は非常に重要なテーマだ。「運転者が高齢化し、乗車人数も少なくなる日本でいかに移動を担保するか考えた場合、MaaSは一つの解決策になる。弊社でも日本や海外の取り組みを取り上げているので、正しい情報を共有しながら課題解決を進めていきたい」と2020年以降の目標を語った。
「『レーザービーム』を意識して目指す方向に注力する」
元YouTube日本代表として、事業戦略の立案と実施の責任者を務めた経験も持つワイズ代表執行役CEOの水野有平氏は、「日本は、やるべきことに注力するエネルギーと目指すベクトルがバラバラになっている企業が多い」と語る。
それらをそろえるためには、中長期の視点で見て「フォーカス」するポイントを考える必要があると同氏。「短期的には『レーザービーム』を意識することが大切。私が支援している企業でも、役員レベルには『フォーカス』、部長クラスには『会社の中に潜んでいるエネルギーを集めてあなたのレーザービームを示せ』ということを問いかけている」と話した。
2020年は「個人の時代」が加速すると同氏は予測する。「周囲には『自ら起業してください』と常に話している。そして、会社を起こして最初の顧客になるのは今自分が所属している会社。その大事なお客様のためにビジネスをやる意識を持った人間が集まることが大切。そのような意識で日本を変革していく人が増えることを2020年は期待している」(水野氏)
「自分が着ている服を『かっこいい』と言ってもらえるブランドにする」
アディダス ジャパン ブランド・リーボック シニア・ディレクター の山縣亜己氏は、「2019年は新しい業界に転職したため、ビジネスを把握するところからスタートした。業績が悪いことに気づき、なぜ売れないかを考える期間が長かった」と新しい業界に飛び込む難しさを語った。
2019年はアパレル業界に翻弄される一年となったと話す同氏。「2020年は、リーボックをどんなブランドにしようか真面目に考えていたが、自分がやりたい施策を進めていこうと思った。私が着ている服を見て『いいね』『かっこいいね』と思ってもらえるようなブランドにしたい」と語る。「ビジョンとは分かりやすくあるべきであり、2020年は我が道を行く一年にしたいと思っている」(山縣氏)。

講演後の懇親会では、軽食やドリンクも用意され、登壇者と参加者、編集部員が和やかな雰囲気で意見交換や質疑応答を交わした。参加者の一人である飲食業界の木村さんは、「編集部員と私の仕事について話していたら、その場で高梨氏とつないでいただき、同じ業界の意見やアドバイスを聞くことができた。普段、連載記事を見ている人と実際に話をできるオフラインのイベントは貴重で、仕事に生かせる話も聞けた」と、ミートアップならではの体験を語った。
懇親会の最後は、日経クロストレンド発行人の杉本昭彦が挨拶。「日経クロストレンドは情報発信を通じてコミュニティー作りやネットワーク作りのお手伝いができると思っている。本日登壇した専門家の方の連載記事を見て面白いと思ったら、ぜひ直接声をかけてほしい。2020年もまた同じようなイベントを開催していくのでぜひ参加してほしい」と呼びかけてイベントを締めくくった。
(写真/花井智子)