日経クロストレンドは、会員限定の無料交流イベント「日経クロストレンド・ミートアップ」を開催した。第4回となる2019年7月29日は、eスポーツのマーケティングがテーマ。スポーツの運営を行っているCyberZ(サイバーゼット)の大友真吾氏と、DeToNator(デトネーター)の江尻勝氏、eスポーツチームのスポンサーになったサッポロビールの福吉敬氏が議論した。
急成長するeスポーツで今、どんなことが起こっているのか
最近、よく目にするようになった「eスポーツ」。正式には「エレクトロニック・スポーツ」と言い、コンピューターゲームやテレビゲームの一種である対戦型ゲームをスポーツ競技として捉えたものだ。最近では名前の知れた人気選手が出現したり、大会の来場者数や配信視聴者数も右肩上がりに伸びたりしており、特に若年層からの支持が高まっている。特にゲーム大会のストリーム配信が人気で、これらの状況にいち早く気づいた企業がeスポーツの世界にさまざまな形で投資をしているのが現状だ。
そんなeスポーツの世界で今どんなことが起こっているのか、企業のマーケティングに使えるのかについて、大友氏、江尻氏、福吉氏に討論をしてもらった。
大友氏が在籍するCyberZは、「RAGE(レイジ)」というeスポーツの大会やリーグ、イベントを行うほか、YouTubeやニコニコ動画のゲーム特化版のようなゲーム配信のストリーミングサービスであるOPENREC(オープンレック)を運営している。また、eスポーツを使ってマーケティングをしたい企業などのニーズに応えるため、2019年3月にCyberEと呼ばれる子会社を設立し、日本に数多くのチームや大会がある中で、それぞれの企業のマーケティングに合ったブランディングや大会運営も行っている。
特にRAGEは「立ち上げ段階よりも来場数が飛躍的に増加し、2016年は150人だったイベントでは、2018年には3.5万人、累計視聴数は13万から700万視聴へと拡大している」(大友氏)という。
DeToNatorは海外に拠点を構えて活動するプロゲーミングチームで、eスポーツの配信や動画の広告事業、選手のプロモーション、自社オリジナル製品制作、教育事業などを行っており、目覚ましい進化を遂げている。
「2018年後半から動画配信事業に力を入れ、今までにいろいろな企業とコラボした。東海テレビとメディアパートナーを結び、2019年3月に1カ月間だけ地上波で冠番組をやらせてもらったり、AbemaTVではインターネットの冠番組を月イチで6回行うなど、非常に好評だった」(江尻氏)。
一方、エビスビールや黒ラベルで有名なサッポロビールは、「レバンガ☆SAPPORO」というプロeスポーツのスポンサー企業にいち早く手を挙げた。その理由は、新しいユーザー獲得のためだ。
「酒類業界は市場全体として右肩下がりになっている。また20~30代の若者がテレビを見ず、モバイルやアプリ、SNSの利用が増加するなど多様化している。マス広告と呼ばれる『ここを見ていれば皆と同じ共通の話題ができる』ということに若者たちは価値を感じていないということがわかっていた。そのため、今までとは違った方法でアプローチをする必要があった」(福吉氏)。
そこで注目したのが、eスポーツだ。福吉氏は「自社の販促手段でアプローチしきれていないお客さまに対してどのようにコミュニケーションをとるかを考えたときに、『eスポーツが核となりうる』と会社が認めてくれたのは大きかった」と語った。
記事掲載当初、RAGEの説明に誤りがありました。本文は修正済です。 [2019/08/26 13:00]
eスポーツのマーケティング効果とは?
