AIは水や電気と同じインフラに

 マーケターの仕事について再確認したところで、富永氏は石角氏にバトンタッチ。石角氏は、シリコンバレーでの米国企業のAI導入事例を紹介した。

 最初に石角氏は、米企業のマーケティング部門で主に導入されているAIサービスのマトリックスを提示した。縦軸に「導入の複雑さ」、横軸に「導入の利点」を設定し、導入が簡単で利点も高い「Must Do」や、導入は複雑でも利点が高い「Need to Do」など、4つの領域に分けてAIサービスを当てはめている。例えば、Must Do領域は「顔認証」や「チャットボット」、Need to Do領域は「音声AI」や「センチメント分析」などが該当する。

石角氏が提示したマトリックス。縦軸が導入の複雑さで、横軸が導入効果。チャットボットから自動発注まで、さまざまなサービスが並ぶ
石角氏が提示したマトリックス。縦軸が導入の複雑さで、横軸が導入効果。チャットボットから自動発注まで、さまざまなサービスが並ぶ
最初は、Must Do領域が取り入れやすいと石角氏
最初は、Must Do領域が取り入れやすいと石角氏

 内容は千差万別だが、米国企業は84%が何らかのAIサービスを導入しているという。チャットボットなどは日本でも導入されているが、米国ではAIへの認識そのものが異なるそうだ。「日本だとチャットボットは、『お客様センターの業務を代替してくれる自動化ツール』程度の認識だが、米国は『マーケティング部門にとってのカスタマーエンゲージメントツール』と捉えている。ファンをいかに増やしてコミュニケーションを取り、顧客が求める商品をどんぴしゃで提案するチャンネルとして活用されている」と石角氏。氏は、米国企業にとってのAIを「インフラ」と表現する。「日本のように『AIを導入しよう』と意気込むのではなく、水や電気と同じインフラとして当たり前のように定着し、活用が進んでいる」と話す。

 石角氏は「AIサービスをまだ導入していない日本企業は、導入が比較的楽でも利点が大きい『Must Do領域』から手をつければよい」とアドバイスする。次に重要なのが、導入が複雑でも利点は大きい「Need to Do領域」だ。「導入が大変ということは他社も後回しにする可能性が高い。競争優位性が増すため、長期的に見るとROIは高い」(石角氏)。

 Need to Do領域のなかで、「20世紀のマーケターとしては心穏やかじゃない」と富永氏が冗談を交えつつ触れたのは「新商品開発」のAIサービスだ。石角氏は、事例として洋服の開発を挙げた。「米国では、洋服のトレンドをAIが予測している企業もある。袖の長さやプリーツの有無などあらゆるデータを掛け合わせて、売れる洋服を分析している」と石角氏。

 もっとも、完成した服は人間である石角氏が見ると「本当に流行するの?」と思ってしまうようなデザインで、正直ダサいと思うそうだ。しかし、その企業では、来年流行する洋服のデザインを探る業務が、AIを扱うデータサイエンティストの役割になっているのだ。

石角氏は、マトリックスに書かれていたAIサービスの事例を、顧客に商品を提供するまでの各ステップに振り分けた。例えばチャットボットは、Provide領域における立派なAIツールと米国では捉えられている
石角氏は、マトリックスに書かれていたAIサービスの事例を、顧客に商品を提供するまでの各ステップに振り分けた。例えばチャットボットは、Provide領域における立派なAIツールと米国では捉えられている

 デジタルコンテンツ制作にもAIは深く関わりつつあるようだ。動画配信サービスのネットフリックスは、視聴者の「閲覧履歴」や「動画のどの部分で早送りをしたか」などの膨⼤なデータからAIが売れるドラマの特徴を分析して、「ハウス・オブ・カード」という⼤ヒット作品を作り上げたという。