「SXSW 2019」では「食」に対する関心が高かった。日本の立命館大学などが開催した「The Kitchen Hacker's Guide to the Food Galaxy in SXSW」にも、約70人が参加。日本酒100%のゼリーや、日本のだしと西洋の素材を使ったユニークなおでんなど、日本の食文化を世界にアピールしていた。
「食」は人類の未来に密接なつながりがあるため、世界的に関心度が高い。食料不足やフードロス、培養肉、食べ物を提供するために使用していたプラスチック容器などのリサイクルに関する問題など、トピックは多岐にわたる。「SXSW 2019」でも、さまざまなフードテックが紹介され、食の問題にまつわる展示やイベントが数多く見られた。
そんな中、立命館大学に2018年4月に創設されたばかりの食マネジメント学の准教授、野中朋美氏と鎌谷かおる氏たちが、江戸未来フードシステムデザインラボの展示を行っていた。同ラボの特徴は、歴史学とシステム学の研究者が、歴史をベースにしながら「食」を起点とした未来社会のデザインを研究することにある。
江戸時代に普及した日本酒
同ラボの名称にある「江戸」は、「都市」としての江戸と、「時代」としての江戸の、2つの意味を含むという。
江戸という都市は、江戸時代の全国各地の流通、文化、技術、情報が交差し合いながら完成したもの。そして、江戸時代の大規模輸送や、たるの開発、海路や加工技術の発展によって成長した日本酒は、江戸を象徴する商品といえる。このため、同ラボの展示テーマを日本酒を選んだのだという。
江戸時代に入ると、全国各地で本格的に大規模酒造が可能になり、特に摂津国の伊丹や池田の酒は、美味で有名になった。江戸時代半ばになると、摂津国の灘の酒が多く出回るようになった。灘を含めた摂津国で製造された酒は、江戸で消費される酒の7割を担っていたとされる。
当時、世界でも有数の“エコな都市”だったとされる江戸を象徴する日本酒を、世界の多くの人々に楽しんでもらいたいところだが、現在は個人が海外へ持ち出す酒類には量的な制限がある。そこで、江戸未来フードシステムデザインラボは菓子メーカーのユキオーとタッグを組みが、「100%日本酒ゼリー」を開発した。現在はまだプロトタイプとの位置づけだが、今後、改良を進めていき。販売を目指すという。
現在、国内で販売されている日本酒ゼリーの多くは、食べやすくするために日本酒の他に砂糖や果汁を含んでいる。しかし、100%日本酒ゼリーに使用する材料は、日本酒の他には粉末の寒天のみ。文字通り“100%日本酒”でできたゼリーだ。
通常のゼリーは製造過程でアルコール成分が抜けてしまうが、ユキオーの技術によってアルコール成分を飛ばさずにゼリーにすることが可能だという。
日本のだしが西洋の素材と融和した「おでん」
The Kitchen Hacker's Guide to the Food Galaxy in SXSWでは他にも、ウマミラボ(UMAMI LABO)や東洋ガラスも出展していた。
ウマミラボが手掛けたのは移動式のポップアップだしラボラトリー。だしを取る全ての機材を1つのスーツケースに収め、日本の伝統的なだしの素材と、現地の食材、調味料、酒をブレンドすることで、その土地ならではの「うまみ」を発見する、というもの。発起人はデザインディレクターの望月重太朗氏で、当日は5種類の異なるだしを提供していた。
(1)Dive into the Sea, 1908
真昆布、宗田がつお、さば節、伊吹いりこ。海を感じる配合。「うまみ」を世界で初めて1908年に発見した池田菊苗氏へのリスペクトを込めて配合をしている。
(2)Feel of the Earth, 2045
普段は捨ててしまうような野菜くず(玉ねぎの皮、人参の皮、野菜のへた、乾燥しいたけなど)のみで作った野菜だし。食糧難が仮に起きた場合でも手に入りそうなわずかな資源だけで、おいしいだしを引けるような状況を想定した。
(3)(1)の魚介系のだしに、ハンドドリップで追いがつおしたもの
(4)Umami Soup Stock for Vegan
昆布としいたけだけのヴィーガン専用だし。日本では精進だしと呼ばれるもの。
(5)(1)のだしをベースに、焼きアゴを加えたおでんだし
アスパラガス、ビーツ、卵など、西洋野菜と日本のだしが融和した、日米友好のおでん。
The Kitchen Hacker's Guide to the Food Galaxy in SXSWでは18種類の日本酒も振る舞われた。振る舞ったのは、ウマミラボでパートナーを務めている山寺純氏。イベント内では「Beyond Singularity: “Do Android Dream of Electric Gastronomy?”─ Galaxy of Japanese Sake Gastronomy ─」というタイトルでプレゼンテーションした。日本酒の国内消費量は1973年と比較して65.9%も減少しているが、輸出量は直近8年間で増加しているという内容。日本食に本当に日本酒がフィットしているのかどうかを、さまざまなデータマトリクスを活用しながら説明した。
東洋ガラスも、「Alchemist Bar ─taste is who you are─」を展示した。これは、味覚共有というもので、ドライフルーツやハーブ、スパイスなどを組み合わせて自分好みのお酒をつくり、シェアするという趣向だ。
フード問題は人類全員の問題
50年までに地球上には90億の人間があふれ、2100年には110億人にまで膨れあがる、と国連は発表している。日本の人口は減少するが、地球全体の人口は増え続けるのだ。
そんな時代の先駆けとして今回、イベントを主催した一人である望月氏は、「フードロスも大きなテーマの一つ。今回はシンギュラリティー後に起こるかもしれない食糧危機をテーマに、普段は廃棄される野菜の部位だけで作るヴィーガンスープを提供した。無駄を省きながら価値を最大化する視点で考えると、食を通じて未来と対話できる」とコメントしていた。