2016年に登場したスマホゲーム「ポケモンGO」でも用いられたAR(拡張現実)。日経クロストレンドの記事からARを活用した最新事例をピックアップした。

「ポケモンGO」で身近になったAR

 AR(Augmented Reality、拡張現実)とは、現実世界にデジタル情報を付加する技術である。スマートフォンの画面越し、もしくは透過式の眼鏡型デバイスを用いるのが標準的な使い方だ。そのARが一般人にも身近になったのは、2016年にヒットしたスマホゲーム「ポケモンGO」だろう。人気のポケモンが現れる場所には昼夜を問わず大勢の人が押し掛けるなど、社会現象となった。

 実はARの概念を最初に世に知らしめたのは、「オズの魔法使い」の著者として知られる作家ライマン・フランク・ボーム氏だという。1901年に刊行した小説「マスターキー」の中で、現実世界と仮想世界を重ね合わせるシーンを登場させている。

 「ポケモンGO」の登場から早くも約4年が経過した今、ARは我々の生活にどの程度浸透したのだろうか。米アップルはiOS向けに「ARKit」、米グーグルはAndroid端末向けに「ARCore」というARソフトウエアの開発基盤をそれぞれ17年より提供しており、その後多数のアプリが登場した。

 それでは最新事例を紹介していこう。

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【最新事例(1)】商品が浮かび上がるECサイト

 ZEPPELINは、ARとAI(人工知能)を活用した3次元マーケティングプラットフォーム「ARaddin(アラジン)」を開発。同社はそのARaddinをベースに、消費者が自宅に居ながら、ARを活用して楽しく買い物ができるECサービス「ARマーケット」を20年5月2日に開始した。スマートフォンに専用アプリをダウンロードした後、アプリを立ち上げて自宅の空間にスマホをかざすと、ショップが現れる。そのショップをタップして入店すると、商品が3次元で空間に浮かび上がる仕組みだ。そして、商品を空中で回転させて全体を確認するなどして、気に入ったらそのまま注文できる。

 ARマーケットの第1弾はイチゴ狩りだ。スマホを通して、部屋に浮かぶように出現するイチゴの中から、好きなイチゴをタップすると収穫できるという仕組みだ。宮城県でイチゴ農園を手掛ける農業生産法人GRAと提携しており、イチゴを“収穫”してARマーケットから注文すると、GRAの販売網を経由して、自宅にイチゴが届く。

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【最新事例(2)】アトラクションの入れ替えが簡単

 プレースホルダ(東京・品川)は、砂遊びやお絵描きなどのアナログな遊びに、ARを組み合わせた屋内型テーマパーク「リトルプラネット」を運営する。同施設はARを実現するハードウエアに汎用的な製品を使い、ソフトウエアコンテンツの開発に注力することで、費用や時間をかけることなくコンテンツの変更やアップデートがしやすいつくりになっている。

 アトラクションの1つ「PAPER RIKISHI」は、力士の塗り絵に色を塗った後、設置してあるカメラでスキャンし、映像に取り込んだ力士を戦わせるデジタル紙相撲だ。塗る色に応じて、力士の能力(スピード・体力・強さ)に変化が生まれる仕組み。19年4月に登場したカーレースが楽しめる「SKETCH RACING」も同様に、色を塗りスキャンして映像に取り込んで遊ぶ。

 実はこれら2つのコンテンツは同じ設備を使うため、既存の店舗に設置されているデジタル紙相撲のアトラクションを、即日カーレースに変更することも可能だ。季節やイベントごとにアトラクションを変えやすく、ネットゲーム的発想のテーマパークと言えよう。費用をかけずとも、リピーターに飽きさせないようにアップデートし続けられる。

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【最新事例(3)】町おこしにARアプリが活躍

 ARを使った奇抜な体験型ゲームが、19年7月20日に登場した。仕掛けたのは、人口2万人に満たない静岡県森町。町の施設「アクティ森」で「ロールプレイングトリップ」で、専用のARアプリを使ったスタンプラリーを開催した。

 参加は無料。アプリの地図を見ながら散策し、アクティ森の中に隠された「マーカー(標識)」を探す。マーカーをカメラで読み取ると、アプリ上に謎キャラ「コモコモ」が現れ、「友達になる」をタップすると、コモコモのスタンプがもらえる仕組みだ。

 ARに着目した理由は、ARやVRは社会のトレンドであり、行政としてトレンドに寄せたほうが予算は取りやすい側面もあった。また、東京のメディアにはなかなか取材してもらえない静岡の小さな町でも、これぐらい斬新な企画を立ち上げれば興味を持ってもらえる考えもあったという。

 「ポケモンGO」「ハリーポッター:魔法同盟」など、世界中をフィールドにしたARゲームと比べ、森町の舞台はアクティ森という狭い世界にすぎない。しかし、このためだけに全域に無料Wi-Fiを整備し、RPG(ロール・プレーイング・ゲーム)風のストーリーまで創作した。RPGに着想したのは、ドラゴンクエストやファイナルファンタジーに夢中になった30代から50代の心にも響くと考えたからだという。

