話題の「月4万円住み放題サービス」とは?

 続いて、ADDress社長の佐別当隆志氏が登壇し、ADDressの事業や目指していることを語った。ADDressは「月4万円で多拠点住み放題サービス」を提供するスタートアップ。東京をはじめ、北は札幌、南は宮崎まで国内24拠点に物件を持ち、会員は自由に移動して生活できる。

「月4万円で多拠点住み放題サービス」を提供するスタートアップ企業ADDress社長 佐別当隆志氏
「月4万円で多拠点住み放題サービス」を提供するスタートアップ企業ADDress社長 佐別当隆志氏

 日本では空き家が大きな課題となっている。「このままいくと、2033年には、空き家が総住宅数の30%にあたる2166万戸になると予測されている」(佐別当氏)。佐別当氏がシェアリングエコノミー協会を立ち上げる中で、政治家や自治体から「地方でのシェアサービスを導入してほしい」という声を聞くようになり、空き家を活用したADDressを起業したという。

 佐別当氏が目指すのは、物件の提供というハード面だけでなく、物件提供を通じた会員同士の交流によるコミュニティーの醸成だ。「目指すのは、地域コミュニティーを全国で統合するような分散協働型の社会。2035年には、デジタルノマドのような移動しながら生活をする人が世界人口の11%にあたる10億人に達するといわれている。地域や会員同士のコミュニティーが非常に大きな価値を持つようになると思う」(佐別当氏)。

 2030年までには、登録物件数20万件、会員数100万人を目指したいと佐別当氏。「100万人以上の人が同じコミュニティーに集まって全国で暮らすようになれば『分散型のメガシティー』のようになる。地方の道路整備や地域活性化といった地域に根ざした施策も会員同士で積極的に行えるようになるだろう」と話す。

どんな人が多拠点生活をしているのか

 最後は、全国5拠点で生活をする大塚智子氏も交えて、3人でマルチハビテーションの実態や魅力、未来に向けた課題について意見を交わした。

国内の5拠点で実際にマルチハビテーション生活をしている大塚智子氏
国内の5拠点で実際にマルチハビテーション生活をしている大塚智子氏

 大塚氏は、現在実家も含めて、主に5拠点(福岡県八女市、北九州市門司区、大分県別府市、和歌山県高野町、東京都)を移動しながら生活をしている。大塚氏は、大学進学を機に東京へ上京。卒業後はソフトバンクなどに勤める傍ら、海外出張や海外との交流を通じて、世界への興味や日本だけにとどまっていてはいけないという思いを募らせていったという。これまでに世界55カ国を旅する中で、場所に縛られない生き方が自分には合っていると感じたそうだ。

 32歳からは地元の九州に戻り、生活拠点を少しずつ増やしていく中で、昨年からフリーランスとして働き始めた。北九州市門司区では短編映画のディレクション、別府市では起業家支援をするなど、各拠点で仕事を作って働いている。

 「私は親が仕事で家を空けることも多かったので、子どもの頃は地域の人に育ててもらった。そのため、大人になってからも生活をする各拠点で、仕事を通じて地域の人と育っていきたいという思いがある。例えば、拠点の一つである高野山の宿坊では、小さい子が集まっていて、先日も宿題を教えていた。私にとっては親戚や家族が増えたような感覚で、何か困ったことがあったときにお互い助け合えるようなつながりが持てている」と大塚氏はマルチハビテーションの魅力を語る。

現在はフリーランスプランナーとして、実家を含めた5拠点で活動をしている
現在はフリーランスプランナーとして、実家を含めた5拠点で活動をしている

 マルチハビテーションを実践している人はどのような生活をしているのだろうか。藤元氏の質問に対して佐別当氏は、ADDress会員になる人やマルチハビテーション生活をする人の共通点について、「多拠点での生活自体が好きで楽しみたい」と考えている人が多いと話す。

 「会員の年齢や仕事はバラバラだが、みなさん、多拠点生活を実現するために仕事や働き方を試行錯誤している。例えば、自宅がある都内を中心に飲食店のコンサルタントをしていた人が、移り住んだ先々の飲食店でコンサルティングをするような生活に切り替えたケースもある」(佐別当氏)

 例えば、60代の夫婦がマルチハビテーション生活をするために選んだ仕事は、全国にある不要な鉄塔の撤去だという。北海道の自宅とADDressを拠点に、キャンピングカーで全国を回っている。「過去にはネットショッピングや建設業などさまざまな職業にチャレンジして、最終的にたどり着いたのが鉄塔の撤去だと話していた。仕事内容があまりにニッチなので、常に全国のどこかから依頼が舞い込んでくるとのこと」(佐別当氏)

 家族で多拠点生活をしようとすると子どもの学校も気になるが、佐別当氏によると、その環境も整いはじめたという。「保育園なら1日単位で預けられる自治体が全国にある。小学校に関しても『デュアルスクール』制度を取り入れている地方なら、転校手続きが簡略化され、2カ所の学校を自由に行き来できる」(佐別当氏)

課題や苦労は?

 マルチハビテーション生活を送る上での課題や苦労もある。「シンプルに移動が大変」と話すのは大塚氏。「普段は34リットルのスーツケースを持って動くが、何時間もかけて移動をするのは、頻繁に拠点が変わるとストレスになるときもある。また、使いやすいからといって枕や布団まで持っていくわけにはいかない」(大塚氏)

 佐別当氏は法整備がまだまだ追いついていないと話す。「今、住まいと旅行が融合して境界がどんどん無くなっているが、行政では完全に縦割りになっているので、マルチハビテーション生活をする人に合わせた柔軟な対応ができない。税金の問題も含めて解決していく必要がある」(佐別当氏)

 最後に「複数の住居を持つことで、コミュニティーが増えたり地域のために貢献したいという思いが芽生えたりすることが、この市場を成長させるカギになる」と藤元氏は語った。

 佐別当氏は、今後ますますテクノロジーが発達していくなかで、リアルな交流や体験を大事にしたいと話す。「校舎を持たずネット上で完結する高校や大学が登場しているような時代だからこそ、リアルのつながりが大切になる。災害が発生したり、都心の気温が上昇したりしていくなか、複数の拠点を持つという生活は、5年後、10年後には違和感が無くなっていくと思う」。

 「大塚さんのような生活をすると人生が楽しそうだなと思う人が増えれば、必然的にマルチハビテーターは増えていくだろう」と藤元氏。重要なのは選択肢が増えたこと。以前は別荘がないと2拠点すら無理だったマルチハビテーションのハードルが下がっている。人の流れが加速すれば、経済が活性化して市場としても有望だと藤元氏は話す。

 「マルチハビテーション市場をビジネスチャンスと捉えている人も多いと思う。今のうちから、この市場で自分ができることを考えていただければうれしい」と話してミートアップを締めくくった。

マルチハビテーション生活の魅力について語る大塚氏と佐別当氏
マルチハビテーション生活の魅力について語る大塚氏と佐別当氏
大塚氏のような生活を面白いと思う人が増えれば市場は一気に加速するだろうと藤元氏は話す
大塚氏のような生活を面白いと思う人が増えれば市場は一気に加速するだろうと藤元氏は話す

会場:大手町ファイナンシャルシティ グランキューブ グローバルビジネスハブ東京

(写真/花井智子)