“資源”のない企業でも、イノベーションを起こすことは可能だ。筆者がこれまで支援してきた中で、小規模で歴史の浅いアールウェディングは好例である。他社と異なる取り組みを行うことで強みを生み出し、見事にイノベーションを成し遂げた。2回にわたってご紹介する。
アールウェディング(福岡)の野口莉加社長は、もともと北九州市で披露宴の司会業をしていた。司会を頼む新郎新婦から「一緒に引き出物も販売してほしい」という要望を受けるようになり、引き出物も販売するようになった。その後、引き出物の販売額が順調に伸び、2004年にはマンションの一室を借りて1人でインターネット通販事業を始めた。
当時はネット通販の利用者が急激に増えたころであり、一方で参入する企業はまだ少なかった。そのため、どこでも手に入るものでもネット通販なら売れた時代だった。アールウェディングは波に乗って順調に売り上げを伸ばした。1000点を超える商品をそろえていたことも有利に働いた。
ネット通販で引き出物が売れたのは、もう一つの理由があった。相対的に価格が安かったのだ。引き出物を披露宴会場で購入する場合、一般に定価に近い価格で購入することになるが、アールウェディングなら平均20%引きで購入できた。
ネット通販で購入した引き出物は披露宴会場へ送られ、各席に紙袋に入れて並べられる。このとき持ち込み料や紙袋代を支払う必要があるが、それでも披露宴会場で購入するよりは割安に済む。便利さと安さから、客はうなぎ登りに増えていったのである。
同社の引き出物ネット通販事業を、AB3C分析してみよう。競合に同じようなネット通販事業者がいなかったので、専門店としての品ぞろえや相対的な安さが客から「選ばれる理由」になっていた。
「メーカーが直販開始」の衝撃
しかし、好調だったのは5年程度で、08年ごろから競合サービスが増え始めた。同じ商品が売られて価格競争が激しくなり、利益率は大幅に低下。さらにリスティング広告の競争も激化し、広告費が高騰した。低粗利に加えて集客コストも高騰し、利益は急激に減っていった。昼間は受注や仕入れ、商品の出荷、顧客対応に追われ、夜は夜で売り上げ分析やリスティング広告の出稿をしなければならず、野口社長は疲弊し、また悪化していく業績への不安から眠れない日々が続いたという。
さらに状況は悪化した。人気だった取り扱い商品をメーカーが直販し始めたのだ。「価格」「在庫」「アフターサービス」で優位なメーカーがリスティング広告を出稿すると、直販サイトが上位に表示され、優位さを保てなくなっていった。その後、他の商品もメーカーが相次ぎネットで直販し始めていくことになる。
この状況をAB3C分析してみよう。品ぞろえの多さや相対的な安さで披露宴会場よりも有利な立場にあったが、競合の引き出物通販事業者が加わり、さらにメーカーが直販を始めたことで市場が成熟。品ぞろえも価格も優位性が失われてしまった。
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