日経クロストレンドが開催している会員限定の無料セミナー「日経クロストレンド・ミートアップ」。第8回となる2019年11月26日は「リアル店舗の逆襲~アフターデジタル時代の小売り戦略~」をテーマに議論が行われた。

 ネットの普及により、昨今は「リアル店舗ではモノが売れなくなっている」と言われるようになった。そんななか、新しい小売店のあり方を確立し、リアル店舗での販売に成功している企業がある。それが、店舗で"モノを売らない"次世代型ショールーム「蔦屋家電+(プラス)」を展開している蔦屋家電エンタープライズ(東京・渋谷)と、「STAFF START(スタッフスタート)」を提供するバニッシュ・スタンダード(東京・港)だ。

小売店の悩みを解決する「ショールーム型店舗」

 蔦屋家電+には国内では未発売となっている海外製品や、現在開発中の試作品などが並んでおり、その製品を手で触れて体験できるショールーム型の店舗だ。蔦屋家電エンタープライズ商品企画部商品調達Unitの木崎大佑氏は「今求められているリアル店舗の価値は『体験』と『データ取得』。企業と顧客がお互いを知り合う場として店を作ろうと考えた」という。

蔦屋家電エンタープライズ商品企画部商品調達Unitの木崎大佑氏
蔦屋家電エンタープライズ商品企画部商品調達Unitの木崎大佑氏

 現在、小売業は「ショールーミング化現象」という消費行動に悩まされている。店舗で製品を見て、その場では買わずにネットで商品を購入する消費活動のことで、ショールーミングを利用する顧客は日本に限らず世界中で増えている。

「ショールーミング」を行っている顧客について、東京とアジア9都市平均の割合をグラフにした
「ショールーミング」を行っている顧客について、東京とアジア9都市平均の割合をグラフにした

 だが木崎氏は、ネット販売が主体になったことは認めつつも、「依然として顧客の『実物のモノを見たい』という欲求は変わっていない」と述べる。

 また、メーカーがユニークな製品を作るようになっている一方、小売店は在庫を抱えるリスクがあるため、面白い製品を仕入れたがらないという問題もある。「面白い製品に出合えなければ来店客数が減り、リアル店舗が消滅して店で働いていた人達も困ってしまう。雇用問題の解決のためにも蔦屋家電+を考えた」(木崎氏)。

収益は企業からもらう出展料

 次世代型ショールームと言われる蔦屋家電+には、世界中のユニークなプロダクトを集めて展示している。例えば、犬の気持ちが分かるINUPATHY(イヌパシー)と呼ばれるウエアラブルデバイスや、某大手家電メーカーが開発中のロボット空気清浄機などだ。

こちらは、専用のボックスの中に美少女などのキャラクターを召喚できる「ゲートボックス」
こちらは、専用のボックスの中に美少女などのキャラクターを召喚できる「ゲートボックス」

 蔦屋家電+に出展した企業は、小売店が販売しづらいユニークな製品をプロモーションでき、同時にマーケティングデータの取得も可能になる。

 店舗にはカメラが設置してあり、その映像をサーバー側で個人が特定できない形にリアルタイムで変換してAI(人工知能)で解析。これにより、展示製品に関心を持った顧客の「性別」「年代」「滞在時間」を算出する。

 また、接客によって製品の良しあしなど顧客の意見を聞き、マーケティングデータとして展示製品のメーカー側にフィードバックする。ここで得た売り上げはすべて出展した企業に還元されるが、店側は企業から出展料をもらうことで収益を得ている。

 2019年4月に開始して以来、1プロダクトにつき1か月で平均約7000件の属性データ、約50件の接客データが集まっており、1製品で80万円ほどの売り上げが立っているという。

蔦屋家電+のビジネスモデルで生まれるさまざまな価値
蔦屋家電+のビジネスモデルで生まれるさまざまな価値

 このビジネスモデルでは、顧客は普段出合えないような商品を見て実際に試せて、製品の開発プロセスにも自然と参加できる。メーカーは消費者のデータを取得でき、その場でプロモーションを仕掛けて粗利の高い直接販売ができる。店の販売員もモノを売るだけではなく、顧客から製品の意見を聞き出す、企業側の開発者に自分の意見を伝えてコミュニケーションを取るなど、販売員としてのさまざまな価値が見えてくるのも特徴だ。

 木崎氏は「『場所貸しでしょ?』とよく言われるが、CtoM(コンシューマー to メーカー)という考え方を大事にしている。小売店は今までメーカーが作ったものを顧客に販売していたが、これからは顧客に意見を頂き、それをメーカーにフィードバックするモノづくりに変えていきたい。そうすることで、最適な在庫量や価格、デザインなどが見つかり、新しいモノづくりのシステムが作れるのではないか」と語った。

