バブル崩壊以降の業績悪化に苦しんでいた、たまり漬けの老舗「上澤梅太郎商店」。リブランディングにより一時的に業績を回復したが、新規客をもたらしていた日光の観光客の減少と、漬物市場の衰退という根本的な原因を解消するには、価値そのものを変えるイノベーションが必要だった。
前回、上澤梅太郎商店がECサイトを含めたリブランディングに成功したことを紹介した。今回は実際にはECそのもので改革を起こしたわけではない。ただ、ABC3分析によって、まったく予期せぬ別業態に進出し、そこで成功の種を見つけた興味深い事例であるので、ぜひ紹介したい。
平成24年(2012年)までの10年だけで約3割も縮小した漬物市場。上澤梅太郎商店が本格的な業績回復を果たすためには、漬物市場でシェア拡大を図るだけではなく、成長市場に向けて新たな価値を提案する必要があった。
しかし中小企業にとって、全く新しい市場に足場を作るのは簡単なことではない。そこで上澤梅太郎商店は、現在の市場の周辺で商品を受け入れられるシーンがないかと考えた。
「一汁三菜」と「口内調理」
新しい市場を探すため、上澤梅太郎商店はまず自社の歴史と強みを分析した。50時間程度の社内ヒアリングを通じて見えてきたのは、上澤家の食への強いこだわりだ。
自社商品やその食べ方についてのこだわりもちろん、競合商品との違いや、理想的な食事に対する価値観、果ては和食の文化や歴史など、食に対するこだわりが随所に眠っていることが分かった。主力商品である味噌や漬物を支えているのは、実は深い知識や確立された価値観だったのである。
特に印象的だったのは、上澤家の食事スタイル。1日3食の食事の中でも朝食を最も大切にしており、必ず「一汁三菜」が用意される。それも大皿ではなく、おのおのの皿に分けて出す。一汁三菜とは、「ご飯」「味噌汁」に加えて、3つのおかずを用意すること。この朝食を15年前からおいしそうな朝食を毎日写真に撮り、ブログに掲載してきた。
毎日7品程度が用意される写真を見た海外の社長の友人が「日本に帰ってきたらぜひ上澤の食事が食べてみたい」と希望し、後日わざわざ泊まりに来たことがあるエピソードもあるほどだ。
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