2030年には市場規模が11兆円を突破すると予測されているシェアリングエコノミー(一般社団法人シェアリングエコノミー協会調べ)。メルカリなどを生んだ成長市場には参入する企業が相次ぎ、ユニークな事例も多数生まれている。日経クロストレンドから最新事例が分かる記事などをピックアップした。
500を突破したシェアリングサービス
シェアリングエコノミー(共有経済)とは、「インターネット上のプラットフォームを介して個人間でシェア(賃借や売買や提供)をしていく新しい経済の動き」(一般社団法人シェアリングエコノミー協会の公式サイトより)である。その新しい経済の動きを象徴する存在といえばフリマアプリ大手のメルカリだろう。同サービスでは、トイレットペーパーの芯や、集めたベルマークも出品され、実際に取引されている。トイレットペーパーの芯は子どもが工作に使いたいという需要を満たしており、一方ベルマークはPTAや保護者会で使用するために効率的に集めたいと考える親からの引き合いがある。
三菱総合研究所の調べでは、既に「シェアリング」を冠するサービスやビジネスは国内で500を超えて提供されている。その内容は多岐にわたり、自家用車を空き時間にシェアするサービスや、レジャー用ボートやスーツをシェアするもの、さらには個人の時間をシェアするサービスまである。モノだけでなく、個人のスキルや時間といった無形資産までシェアする対象は広がっている。こう考えると、シェアリングサービス(ビジネス)とは、狭義には「遊休資産の利活用を目的としたインターネットを介した個人間取引(P2P)における仲介サービス」だと説明できる。
関連記事
【最新事例(1)】高級腕時計をシェアリング
シェアの対象となるものの中で、とりわけ大きな割合を占めるのが、「モノ」「スペース」「移動」。モノには中古品を売買するフリマアプリやアパレルのシェアサービスが、スペースには民泊のほか、店舗の一部や駐車場などを貸すサービスが、移動には自動車や自転車のシェアサービスが含まれる。まずはユニークな「モノ」のシェアリングサービスをいくつか紹介しよう。
モバイル向けゲーム開発などを行うクローバーラボ(大阪市)が手掛けるのが腕時計専門のシェアリングサービス「KARITOKE」。好きな時計を1本、返却期限なしで借りられるサービスで、返却すれば、別の時計をまた借りることが可能だ。
借りられるメーカーやモデルによって、4つのプランがあるが、最上位のコースを選ぶ人が全体の4割を占めるという。高価な腕時計を「とっかえひっかえ使える」というのが大きな魅力となっているようだ。また、自分の時計を1本も持っていない人が会員の3割を占めていて、「購入前に試してみたい」というのも利用の動機となっている。
2018年11月からは、会員の時計を預かってほかの会員に貸し出す「KASHITOKE」も開始した。時計を預ける側には、預けた時計に1カ月で1人でも借り手が付けば、最大5000コイン(1コイン1円で換金可能)が与えられる。さらに、時計メーカーへのデータ提供も開始した。「KARITOKEを時計を使ってみるきっかけにする人も多いので、メーカーのマーケティングに役立つ」という。
関連記事
図解1.8兆円シェアリング市場 腕時計は「レンタルで始める」
【最新事例(2)】ビニール傘よりも経済的
Nature Innovation Groupが18年に始めたのが、傘のシェアリングサービス「アイカサ」だ。傘の利用料は1日わずか70円。600円のビニール傘を買うことを考えれば、かなりの節約になる。本社のある東京・渋谷を中心に、19年6月中旬の時点で、上野駅周辺や福岡駅周辺など240カ所に3000本のシェアリングサービス用の傘を設置している。これを20年中には、都内を中心に1500カ所3万本まで広げる予定だ。
シェアリング用の傘を置くスペースはコンビニエンスストアのローソンやメガネスーパー、飲食店などが提供。傘の利用収入の約10%が設置者に還元される仕組み。だが、約4割は無償で提供している。「もともと、空いていた場所だから」といって報酬を受け取らない設置者がいるためだ。