ショップ店員がECで驚異的な実績

 もう一つの注目企業がバニッシュ・スタンダードだ。近年、アパレル店舗のショップ店員が撮影したコーディネート写真を通販サイトなどで見かけるようになったが、そこに商品情報をひも付け、自社のECサイトやInstagramなどのSNSに同時投稿できる「STAFF START」というシステムを提供している。STAFF STARTを使う企業の中には、1人のショップ店員のEC売り上げが月間最高で約3450万円に達するなど、驚異的な実績を出しているところもある。

バニッシュ・スタンダード社長の小野里寧晃氏
バニッシュ・スタンダード社長の小野里寧晃氏

 バニッシュ・スタンダード社長の小野里寧晃氏は、STAFF START躍進の理由に「顧客のファン化」があると分析する。

 例えばリアル店舗では、特定の販売員の接客を受けるためには、その販売員がいる店舗に行かなければならない。しかしSTAFF STARTなら、全国の販売員の中から自分に合うスタッフを探せる。「ブランドの公式通販サイトは180cmでSサイズを着用しているような人間離れしたモデルがいて、自分に最適な洋服を選びにくい。一方、自分の体形に合った販売員を探し出せるのがSTAFF STARTの特徴だ」(小野里氏)。

 また、ウェブ上で接客してコーディネート画面から商品を購入していると、顧客は次第に「新宿店の○○さんから買いたい!」などという感覚に陥ってくる。つまり、販売員にファンがつくようになるのだ。

 STAFF STARTにはInstagramやTwitter、YouTubeなどのSNSとも連携できる機能がある。ファンになった顧客が販売員のSNSをフォローすると、公式通販サイトのリンクを張ったSNSの投稿を見て購入してくれる。つまり、通販サイト上でも個人で集客できる。

 躍進を裏で支えるのが、販売員のモチベーションを上げる仕組みだ。STAFF STARTには、個人売り上げやランキングを可視化できる機能が搭載されている。今までは店舗の接客でしか評価されておらず、会社から「ブログやInstagramをやってほしい」と指示を受けて頑張ったとしても、評価されにくかった。ところが、ネット上の業務もきちんと企業が評価できるようになったため、販売員のやる気が出るようになったという。

STAFF STARTの実績。ほとんどの有名アパレルブランドが導入している
STAFF STARTの実績。ほとんどの有名アパレルブランドが導入している

地方からも服が売れる

 STAFF START では「SNS集客売上」も計れる。つまり、EC経由での売り上げの一部がインセンティブとして個人の給料に上乗せされる。従来であれば、ECの売り上げはEC部門のものとなりリアル店舗には反映されなかったのを考えれば、画期的なインセンティブ設計だ。

 STAFF STARTを提供し始めて、思わぬ効果も出はじめた。その一つが、地方店、郊外店の活性化だという。新宿や渋谷、表参道、銀座など、いわゆるエース格がそろう販売員の店舗が店頭でもネット上でも売り上げが高いと思われていたが、実は店員がスマホを触れる時間が比較的多い地方店から売れているのだという。

 社内でインフルエンサーを作れるのも利点だ。「販売員の中には、企業やブランドアカウントよりも多い、1万~20万フォロワーを抱える人がいる。人気の販売員の接客を受けたいという声が殺到し、顧客に出勤日を表示しなければならない状況に陥っている」(小野里氏)。

 ただ、小野里氏は、この現象はアパレル業界に限った話ではないと主張する。「要するに販売員がセンスで商品を選んで売る『セット売り』。小売業界であれば、販売員のセンスでネット上の接客ができ、人が人に会いに来るという昔ながらのスキームが生まれてくるはずだ」(小野里氏)。

2019年11月26日に開かれたミートアップの様子
2019年11月26日に開かれたミートアップの様子

リアル店舗は不要になるか?

 AIや無人店舗の技術進化で近い将来、店舗スタッフは不要になると言われているが、木崎氏は「人はコミュニケーションを通じて購入するもののほうが価値があると実感している。リアル店舗は必要だ」と述べている。

 小野里氏も、リアル店舗は必要だと前置きしつつ、モノは信頼で買うことが重要になってくると主張している。「知識を持っている人だけでなく、人間力がある対応ができる人が絶対に生き残ると思っている。店舗運営では人間力のある人材を評価していくことが大事だ」と述べ、リアル店舗の必要性を説いて最後を締めくくった。

(写真/花井 智子)

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