※日経トレンディ 2019年4月号の記事を再構成
2000年代初頭に業績不振で倒産寸前まで追い込まれた地方の弱小ビールメーカーが、「チームワーク」を武器に驚異のV字回復を果たした。それが、長野・軽井沢に本社を置く、ヤッホーブルーイングだ。
クラフトビール「よなよなエール」をはじめ個性的なビールが話題を呼び、ネット通販を強化した05年以降、14年連続で増収を達成。今や大手ビールと並んでコンビニに置かれるなど、クラフトビールでシェアトップを誇る。加えて、「働きがいのある会社ランキング」(GPTWジャパン※調べ)の従業員100~999人部門で3年連続「ベストカンパニー」に選出されるなど、働き方の面でもその革新性が評価されている。新卒や中途の採用募集には、志望者が殺到。新世代の新興企業だ。
そんな絶好調チームをつくり上げた原動力が、社長の井手直行氏が導入し、自らファシリテーターを務める「チームビルディング研修」だ。
ベースとなっているのは、井手氏が09年に参加した楽天大学のチームビルディングプログラム。参加費は1人30万円と安くはなかったが、「創業者の星野佳路(星野リゾート代表)から社長を引き継いだこともあり、今後の成長を見据えて組織力の強化が必須だと考えた」(井手氏)と飛び込んだ。
楽天大学では、異なる企業から集まった楽天出店者たちが、体を動かすさまざまなアクティビティをグループで体験。それから言語化された「チームビルディング」の考え方を学ぶ。そのプロセスで初対面だったメンバーがチームになる効果を体感し、「衝撃を受けた」と井手氏。会社に戻ると早速、自らが講師となって研修を実施。それが、現在のチームビルディング研修の始まりだった。

ヤッホーの研修は、楽天大学と同様、8時間の研修を5回行う本格的なもの。社長自らが広く参加者を募り、現場へ生かそうとみっちり取り組むのはヤッホーならではだ。当時は20人弱の会社で、参加したのは社長を含めて8人。半分近くが業務から抜けるため、参加していない社員からは反発も起きた。ただ、参加者の目の色は変わった。毎年同様の研修を実施し、「3期目くらいから社全体として効果が目に見えて表れてきた」と井手氏は言う。
例えば、いろいろな部署や立場で研修の卒業生が増え、交わることで部署横断のプロジェクトが続々と出てくるようになった。ビールフェスでの催し物を企画する際、従来は営業担当だけで企画をしていたが、研修を受けた社員が中心となって他部署まで巻き込んで盛り上げることに。体験型イベントを仕掛け、大成功を収めた。研修はすでに9期目に突入。約140人の社員のうち半数以上が卒業生になっている。
今年から次のステップとして、従来の基本プログラム「1.0」に加え、一度受講した人向けの復習プログラム「1.5」を実施。ファシリテーターを育成する「2.0」も始まった。社員数が増えてきたなか、井手氏に続く伝道師を増やし、浸透を図る狙いだ。今回は、2月中旬に長野県佐久市で行われた「1.5」研修に潜入。次世代のチームづくりを探った。
まずは体を動かし課題に挑戦
今回の参加者は社員7人。広報や製造、販売など、さまざまな現場から集まったメンバーで、仕事もバックグラウンドもばらばらだった。加えて、同研修プログラムを「エア社員」として支援する、チームビルディングの専門家・長尾彰氏と、楽天大学の創始者である仲山進也氏、さらに井手氏がファシリテーターを務めた。
まず目に付いたのが、全員が首から下げているプレートだ。あだ名に加え、「共感性」「社交性」「責任感」「分析思考」「戦略性」といった5つの言葉が並ぶ。これは、「ストレングスファインダー」という資質テストを受けた結果を示したもので、34個のうち自分の資質の上位5項目が書かれたものだ。
ストレングスファインダーとは、米ギャラップ社の開発したオンライン診断ツールで、『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 ストレングス・ファインダー2.0』(日本経済新聞出版社)といった書籍を買うことなどでオンラインでのテストが可能。ウェブ上で177問の質問に答えると、34個に分類された資質のうち該当するものが順位付けされ、自分の資質(強み)が導き出される。ヤッホーブルーイングでは、新卒の社員も中途採用の社員も入社時に受けるのが基本。情報は社で一元管理され、公開・共有されている。「おのおのが自分の『強み』を生かし、『弱み』はチームメートがカバーするのが最強のチーム」というのが井手氏の持論だ。
今回の研修では、まず体を使ったアクティビティを行った。今回は、バトンを半分にしたような道具を各人が持ち、パチンコ玉やスーパーボールなどを転がして次の人にパスしつつ、部屋の端から端まで伝達していくというもの。一見簡単そうだが、渡し手と受け手が呼吸を合わせなければ、玉は簡単に転がり落ちてしまう。制限時間もあり、焦れば焦るほどミスが増える。「このプロセスで起こることがすべて、後で振り返る際の材料になる」(ファシリテーターの長尾氏)。
7人はまず、落とさずに素早く運ぶ方法を話し合った。ボールを転がりやすさなどで分類し、注意点を共有するシーンも。「『取りあえずやってみよう!』という発言に押されてすぐに挑戦するチームもあれば、今回のようにじっくり計画を練るチームもある」(井手氏)。性格や資質の異なるメンバーが、意見をぶつけ合いながら1つの仮題に取り組む姿は真剣そのものだった。
今回のグループは、時間内にすべてを運び終えて見事成功。最後の1個がゴールに収まると、皆が両手を上げて跳びはねるほど盛り上がった。アクティビティとしてはこの他に、全員がフラフープに人さし指で触れながら地面まで下げていくといったものもある。意識がばらばらなうちは難しいが、試行錯誤を経てチームワークが生まれるとクリアできるという絶妙の難易度がポイントだ。
1つのアクティビティが終わると、次は「振り返り」に入る。だが、単純に感想を言い合うのではない。チームづくりの基礎となる「5つの力」を意識しながら振り返り、仕事への応用を模索するのが重要なポイントだ。
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