衰退する印鑑産業を憂うのではなく、新規事業を創出しようと模索した福井県鯖江市の老舗印鑑店、小林大伸堂。贈り物として開運印鑑を購入する客の満足度が「名前」「思い」「カスタムデザイン」の3つにあることを突き止め、「名印想(めいいんそう)」という新しいコンセプトのブランドを立ち上げた。今回は、次に同社が何を狙っているかを見ていく。
小林大伸堂の特徴は、開運印鑑をギフトで作る客が、誰に、どんなシーンで贈るのか、また印鑑にどのような思いを込めたいのかを詳しく尋ねる点にある。名印想のコンセプトを作り上げた際に、「顧客の言葉を聞くのではなく、言葉にならない思いを聞く」という行動指針を打ち立てたためだ。
すると、客からさらに深い思いを聴くことができ、「だったら、深い思いをメッセージカードに記載して一緒に届けることはできないか」というアイデアを思いついた。
名前に込めた思いをどう伝えるか
中でも目立って多かったのが、印鑑を出産祝いとして贈りたいと考える両親や祖父母など名付け親としての声だった。「命名に込めた思いを伝えたい」という客が多く、意欲も強いことに気付いた。命名理由をうまく伝える工夫としてまず考えたのが、オプションサービスとして命名書を制作することだった。しかしながら、命名書は数日から数週間しか飾られず、すぐにしまわれる可能性がある。
命名の思いを数年後や十数年後に本人にも伝える方法はないか――――。次に出てきたアイデアは、印鑑の箱に刻印する方法だった。
印鑑を購入すると、桐箱に納めて届けられることが多い。名印想では、この桐箱に命名理由を記した紙を入れて長期保管してもらうことを検討した。紙だと劣化するため、頑丈なアルミ板への刻印など、さまざまな素材の採用も試みた。ただ最終的には、桐箱そのものにメッセージを直接刻んでしまう方法に落ち着いた。これなら、赤ちゃんが大きくなるまで劣化せずに保管でき、しかも大人になってから見てもらいやすいからだ。手渡しした瞬間に相手に思いを伝えやすいし、感動を演出するアイテムとして最適だ。
命名理由入り桐箱のAB3C
以上紹介した、命名理由を刻印した桐箱を使った出産祝いの印鑑(関連記事「逆風下でECの売り上げ倍増 老舗印鑑店が編み出した秘策」)について、AB3C分析すると以下のようになる。
前回紹介した通常の開運印鑑は、商品そのものは従来と変わないものだったので、ウェブサイトでの表現によって違いを分かり易く伝えただけだった。それでも売上本数が倍増するほどのインパクトがあった。今回紹介する商品は、桐箱によって商品そのものの価値を上げて、感動を生むオンリーワンの商品としてより明確に客から選ばれる理由を作り上げた点で注目である。
箱だけほしいという客も
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