米テキサス州オースティンで2019年3月8日より開催中のデジタル社会や映画や音楽などメディアの総合イベントSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)では「食」がトレンドとなっている。中でも日本勢が展示している「SUSHI SINGULARITY」(スシ・シンギュラリティ)は、究極までパーソナライズした新しい食の形を提案し注目を集めている。

SXSWの展示会場(米テキサス州オースティン)
SXSWの展示会場(米テキサス州オースティン)

 スシ・シンギュラリティは「食」をデータ化し、食に革命を起こすことを掲げ、電通、山形大学、やわらか3D共創コンソーシアムなどが「OPEN MEALS(オープンミールズ)」というグループを組織して開発を進めている。シンギュラリティとは「特異点」のことで、人工知能(AI)において人間の能力を超える将来時点のことを指すことが多い。

 オープンミールズのファウンダーで電通のアートディレクターである榊良祐氏は「AIだけでなく食にもシンギュラリティが来ると思っている。すべてをデータ化して再現することで、どのような世界が実現されるのか4年前に着想して取り組んでいる」と言う。

スシ・シンギュラリティは3Dプリンターで自由な形状の寿司を作る
スシ・シンギュラリティは3Dプリンターで自由な形状の寿司を作る

 今回のデモンストレーションはイメージを示したもの。3Dプリンターを利用することで、様々な食材を利用して、自由な形状の“寿司”を作ることができるのが特徴だ。オープンミールズの加藤大直CTO(最高技術責任者)は「現時点で米粉など食べられる原材料で形成することに成功した。味付けをどうしていくのかを検討しているところ」と説明する。

最初に送付する生体の検査キット
最初に送付する生体の検査キット

 スシ・シンギュラリティが目指すのは食の究極的なパーソナライゼーションだ。最初に遺伝子、腸内細菌、栄養状態などの検査キットを送付。そのうえで、「アレルギーの有無や、どのような栄養が必要なのかを分析して、提供する食材に反映していく。実際にどの情報を取得して利用していくのかは検討中」(榊ファウンダー)。複数のヘルスケアスタートアップと組んで進めている。

初回は1食10万円

 実用化は近い。スシ・シンギュラリティとして、2020年には日本の東京に最初のレストランを開店する計画だ。今回の展示では、スシ・シンギュラリティに欧州の高級車メーカーや航空会社、米国の高級ファッション誌なども具体的な興味を示したという。

東京に2020年に開店予定の店舗イメージ
東京に2020年に開店予定の店舗イメージ

 レストランの料金は初回は生体検査などがあるため、食事も含めて1人10万円程度の価格を想定しているという。ヘルスIDと呼ぶ番号が発行され、入店時に顔認識などで個人を認識。「席に座るだけで、好みや健康状態などの情報を考慮した食事を提供できるようにする」(榊ファウンダー)。2回目以降は3万円や5万円といったコースになる見通しだ。3Dプリンターでの成形には時間がかかるため、ノズルが多数ある装置を導入したり、当初はある程度成形しておき最後の味付けのソースでパーソナライズしたりする予定だ。

お城型のイカの寿司を作ることも可能
お城型のイカの寿司を作ることも可能

 3Dプリンターを利用し、寿司の形状を自由にカスタマイズできる。マグロなどの魚介類だけでなく他の食材も選べる。世界各地で同じ味を再現する意味でも、利用する原材料は入手性が容易なものにしていくという。一方で、「昆虫や代替肉なども選択できるようにする。将来の地球規模で見たときの食料の持続性も訴えていきたい」(加藤CTO)。

スシ・シンギュラリティのフード・オペレーション・システム(右の画面)
スシ・シンギュラリティのフード・オペレーション・システム(右の画面)

 スシ・シンギュラリティを支えているのが、3Dプリンターと食材の特徴を管理するフード・オペレーション・システム(FOS)である。コンピューターを用いて設計をするCADのように、「栄養素」「味」「食感」「香り」「温度」「3D形状」「原材料」「色」「生成方法」といったデータを管理して制御できるようにした。

 特に重視しているのが食感だ。「素材や構造物の専門家とコラボレーションしており、食べる方向や表面と中で食感が異なったり、髪の毛よりも細い食材で柔らかい食材を表現したりしていく」(榊ファウンダー)。

 また、レシピが完全にデータ化されたことで、世界中の知見が集まる場とすることもできる。「ネットに公開されたレシピを食べて見て、ここをこうした方がいいといったコメントを寄せ改善していく、という活用法も想定している」(同)。

 オープンミールズは「寿司テレポーテーション」として、FOSに登録した情報を基に海外でも同じ寿司を実現できるとのコンセプトを提案。さらにパーソナライズによる付加価値を提供していく。山形大学は3Dプリンターで食材のような柔らかい物質を扱う技術を担当しており、やわらか3D共創コンソーシアムには複数の食材メーカーが参加しており、様々な試行を繰り返している。電通などの3社・団体のほか、マグナレクタ、アドバンテスト、サイキンソー、ユカシカド、アタリ、アマナ、ハイドロイド、東北新社がオープンミールズに参加している。


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