※日経トレンディ 2019年4月号の記事を再構成

3年連続で観客動員数リーグ1位、7期連続で売上高過去最高を更新、天皇杯3連覇中。プロバスケットボール・Bリーグを代表するクラブ、千葉ジェッツふなばしの輝かしい成績だ。僅か8年前には存続が危ぶまれていた弱小クラブを日本一に導いた、社長・島田慎二氏の緻密な「目標設定」の秘密に迫る。

注)写真は今年の天皇杯決勝時 (C)CHIBA JETS FUNABASHI
注)写真は今年の天皇杯決勝時 (C)CHIBA JETS FUNABASHI

「夢」と「実利」で閉塞感を打破 小さな成功体験で自信を与える

 島田氏が千葉(当時の運営会社ASPE)の社長に就任したのは12年。当初は深刻な赤字経営で、選手は給与が払われないのではという不安を抱えながらプレーし、社員は「いつまでクラブが持つか」と疑心暗鬼で働く。八方塞がりで、雰囲気はどん底だった。

千葉ジェッツふなばし社長 島田慎二氏
千葉ジェッツふなばし社長 島田慎二氏

 この空気感では再建など不可能。魅力的な給与を用意すれば手っ取り早く士気は上がるが、資金がない。そこで掲げたのが、「千葉ジェッツを取り巻く全ての人たちと共にハッピーになる」という経営理念だ。「給与が上がれば社員が幸せになれるなら、私は必死で頑張るから付いてきてくれと。まずは社員がもう一度頑張れるように、何を目指すのかを明確にした」(島田氏)。

 「夢」と同時に、社員の頑張りに「実利」で報いる仕組みも用意した。それが、社員一人一人に対する年間目標の設定と、それを達成したときのボーナスの明確化だ。例えば、スポンサー収入を担当する社員なら、「年間1億円獲得」というように具体的な数字を伝える。「目標に到達できれば、これだけの原資が用意できるから、いくら払える」ということまで説明し、資金がないなかでも、社員の頑張りに給与で応えられる制度を作った。「夢だけでは飯は食えない。実利だけでは寒い。両方あるからこそ、社員は頑張れる」(島田氏)とその狙いを説明する。

 どんな目標を設定し、どう達成させるか。そこに、「目標設定は経営者の素質が問われる重要な仕事」と言い切る島田氏の神髄が表れる。会社全体の予算をはっきり伝え、その数字を実績やスキルに応じて個人にブレイクダウン。少し背伸びした目標のほうが燃える人は、目標を1億円にしてボーナスを高めに設定。現実的な目標のほうがコツコツ頑張れる人は、目標を8000万円にして、ボーナスを1億円の人より低めに設定するといったように、社員個人の性格まで考慮した。

 ただ目標を決めて、「じゃあ頑張れ」ではない。毎週火曜日には丸1日会社にこもり、島田氏自らが1人30分~1時間程度かけて、社員全員と面談。進捗を確認するだけでなく、今週はどこに営業をかけるか、どの作業に取り組むかまで細かく相談に乗った。

 年間目標を、月間や週間など短いスパンまで落とし込んだことも秘訣。「今週はこのスポンサーと契約する」といった細かい目標の達成を積み重ねさせることで、赤字経営で疲弊していた社員に自信を付けさせた。「人間の体でいえば以前は病気だった。最初はリハビリをして、次は歩こう、次は走ってみようと。小さな成功体験をさせてあげることが、社員の自信とやる気につながる」(島田氏)。

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