日経クロストレンドは2019年9月25日、読者向けトークイベント「日経クロストレンド・ミートアップ」の第6回を開催した。テーマは「サブスク事業『成功のキーワード』とは? 先進企業の秘訣を学ぶ」。4人の代表者が、サブスクのモデルや、事業を実現するうえで苦労したこと、工夫した点など、成功の秘策を語った。
サブスクリプション(以下、サブスク)とは、雑誌の定期購読や定額音楽サービスなど、顧客が料金を支払うことで一定期間のサービスを受けられる仕組み。いま話題のビジネスモデルの1つだ。継続して安定的な収入が得られるというメリットがあり、参入を検討している企業も少なくないだろう。
もともとクラブの会員制や雑誌の定期購入を中心に発展してきたが、今ではファッションや化粧品など、「モノ」を対象にしたサービスへと変わりつつある。またデータやAI(人工知能)なども利用し、利用者一人一人に合う「パーソナライズ」されたサービスが求められるようになっている。
「ネイルシールを月額1180円」で成功
サブスク事業で成功している1人が、uni'que(ユニック、東京・渋谷)CEO(最高経営責任者)の若宮和男氏だ。「YourNail」という女性向けのネイルサービスを提供しており、ユーザーはアプリでネイルをデザインし、その人の爪のサイズに合わせたネイルシールをオーダーメード注文できるというもの。若宮氏によると、「ネイルをしたいけど、時間などの理由から難しい人に喜ばれている」という。
「もともとネイル事業をしていたが、定期的に替えるネイルの周期性がサブスクに合っていることに気づき、サブスクサービスを追加した。デザインした樹脂のフィルムを爪に貼るだけでよいので、ネイルをする時間が短縮でき、その人に合わせたデザインを楽しめるのがこのサービスの価値」(若宮氏)。
プロのネイリストが一人一人に合わせたネイルデザインを提供するとコストがかかってしまうが「アプリでデザインしたものを投稿し、12万点近くのデータから選ぶこともできる仕組みになっている」(若宮氏)。在庫を抱える必要もないため、月額1180円(送料・税込み)という手ごろな値段で提供できるのだ。
スマホ時代に合うサービス形態
日本初のパーソナライズシャンプー「MEDULLA(メデュラ)」を展開するSparty(スパーティー、東京・渋谷)社長の深山陽介氏も、サブスク先進企業を運営する代表者の一人だ。
MEDULLAは、Webサイト上で9つの質問に答えるだけで、3万通りの中からユーザーに合ったシャンプーとトリートメントのヘアケアセットを届けるサービス。月額6800円(税別)で利用できる。2018年5月にサービスを開始したが、自分に合う商品を探していた女性にヒット。会員数は4万人に上り、月商は1億円を達成した。
「これまでの化粧品業界は『この商品があなたの正解です』『これ使い続けてくださいね』という企業側の一方的なコミュニケーションだった。ところがMEDULLAは、自分に合った商品の購入後はフィードバックができるようになっており、利用すればするほど自分に合った商品が届く仕組みになっている。商品を選ぶ過程をスタイリストと一緒に楽しみ、納得感を得て購入できるという体験が、このサービスの価値だと思っている。また、現代人はスマホを利用しているが、検索もしないし思考も停止しがちだ。それでも納得したものを選びたいという思いがあるので、その願いをかなえる一つの手段になっているのではないか」(深山氏)。
しかし、これだけ多くの人に合わせた商品を製造するのは、かなりのコストがかかる。そこで深山氏はOEM会社と資本提携し、製造フローを最適化して多品種の製品を小ロットで生産することに成功した。「これまでの製造フローは大量に作ればコストが安くなるようになっていたが、いかに多品種・小ロットで効率よく作るかをOEM会社と相談し、ライン設計を変えるなどしてコストを抑える工夫をしている」(深山氏)。
また、深山氏は美容室などと提携。認定スタイリストがユーザーの髪を診断して、その人に合ったヘアケアをカスタマイズするサービスも展開している。「サービスを体験する場所として店舗を持つとお金がかかるが、既存のサロン等を使うとノーコストで全国に拡大できる」(深山氏)。店舗で施術するのも、顧客に納得感を得てもらうための1つのファクターだ。信頼できるプロが商品を選んでくれれば納得感がでるので、継続率も高まるという。
美容室では、客が継続するたびにマージンを得られるビジネスモデルになっているため、お客が来なくても一定の収入があるというメリットもある。「継続してもらうインセンティブがあるのため、提携企業に喜ばれる」(深山氏)。
月額6800円で高級バッグを借り放題、採算が合う仕組みとは?
