これまで8つの企業の14の「選ばれるEC」になるための戦略をご紹介した。すべての事例が、商品開発もしくはサービス開発を伴うものだ。第1回で述べたように、オムニチャネル化のような戦術的な対策では選ばれる理由にはならない。しかし、商品・サービス開発によって価値を生むのは難しい。そこには3つのハードルがある。

本連載は今回が最終回。総まとめとして「選ばれるEC」になるための秘訣を総括する(写真/Shutterstock)
本連載は今回が最終回。総まとめとして「選ばれるEC」になるための秘訣を総括する(写真/Shutterstock)

 「選ばれるEC」になるために商品・サービス開発で価値を生むには、以下が重要になってくる。1つは、顧客接点にある営業やコンタクトセンターで顧客の課題を発見できるか。2つは、経営層が課題解決のために経営資源を大きく割けるか。3つは、商品・サービス開発によって、想定通りのCX(顧客体験)を実現できるかだ。

課題をいかに発見するか

 顧客の課題を発見する過程において、最初の気付きはとてもささいなものだ。例えば第11回でご紹介したエンジェル宅配の例では、「購入した引き出物と一緒に手作りのクッキーを送ってほしい」という顧客の要望から同こんサービスを思いついた。第5回でご紹介した匠の傘のみや竹では、「高級な傘を忘れるのが心配だから買わない」という消費者の声を聴き、傘の忘れものを回収する支援を思い立った。

 顧客の要望の中から、解決すべき本質的な課題を見いだせるか。単に商品を販売するのではなく、顧客のCX全体を提供している、という経営視点があってこそ気づきがある。

 事例としてご紹介した企業はおおむね年商10億円以下で、経営者自らが顧客の声に触れられる環境にあった。そのため、課題の発見から解決への取り組みまで経営者自身が関与しやすかった。

 しかし、大企業ではそうはいかない。顧客接点と経営層が離れている。現場の担当者が気づいてそれを会議で経営層に上げていく過程で、多くの人の承認が必要になる。承認者は、失敗を避けようとすればするほど、多くの根拠やデータ、分析結果を要求する。結果として、誰もが文句を言わない当たり前のアイデアに丸められてしまう。現場でこそ気付ける感覚にこそ発見があるというのにである。

大企業ではアイデアが丸められてしまいがち
大企業ではアイデアが丸められてしまいがち
顧客接点と経営層が離れているため、現場担当者の気付きが承認過程を経ると当たり前のアイデアになってしまう

 連載第7回で事例に挙げた小林大伸堂の「名印想」では、コンセプト発見の際に参考にしたのは「体重ベアー」だった。結婚披露宴で新婦から両親へのギフトで使われるもので、新婦が生まれたときの体重と同じ重さのぬいぐるみをプレゼントするイベントで使われる。

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