実は設置者側は、傘の利用収入ではなく、集客効果を期待している。急な雨で困ったときに、600円のビニール傘を買わずに1日70円の安価な傘を借りられるなら、それは一種の「おもてなし」だ。店のイメージを良くするし、利用客は傘を借りたり、返すついでに、買い物や食事をしてくれるかもしれない。
関連記事
【最新事例(3)】利用料が発生しない愛車シェア
続いて「移動」のシェアリングサービスを紹介しよう。「所有から利用へ」というMaaS(Mobility as a service、マース)に代表されるモビリティ変革の荒波の中、電通があえてマイカーオーナー向けのサービス「カローゼット」を始めた。
カローゼットは、会員同士でマイカーの貸し借りができるプラットフォーム。会員をクルマのオーナーに限定していること、自分のクルマを貸し出した日数分だけ他の会員のクルマを借りられる仕組みで、オーナー間の利用料の支払いは発生しないことがユニークな点であり、業界初のサービスだ。
具体的な利用シーンとしては、大人数で出かけるときだけ他の会員のミニバンを借りたり、爽快なドライブを楽しみたいときにオープンカーを借りたりといったことが想定される。電通の調査によると、マイカー保有者のうち実に41.4%が「自分のクルマでは十分に目的に足りず、困った経験がある」と回答している。そのうち半数が「その目的を諦めた」というから、潜在ニーズはありそうだ。
関連記事
MaaS時代に逆張り 電通が狙う“愛車シェアリング”の新市場
【最新事例(4)】スペースと移動のシェアが合体
独立系ベンチャーのCarstay(カーステイ、東京・新宿)が開発するサービスは、「スペース」と「移動」のシェアリングを組み合わせたユニークなもの。例えるならば、民泊事業の「Airbnb」、駐車場シェアリングの「akippa」、そしてレジャー・アクティビティー予約サービス「asoview!(アソビュー)」を組み合わせた事業だ。そして、そのすべてが自動車と密接に結び付いている。
まず、Airbnbに当たるサービスが車中泊に特化したカーシェアリングサービス「バンシェア」だ。キャンピングカーや、車中泊仕様にカスタマイズを施したトヨタの「ハイエース」などを活用した、新たな宿泊ビジネスを展開する。
バンで旅行に行く目的地周辺で車中泊可能なスポットを予約できるサービスが「Carstay」だ。駐車場もバンと同様に既存の資産を利用する。例えば、道路施設「道の駅」、深夜は営業していない飲食店や温泉などが駐車場を提供している。
さらに、Carstay上の駐車場の詳細ページには500を超える周辺の観光情報を掲載。掲載されたレジャーやアクティビティーの一部は、Carstay上で予約が可能となっている。つまり、借りたクルマで旅に出て、旅先での遊びも予約できる。その一貫した体験を、自社で資産を持たないシェアリングエコノミーとして提供する。それが、Carstayのビジネスモデルだ。
関連記事
トヨタも注目する「VAN泊」市場 車中生活ブームが日本に到来か
【未来】テクノロジーでシェアリングを進化
5Gを使った用途として注目される人材や設備のシェアリング。中でも技術的なハードルが低く、実用化間近とみられるのが、建設機械(建機)の遠隔操作だ。建設現場では人手不足が深刻になっており、遠隔操作が実用化されれば、現場に出向く必要はなくなる。距離を超えた人材のシェアという観点では、遠隔医療もニーズがあり、引き合いが多く来ている。
距離を超えることによるシェアリングは、人だけでなくモノにも広がる可能性を秘める。その例が、1つの工場を、複数の企業がシェアリングするスマートファクトリーであり、「工場のクラウド化」だ。工場には汎用ロボットを設置し、クラウド上に制御プログラムを置いて稼働させれば、制御プログラムを切り替えるだけで、設備を変えることなく、別の製品を容易に生産できるようになる。つまり、期間を区切って複数の企業が1つの工場をシェアリングすることが可能になる。これもまた、距離を超えることによる新たなシェアリングの形と言えるだろう。