ラクサスは、月額6800円(税別)でエルメス、ヴィトン、シャネルなどの高額ブランドバッグを借り放題できるサービスで、急成長を遂げているサブスクサービスだ。サービス開始から27カ月でシェア金額累計は100億円を突破。4倍の成長率で推移し、56カ月が経過した現在は、累計420億円を達成している。
ユーザーは平均30万円ほどのバッグを利用しているが、高級バッグを手配したり在庫管理をするのは、コストがかかるもの。ラクサスでは、顧客同士がバッグを「シェア」することでコストを大幅に抑えているという。「ユーザーが使用していない、タンスの肥やしになっているバッグを提供してもらい、それをシェアする仕組みを作った。自社で在庫を用意するというよりも、ユーザーが持参したモノを有効活用しているのでコストを削減できている」(ラクサス・テクノロジーズ社長の児玉昇司氏)。
新規顧客の獲得にも役立つ
「earth music&ecology(アースミュージック&エコロジー)」を展開しているストライプインターナショナル(岡山市)も、「メチャカリ」という月額5800円(税別)で服を借り放題できるサービスを開始している。アプリで提供しており、累計ダウンロード数は100万を突破、有料会員は1万3000人ほどだ。
商品を売る小売業のストライプインターナショナルが洋服のレンタル業に進出したのには、新規顧客獲得が狙い。サービスを開始した2015年当時、アパレル業界は市場が縮んでおり、バブル期に13兆円だった市場が9兆円くらいまでシュリンク。新しい顧客を取り込むために始めたのが「メチャカリ」だった。
ストライプインターナショナル メチャカリ部長の澤田昌紀氏は、「最初は『当店のファンがたったの5800円で洋服が着放題になったら喜ぶのでは』と思っていたが、実際に運用してみると、普段お店で服を購入している既存顧客ではなく『店に行きたくないし、服のことなんか考えたくない』という人たちが多く利用していることがわかった」と語る。現在の顧客の70%は新規顧客で、スタイリングの機能なども実装されている。「常に新品のきれいな、トレンド感がある洋服をレンタルできることに価値を見いだして受け入れられているサービスだと思う」(澤田氏)。
新品の商品のみを貸し出すモデルだとコストがかさむ懸念があるが、メチャカリは中古品の販売をしているZOZOUSEDと提携することでコスト削減に成功した。
「高級バッグと違い、洋服は消耗品なので誰かが着た服を着るのはやっぱり嫌なもの。『サブスクだけど中古でしょ?』と言われたくなかったから、提供する商品は新品にした。ユーザーから返却された商品はZOZOUSEDに送り、商品データを連携して販売している」(澤田氏)。
「問題顧客」にやめてもらえば割安にできる
顧客にとって使いやすいサービスを提供するためには、価格設定も重要だ。ラクサスを提供する児玉氏は、女性が継続して払っている携帯代に注目し、それを超えることはできないと考え、6800円に設定したという。とはいえ、6800円まで価格を抑えるには苦労があったそうだ。
「事業計画を立てた当初、通販事業の経験をもとに試算すると月額2万9800円でないと採算が合わなかった。実は2万9800円の中に、バッグを壊す人や部品をとってしまう人など、一定数の問題顧客がいるという前提で試算していた。問題顧客を2%くらいと試算し、その人たちにサービス利用をやめてもらえばうまくいくことが計算上分かった」(児玉氏)。
サブスクは基本的にお客と継続的な関係を結ぶものなので、無理な要望をしてくる顧客に対応をしようとするとコストに全部跳ね返ってきてしまう。「別のサービスをお使いください」と言うことも重要で、お客と対等な関係を結んでいないとサスティナブルに続けていけないのだ。
良いサービス内容・価格だとしても、顧客が継続利用をしてくれなければ意味がない。獲得した顧客がずっと利用してくれるよう、パーソナライズのヘアケア商品を扱う深山氏は、コールセンターの教育に力を入れ、解約率を低下させている。
「サービスの解約はコールセンターで受け付けているが、1回解約すると言ったとしても、新しい処方の提案をすると、納得感を持って継続利用してもらえるケースが多い。解約の電話をしてきた人の20%がほかの処方へ変更をしている。また、季節の変わり目などに、『こういう処方に変えませんか?』というメッセージを送って提案することで、継続率が伸びることがわかった。こちらからお客様の髪の状態を予測して提案したほうがよいと思っており、システム開発に力を入れたい」(深山氏)。
ローンチした2014年に入会してくれたユーザーの半数が今でも継続利用してくれているというラクサスの児玉氏は、「『この期間を超えれば継続利用してくれる』というポイントを解決すればよい」とアドバイスする。
「サブスク事業は、最初の1、2カ月を乗り越えるとうまくいくケースが多い。ラクサスの場合は、2カ月目から3カ月目にいかに移らせるかが問題だった。2カ月目以降を何とか使わせるために行ったのが、初月に1万円のポイントをあげる手法。1カ月の料金をポイントで使うと残りの3200円が余るので、1カ月だけで退会すると3200円損した気分になる。すると、ちょっと課金して2カ月目を使ってしまおうという気になる。2カ月目になると2回、3回とバッグを交換するようになり、ユーザーは『このサービスいいかも』と価値に気づくのだ。最初の1、2カ月をクリアすると3カ月目以降は使い続けてくれるというビジネスが多いと思うので、この手法は使えると思う」(児玉氏)。
ミートアップでは4つの事例を紹介したが、サブスクはさまざまな業界で使える可能性がある、新しいビジネスモデルだ。ただし例えば、ティッシュペーパーのような安価な商品は、サブスクモデルにしても成功は難しいのでは、と若宮氏は語る。また「一生に1回、もしくは数回しか着ないようなウエディングドレスなど、利用頻度の低いものもサブスクに向かない」(同)。提供する商品・サービスによって、向き不向きがあるのだ。
若宮氏は「顧客への提供価値に合わせて、サブスクというビジネスモデルがいいのかを考えることが大切だ」と述べた。澤田氏も「サブスク事業をしている企業は少なく、先行研究もほとんどない。今後もこのようなイベントで情報共有をしていきたい」とまとめた。
(写真/花井智子)