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【最新事例(4)】ARの活用はスポーツ界でも進む

 ソフトバンクは、バスケットボールの国際大会でVRやARゴーグルを使う5Gプレサービスを展開、多数のカメラで撮影した試合の映像を、VRヘッドセット、ARグラス、タブレットに転送するサービスを披露した。5Gの特徴である「高速大容量」「多接続」のメリットを生かし、テレビ視聴とは異なる、新世代の楽しみ方を提案するのが狙いだ。

 AR観戦では、観客席から実際の試合を見ながらも、視界の中でカメラ経由の映像がホログラムのように浮かび上がり、重ねて観戦できる。ARグラスの映像には、選手がシュートを決めると、「#8 八村 シュート」などのテロップを表示する。その他にも、ファウルやフリースローなど選手のアクションがあれば表示されるという。今後、シュートの確率や選手ごとの得点といった情報がリアルタイムで表示されれば、試合会場でグラスをかける意味がより出てくるだろう。

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【最新事例(5)】海外の著名アーティストもARを活用

 グラミー賞のラッパー「チャイルディッシュ・ガンビーノ」ことドナルド・グローバーが、新曲「アルゴリズム」を軸にしたARアプリを制作した。「拡張現実は現実とデジタル世界の間の壁を取り払ってくれる」とグローバーは言う。

 アプリを立ち上げると、スマホの画面に映る周囲の光景に洞窟が浮かび上がってくる。洞窟の壁を探し回り「グリフ(象形文字)」を見つけるよう指示があり、ピントを合わせると、グリフが動き出し、洞窟の地面に光線が送られる。人々が踊り、動物が走り回る。まもなくチャイルディッシュ自身のアバターが姿を現し、生き生きと踊り始める。やがて旅は宇宙へと至り、幅の広い光線が惑星と惑星の間を走っていく――。

 「PHAROS AR」と呼ばれる新アプリは、デジタル制作会社メディアモンクスが米ユニティ・テクノロジーズの3Dエンジンを使って設計したものだ。

 ユニティのエンジンを使った理由の1つは、同社の技術はグーグルのARフレームワーク「ARCore(ARコア)」と親和性が高いこと。おかげでアプリ開発者は、デジタルのオブジェクト(例えば洞窟の入り口など)を現実世界の場所と関連付ける「クラウドアンカー」を構築できるという。その結果、ユーザーはカメラを一定の場所に向けるたびに、現実世界の同じ場所にデジタルオブジェクトを見つけられる。アプリのマルチ・プレーヤー・モードでは、このクラウドアンカーのおかげで、プレーヤー全員が現実世界の特定の場所でオブジェクトを見つけ、インタラクティブにオブジェクトと接触することができる。

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【最新事例(6)】米国の小売業界でもAR活用が進む

 最後に紹介するのは米国の小売業界の事例だ。全米小売業協会(NRF)による小売事業者向けイベントNRF 2020では、ARなどを活用した店舗支援サービスが目を引いていた。

 例えば、バーコードの読み取り技術を持つスイスのスキャンディットはスマホでバーコードを読み取ると、ARを活用してさまざまな関連情報を画面に表示できるサービスを提供する。同サービスは消費者の購買体験向上と、店舗従業員のオペレーション改革の両方で活用できる可能性がある。

 まず、消費者の購買体験を向上させるための利用法について。アパレルショップなどで自分に合うサイズの在庫があるかどうかを店員に確認すると、気に入らなかった場合に断りづらいが、スキャンディットの技術を活用すれば、スマホのアプリ上で欲しいサイズを指定して、商品のバーコードを読み取るだけで、在庫がARで表示されるといったように活用できる。

 こうした機能は店舗オペレーションにも活用できる。例えば、バーコードを読み取ると店頭で表示されている価格と実際の販売価格に誤りがないかを一気に確認できるような機能や、商品ごとの在庫数を確認できるといった棚卸し作業に活用できる機能も考えられる。

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【ARの未来】ARクラウドが普及を促進する

 近年はさらにARが注目されるようになっている。米国の調査会社ガートナーが発表する、最新テクノロジーがどう社会に普及していくかを示す分析予測「ハイプ・サイクル」の19年版に「ARクラウド」という技術トレンドが登場したからだ。

 ARクラウドとは、消費者が見ている世界の姿や形を3次元でマッピングし、ビルなどの地点ごとに関連する情報とひもづけてクラウド上に一括保管し、さまざまなサービスから活用できるようにする技術。09年に登場し話題をさらった「セカイカメラ」に近い概念と言えば分かりやすいかもしれない。ポケモンGOを共同開発したNianticのVP Asia Pacific Operationの川島優志氏は、ARを活用しやすくするクラウド基盤の登場によって、今後ARの活用を考える企業が急増していくはずだとする。

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