関連記事
ドコモやKDDI「遠隔操作」でヒト・モノをシェア ついに実用域へ
【課題】利用が進まないシェリングサービス
PwCコンサルティング(東京・千代田)が実施した「国内シェアリングエコノミーに関する意識調査」の結果が発表された。日本国内でシェアリングサービスを利用したことがある、または提供したことがあるとした人は全体(1万29人)の15.4%にとどまる。17年、18年の調査と比較すると増加傾向にはあるが、利用への一歩が踏み出せない状況が続いている。
シェアリングサービスの利用経験者(1542人)が最も利用しているカテゴリーは「モノ」が58.2%でトップ。しかしサービスの認知者全体(4763人)で見ると利用率は25.3%程度だ。過去の調査と比較すると全カテゴリーでスコアの伸びに勢いがなく、認知から利用への行動シフトをどのように促すかが課題といえる。
シェアリングサービスを利用して良かった点については「サービス・製品が満足のいく価格だった」「気軽に利用できた」と評価する回答が目立つ半面、「ユニークさ」「提供者との有意義な交流」「価格以上の価値」と答えた人が少なく、利用者およびリピーターを増やすための課題が浮き彫りになった。
シェアリングサービスのメリットに関する問いでは、すべてのカテゴリーで「金銭が節約できる」がトップになった。サービス利用時の懸念事項としては、全カテゴリーで「事故やトラブル時の対応」がトップに。価格や品質、責任の所在といったトラブルの原因となる項目についての懸念が強く、“信頼性”が求められていることがうかがえる。
関連記事
シェアリングサービスの懸念はトラブル時の対応 PwC調査より
シェアリングエコノミーのおすすめ関連記事
月間1600万人集まる個人作品売買サイト 商業施設の集客源にも
企業や団体に属さない「個人」が、作品やスキルを提供してビジネスを展開する「個人経済圏」。アクセサリーから洋服、家具まで個人が制作した作品を販売する「Creema」は、ネット販売を核に大型商業施設への常設店舗も展開し、個人クリエイターのビジネス領域拡大をサポートしている。
特集の第2回で取り上げた、個人クリエイターの作品売買に特化したプラットフォーム「Creema」。同サイトは個人クリエイターのビジネスをどのようにサポートしているのか。出品者の1人、陶芸家ののぐちみか氏は、「撮影や出品、発送まで委託できるところが魅力」とその強みを語る
中国シェアリングエコノミーの栄枯盛衰 自転車からバッテリーへ
2008年、シェアリングエコノミーの先駆けとして米国で誕生した「Airbnb」は20年にIPO(新規株式公開)を実施すると発表した。中国ではこのシェアリングエコノミー市場に劇的な変化が起きている。シェアバイクサービスは既にピークを過ぎた。中国シェアリングエコノミーの行方は。
前回は、なぜシェアリングビジネスが定着しつつあるのか、情報通信技術やユーザーマインドの観点から理由を紹介した。今回は、生活にシェアリングが定着したことで、私たちの日々の行動がどのように変化しているのかについて、メルカリと行った共同研究の結果を踏まえて分析していく。
本連載ではこれまで、“モノ”と“移動”のシェアリングの普及が社会に及ぼす影響について紹介してきた。今回は、“スキル”のシェアリングについて取り上げる。
眠ったお金を動かす「お金のシェアリング」 豊かな社会への切符
個人の資金流動性が諸先進国と比較して低いとされる日本では、「貯蓄から投資へ」の実現が課題。そんな中、人々に経済合理性以外の投資動機を与えるお金のシェアリングがこの課題を解決し、より豊かな社会をつくる原動力になることが期待される。
ウーバーやリフトは「移動」の概念を大きく変えた一方でビジネスモデルの詳細やデータの活用方法を明らかにしていない。シリコンバレー在住の日本人ドライバーによる連載の3回目はウーバーが提供する各種サービスについて説明する。
(写真提供=ShutterStock)