企業がこぞってスポンサーになるなど、eスポーツ業界は盛り上がりを見せている背景には、マーケティング効果への期待の大きさにある。
「企業側から一番期待されているのは、若年層へのリーチ。アンケートではユーザーの約75%が24歳以下で、10代が半分近くを占めている。想像よりも若年層にリーチできるというのがeスポーツのマーケティング上の大きなメリットだと言える」(大友氏)。
広告を打つにしても、eスポーツのマーケティング価値は高い。「eスポーツのストリーミングの平均視聴時間は2~3時間。YouTubeのような数分の動画のなかで広告に触れるのと、数時間のなかで広告に触れるのではまったく価値が違う」(江尻氏)。
ただし、江尻氏は「eスポーツが話題だからと言って安易に参入するのは危険だ」と主張する。
江尻氏は、自チームで集計したストリーム時間とライブ視聴者数データから、両者が年々右肩上がりに増加していることを突き止めたうえで、さまざまな施策を打っている。「自社で集計した数字をきちんと集め、そのデータを企業がマーケティングとして使えるものにどう落とし込むか、データの使い道を考えることが大切。自分たちが積み上げてきた数字を使えるチームのほうが、eスポーツ業界で失敗するリスクは低いだろう」(江尻氏)。
マーケティングにどう活用すればいいのか
では、実際にeスポーツへ参入しようと考えている企業は、どうすればよいのか。確かにPCゲームの周辺機器やエナジードリンクは親和性が高いが、それ以外の商材にはマーケティング効果があるのか疑問に思えてくる。だが福吉さんによると「視点を変えることがポイント」と語る。
例えばエナジードリンクやゲーム機器の場合、選手に使ってもらうことでスポンサー企業の露出を図っている。一方、サッポロビールは、選手ではなく観客と結びつける広告で成功したという。「野球やサッカーなどスポーツ観戦ではビールを片手に応援するケースが多い。そこにブランディングの可能性があると感じた」(福吉氏)。確かに「選手に使ってもらう」という観点だけのプロモーションでは参入できる企業は限られてしまうが、大会の設備や観客など、別の切り口からならばさまざまな企業が活用できるチャンスはあるといえる。
また、熱量の多いファンや視聴者を味方につけることで、より大きなマーケティング効果を生み出せる。その一例として、RAGEを運営する大友氏は「配信チャット」の事例を挙げた。
「自分が大好きなゲームの大会を支援してくれている企業なので、『○○企業有難う』というコメントがどんどん流れる。するとほかの視聴者も『そうか、○○企業がスポンサーをしてくれているからこの大会が続けられるんだ』と理解し、観戦の空気感ができてくる。そこに熱量の高いユーザー視聴者をうまく巻き込むようなプロモートをすることが大切なのだ」(大友氏)。
RAGEの大会では、ファンや視聴者にスポンサー企業のプロダクトを愛してもらえるようなきっかけづくりにも成功している。例えば、以前の五輪で流行した「もぐもぐタイム」と呼ばれる選手の栄養補給行為がeスポーツ大会でもベーシックになりつつあり、実況解説の担当が企業のスポンサーの商品を食べながら放送することもある。そこで、大友氏もRAGEの大会に「もぐもぐタイム」を導入。「カードゲームの決勝大会で、選手ブースにチョコレート菓子を置いたところ、選手が糖分補給をしている画面が試合中の放送画面に映り、視聴者が面白がってお菓子の製品名で大喜利が始まって盛り上がった」という。
女性の参加者が増えている理由
高いマーケティング効果が見込めそうなeスポーツだが、プレイする選手も観戦する人も男性が多いイメージがあり、女性向け商品を扱う企業も参画できるか疑問に思えてくる。
ところが、大友氏は「最近はガールズバトルなども用意され、女性向けの大会や企画が増えてきたので、以前よりも参加ハードルがずいぶん下がってきた。感覚としては、参加者の10人に1人くらいは女性だと思う」。RAGEでは3年半の間に計10回以上大会を行っているが、今年7月の大会では初の女性ファイナリストも誕生している。「参加者、競技者としても広がっていると実感した」(大友氏)。
女性参加者が増えた理由の1つには、モバイルのeスポーツの存在もある。「RAGEでは『PUBGモバイル』というゲームの大会を定期的に行っているが、女性の参加層は非常に多い。誰もが想像するようなゲーマーではなく、小洒落たお兄さん、お姉さんが騒いで観戦している」(大友氏)。モバイル系のゲームはスマホがあれば誰でもプレイできるので、敷居が下がり、いろいろな人が参加できるようになっているのだ。つまり、女性向け商材を扱う企業や女性顧客獲得を狙う企業も、eスポーツで十分マーケティング効果を狙える可能性があるのだ。
日経クロストレンドでは、今後もビジネスとマーケティングとを結びつけ、eスポーツの情報を報道していく。2019年9月12日(木)~9月15日(日)に東京ゲームショウがあり、ゲームとeスポーツの情報を発信していくので、ぜひ注目してほしい。
会場:大手町ファイナンシャルシティ グランキューブ グローバルビジネスハブ東京
(写真/花井智子)